THE PRIVATES、延原達治が語るバンドとロックンロールの30年「明日もやりたい、というのが一番」
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祝・結成30周年。久々にデビュー当時のメンバー5人が揃って制作されたTHE PRIVATESのニューアルバム『Les beat hi-fi mono』はDISC1にオリジナル曲を、DISC2に豪華ゲストを迎えたカバー集を配し、最高級のモノラル録音でロックンロールの魔法を現代に蘇らせた2枚組だ。変わり行く時代の風を感じながら、古き良きサウンドへの変わらぬ思いを刻み付ける、不易流行ロックンロールの見本のような作品。若い世代もそれなりに年齢を重ねた世代も、様々なリスナーのロック魂に火をつける熱い音がここにある。延原達治(Vo、Gu)にじっくり話を訊いた。
「俺たちにとっては全部がロックンロールだからね」
--ズバリ、30年バンドを続ける秘訣って何ですか?
延原達治(以下、延原):明日もやりたい、というのが一番かな。ライブでも練習でも何でもいいけど、盛り上がる時もあればいまいちだったと思う時もあって、いまいちだったと思う時は“明日こそは”と思うし、今日最高だったぜと思う時は“明日もまた最高な気分を味わいたい”と思うし、欲張りに明日もやりたいなと思う気持ちがメンバー全員にあったんだと思うんですね。だから本人たちは30年を目的にしてここまで来てるわけでもなく。今回そういう質問をされることが多かったんで、自分で振り返ってどういうことなのかな?と思ったりするんだけど、答えは“明日もやりたかったから”なんですよね。
--うーん。シンプルで、深いです。
延原:アイディアがある時はいいんですよ。次にこういうことをやりたいというエネルギーに満ちあふれてる時は、昨日までのことは何も気にせず進もうと思うし。で、アイディアがまったくない時は、これはまたいいもので。昨日まで、最初からやってきたロックンロールをまた明日もやろうと、それで十分じゃんという気持ちもあって。
--どっちに転んでもOK。
延原:うん。何かのウェーブが押し寄せてきたり、その時のトレンドがあったりすると、それはそれですごくいいんだけど。何も来てなくても、最初から何よりも強烈なウェーブが来て、それを受け止めてるから俺たちは、みたいな感じかな。
--いきなり余談ですけれども。僕が以前に延原さんにインタビューをさせてもらったのはもうずいぶん前、『THE PROUD HIGHWAY』(1998年)の頃なんですよ。あの時期のTHE PRIVATESは本当に面白くて、レア・グルーヴというか、クラブミュージックの踊れるサウンドにどっぷりはまってましたよね。もしかしてバンドの歴史の中では特殊な時期だったのかもしれないけど、すごくカッコよかったし、今でもあれは名盤だと思うし。
延原:あの4~5年間はハウス、テクノ、デジタルなビートの面白さが一気に押し寄せてきた時期だよね。本当に夢中になってた。
--そういうビッグウェーブは、30年間に何度かありました?
延原:うん、何度かね。一番最初はもちろんそうだし、最初の10年間ぐらいは、時代のトレンド以外にも、過去のライブラリーの中にこんなに俺たちにジャストフィットする音楽がこのカテゴリーの中にもあるのか、って思ってた。で、“俺たちにとっては全部がロックンロールだからね”という、それだけはメンバーの中で暗黙の了解になっていたから。俺たちが“ロックンロールだね”という場合は、1950年代から60年までの間に何々地方で流行ったエイトビートですということではなくて、スピリットの問題なんですよ。
--もう今は息子さんの世代のバンドもたくさん出てきていますけど、違いって感じます? その、ロックンロールに対するスピリットという意味で。
延原:それは、それぞれであるんだと思いますよ。レイジ(オカモトレイジ/OKAMOTO’S)なんか見てると、俺の十代の頃の音楽のコレクションの構築の仕方とは全然違うなと思うし。
--ですよね。
延原:レイジが高校生ぐらいで音楽を聴きだした頃に、“お薦め、貸してくれる?”って言うわけ。どんなの聴いてる?っていうと、好きなバンドを言うから、“じゃあまずこのへんはマストね”とか言いながら、毎回20~30枚渡して。しばらしくて“どういう聴き方してんの?”って言ったら、全部iPODに入れてシャッフルにして、これは!と思ったやつをチェックして、アナログで探して買ってるんだって。レコードは俺んとこにあるから聴けばいいじゃんって言ったら、いや、それはチャンのコレクションだからさって--俺のことをチャンって言うんだけど--俺は俺で自分のコレクションを作りたいから自分で買うって。
