紅白「オワコン説」は本当か? 若手ミュージシャンの積極登用策を検証
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今年も 恒例の紅白歌合戦が大晦日に放送される。64回目となる今回の放送にはサカナクションやmiwaといった実力派若手ミュージシャンに加え、アニメ「進撃の巨人」で一躍時の人となった音楽ユニット「Linked Horizon」、さらにアイドルからはSexy ZoneやE-girls、NMB48など初出場が総勢9組となる。和田アキ子や北島三郎などの大御所も健在だが、全体をみると若い視聴者を意識したラインナップといった印象だ。これは今に始まったことではなく 「紅白の若返り」はここ数年のトレンドとなっている。
さて、盛り上がりをみせる紅白について、先日「紅白はとっくの昔に死んだ番組」という記事が注目を集めた(『NEWSポストセブン』掲載)。同記事では紅白でしか観ることのできない大物ミュージシャンがほとんどいないこと、かつて80%を記録したような視聴率がもう取れなくなってきていることに触れ「賞味期限の切れた紅白はとっくの昔に死んでいる」と論じる。確かに若手の出演が増えた分だけ大御所の出演機会は減っているし、そもそもこの時代に誰もが知るヒット曲なんてほとんど現れない。しかし若いミュージシャンの登用は果たしてそこまで批判されるべきことなのだろうか。
紅白にかぎらずNHKが若いミュージシャンを積極的に取り上げるようになったのは石原真プロデューサーの功績が大きい。担当していた『MUSIC JAPAN』では他のメディアが注目する前からアニソンやネオビジュアル系のミュージシャンをいち早くテレビに登場させた。またAKB48を活動初期から追いかけていたのも石原氏だ。いわゆる「テレビに出る=売れている」ミュージシャンだけでなく、実際に現場で若者から支持されている音楽を見つけ出し、そこにスポットライトを当てる。NHKという最大級のメジャーメディアで彼がそのような番組作りをした意義は大きい。石原氏はウェブサイト『キャリアガーデン』のインタビューで次のように答えている。「視聴率が低いことは決して喜ばしいことではないが、数字がすべてではない。自分がいいと思うものを伝えるのが僕らの仕事だと思っている」。
石原氏が残したDNAは番組を引き継ぐ若いプロデューサーにも確実に引き継がれている。今回の紅白を担当する山田良介プロデューサーもそのひとり。今回の紅白について山田氏は「世代をつなぐ話題を作る」ということを意識していて演出しているという。「紅白はテレビの前に家族が集まってクロストークができる