--いいですね。素晴らしい。
延原:そうすると、パブリック・イメージ・リミテッドとかを通り越していきなりカンとかさ(笑)。ジェームス・ブラウンも通らずにフェラ・クティとかに行っちゃうわけ。そういう面白さはあるよね、見てると。でもね、長い時間がたつと最終的に埋まるピースは埋まるだろうしね、パズルにたとえると。構築の仕方は俺とは違うけど、そうやって身についていくのかなと思ったりするけど。だから世代によっていろいろあって、面白いよ。たとえば“ガレージ”ってよく言うじゃん? 90年代に入ってソニックスとかが注目されて、荒っぽいロックンロールがガレージということになったけど、俺たちが最初に『ナゲッツ』とかを聴きだした頃はガレージサイケという呼び方で、60年代の13thフロア・エレベーターズとかカウント・ファイブとか、あのへんのサウンドがガレージサイケと言われてた。今回のアルバムの3曲目に「バビロンの歯車」という曲があって、できあがって聴いてる時にそれをすごい思い出したわけ。80年代のガレージサイケの手触りってこんな感じだったなって。だから、それは世代によっていろいろあると思うよ。
「俺の歌はメッセンジャーとしての歌ではなくて、観察者」
--その、今回のニューアルバム『Les beat hi-fi mono』ですけれども。DISC1がオリジナルでDISC2がカバー集で、全部まとめたコンセプトというのは、バンドの基本であるリズム&ブルース、ロックンロールを思い切りやったという感じですか。
延原:まず今回のアルバムを30周年のメモリアルにして昔を振り返ろうとか、そういう気持ちは全然なかった。オリジナルのDISC1に関しては、レコーディングの準備が始まった時点から、新しいプライベーツのアルバムを作ろうという感じでやったんですよ。でも全部ができあがってDISC1の曲順を決めて、聴いてみると、全然意図したわけでもないのに30年間の足跡が音楽になっていた。一番最初の入口だった60年代のブリティッシュ・ビートも、ガレージやフリークビートの世界も入ってるし、20代に入ってから新しく聴きだしたソウルやスウィート・ソウルもちゃんと入ってるし、ニューオーリンズみたいな香りがする曲もある。そういった意味ではノンテーマだけど、ノンテーマだったからこそ、できあがってみたら30周年にふさわしいアルバムになりましたというところがあって。
--DISC2もすごいですよね。柴山俊之、加藤義明、花田裕之、下山淳、仲井戸麗市、Dr.kyOn、ザ・クロマニヨンズのヒロト&マーシー、チバユウスケ、岡本雅彦、THENEATBEATSにOKAMOTO’s…ゲストが本当にすごい。これ、もしかして延原さんが自分で声をかけたんですか。
延原:そうそう、電話して、カバーをやるからぜひ参加してもらいたいんですって。みんなふたつ返事でOKしてくれて、うれしかったです。自分たちが30年間で知り合った最高に尊敬できるカッコいいロックンローラーばかりで、夢のような時間でした。選曲はいろいろ考えて、ブルース、リズム&ブルース、ロックンロールがいいという話になったんだけど、50年代60年代のカッコいい曲はビートルズ、ヤードバーズ、フー、キンクスとかがだいたいやってるから。だったらそのへんのバンドたちがカバーしてない曲を選んで、しかもすごいマニアックなものではなくて、マディ・ウォーターズだったらストーンズがカバーした曲と同じアルバムに入ってる曲とか、ハウリン・ウルフの代表曲だけどあんまり誰もやってない曲はどうだい?と。
--すごくいいロックンロールへの入口だと思います。今の若い世代なら、ちょっと掘れば見つけることができるし。
延原:本当に名曲ばかりだし、恐怖心はありましたよ。しかもこんなにすごいミュージシャンたちと一緒にやるわけだから、最近作った曲を十何曲もDISC1に入れて、比較されても困りますとか思ったんだけど(笑)。でも全然自信を持って並べられたから、ほっとしましたという気持ちはあります。
--DISC1のオリジナルに関しては、歌詞についてもぜひ言いたいことがあるんですよ。ロックンロールだぜ楽しいぜ、という曲がメインですけど、1曲目「エレベータNo.9」が“都会の一人暮らし”という描写から始まって、ラストの曲名が「最後まであきらめるな」で、全体を通してすごくメッセージの強さを感じたんですよ。みんなちゃんと生きてるかい?というような。やっぱり言葉の面でも、言いたいことはありますよね。
延原:うん。俺はもともとそういうことについてはシャイなほうだし、なるべく時代のことは感じたいし、常に言いたいことがある自分でいたいとは思う反面、そういうのって粋じゃないよね、という微妙なところがあったりするんだけど。でもね、とはいうものの、こんな時代に生きていて言いたいことのひとつもないなんて、それはおかしいだろ?と思うので。
--ですよね。
延原:メッセージと言ってもらったけど、メッセージという側面から言うと、俺は今回の曲を書いていくうちに、今までよりも言いたいことがはっきりした言葉で盛り込まれたなと思ったんだけど、できあがって聴いてみると、俺の歌はメッセンジャーとしての歌ではなくて、観察者だよなと。こういう時代に生きていて、こういう都会に住んで、そこにいて観察してる人の歌。俺はやっぱり、そうなるんだよね。ただ、通常だったらどこまで皮肉を入れられるか?というところに全力を尽くすのに、皮肉だけじゃ済まない時代になってきてるなという気はします。
「プライベーツは全員ロック・ミュージシャンであると同時に、すごいロック・ファン」
--そのへんは、きっと感じ取れる人は多いと思います。「最後まであきらめるな」はその象徴じゃないですか。それと、そうだ、最初に聞かなきゃいけなかったんですけど、吉田(学/key)さんっていつから復帰してるんでしたっけ。
延原:ああ、お吉さんはね、正式にバンドに復帰して俺はやるぜと言ったのは、2年前ぐらいかな。今もフルタイムでは参加できないんだけど、時間を作れる時には参加できるし、今回のレコーディングは曲を作ってリハーサルの段階では全部一緒に作ったんで。
--ジャケットに映った5人の顔を見て、おおっ!と思う人も多いと思うんですよ。特に古いファンは。
延原:俺たち自身も、気持ち的にうれしくて。バンドを続けられなくなっちゃったんだという話をした時(1991年に脱退)にも、いつか50ぐらいになった時にもう一回できるように“いつでも準備して生きていくからさ”っていう話をしたんだけど、それが本当に実現してみると、当たり前のようだけど、心のどこかでドラマチックだなと思う気持ちもあったりして。お吉さんも近くでバンドをずっと見てたし、会社の倉庫に楽器を置いて、俺だけ参加できなくて悔しいぜとか思いながら弾いてたらしいんで。だから戻ることになった時にも、メンバー4人も“俺たちのルールだからいいんだよ”って言ったんですよ。20代の頃で、まだ俺たちのルールが確立されてない頃だったら、できる時だけバンドに参加するなんて甘い考えは許さないぜって言っただろうし、本人もそう思ったからやめるしかないと思ったんだろうけど。もう今は俺たちは俺たちのルールがあるんだから、それでいいんだよって。いつも5人のステージが見たいんだというファンの人には申し訳ないけど、でも4人でやっても5人よりいいサウンド出してみせるぜって思ってるから。とってもうれしいです、5人でできて。
--延原さんにとってメンバーって何ですか? 家族ですか、戦友ですか。
延原:何だろうね? 家族とも違うし。でも誰かひとりでも欠けるとバンドはできないし、ひとりが調子悪いとみんなが調子悪くなっちゃうし、ひとりがステージの進行を勘違いしてると全部が思った通りにいかないとか、不思議な関係だと思う。仲いいし、すごい友情は感じてるんですけど、時間が長いぶんそれと同じぐらい鼻につくこともあるし。
--あはは。そうですか。
延原:ほんっとにこのヤロウは完全になめてるなとか、一回白黒はっきりさせてやろうかとか、全員が思ってると思う(笑)。仲がいいのと同じぐらい、あのヤロウだけは許せねぇというのがあってさ。そういうところを言葉にしないで我慢してたりとか、でも我慢にも限度があるんだよって、バーンとぶん殴るとかさ(笑)。おかしいね、バンドってね。
--今回の作業中には、さすがにそれはないですよね(笑)。
延原:いや、よくあるよ(笑)。スタジオに来ても針のむしろみたいで嫌だろうなとか、そのうち次は俺の番になるだろうな、とかさ(笑)。でもね、バンドをずっとやってると、時間がたてばたつほどすごく面白くなっていくんですよ。音楽のことは多少なりとも理解が深まっていくから、一番最初にバンドで集まった時には踏み込めなかった、ディテールの部分までわかるようになったりするから。人間関係の濃さのいい面も悪い面も、その音楽に添加できるのも楽しいし。あと俺たちプライベーツは全員ロック・ミュージシャンであると同時に、すごいロック・ファンで、ストーンズ、ドアーズ、フー、クラッシュ、ラモーンズとか、ロックバンドのいろんな伝説を本で読んだりビデオで見たりして“ワオ!すごいな”と思ってきて、それと同じレベルではないけれど、曲がりなりにも長い間ロックバンドを続けてると、そういう伝説の1ページが“俺たちにとってはこういうことだよな”とか、わかる時もあるから。
--プライベーツ自体がもはやひとつの歴史ですから。このアルバムが、いろんな世代に拡散されることを願ってます。
延原:ロックンロールに興味がある人は、カバーのほうも楽しめるだろうし、オリジナルのほうもけっこういい曲が揃ってるぜという感じで。もうけっこういろいろ知ってるよという人には、どうだいこういう感じ? 認めてくれよ、という感じかな。
(取材・文=宮本英夫)
■リリース情報
THE PRIVATES 結成30周年記念オリジナル・アルバム『Les beat hi-fi mono』
発売:2014年10月1日(水)
価格:¥3,000(税抜) 2枚組(Disc1:オリジナル楽曲/Disc2:50S-60S洋楽カバーセッション)
【Disc1 全13曲収録】
“Les beat” GRAND-FROG STUDIO Session
M1「エレベーターNo.9」 M2「ONE MORE TIME」 M3「バビロンの歯車」 M4「DOGGIN’ AROUND」
M5「キッスを、もう一度」 M6「リメンバー」 M7「どこかにときめき」 M8「ブギウギ一晩中!」
M9「GAKKO SHUFFLE」 M10「あいつはさかさま」 M11「誰もいない街」 M12「君が君に」
M13「最後まであきらめるな」
【Disc2 全10曲収録】
30th Anniversary Session Special R&B Hits,more R&R Greats
01.「THE MEMPHIS TRAIN」 オリジナル:Rufas Thomas 〈Guest〉Organ:Dr.kyOn
02.「I’M READY」 オリジナル:Fats Domino 〈Guest〉Guitar:花田裕之
03.「BLACK NIGHT」 オリジナル:Arthur Alexander 〈Guest〉Guitar:仲井戸“CHABO”麗市/Harp:オカモトショウ(OKAMOTO’S)
04.「ROLLIN’ STONE」 オリジナル:Muddy Waters 〈Guest〉Vocal:柴山“菊”俊之 /Harp:甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)
05.「DONNA」 オリジナル:Ritchie Valens 〈Guest〉Guitar:下山 淳
06.「HEART BEAT」 オリジナル:Buddy Holly
07.「I FEEL GOOD」 オリジナル:Benny Spellman 〈Guest〉Guitar:真島昌利(ザ・クロマニヨンズ)
08.「KOKO JOE」 オリジナル:Don&Dewey 〈Guest〉Vocal&Guitar:Takashi “Mr.PAN” Manabe(THE NEATBEATS)/Vocal:Dai “Mr.Gully” Ura(THE NEATBEATS)
09.「MOJO WORKOUT」 オリジナル:BOBBY LONG&HITS SATELITES 〈Guest〉Bass:岡本雅彦 /Vocal:オカモトショウ(OKAMOTO’S)/Drums:オカモトレイジ(OKAMOTO’S)
10.「WANG DANG DOODLE」 オリジナル:Howlin’ Wolf 〈Guest〉Guitar:加藤“Yotchan”義明(Ex.村八分)/Harp&Vocal:チバユウスケ(The Birthday)
■スペシャルサイトURL:http://wmg.jp/privates
■オフィシャルHP:http://www.privates.jp/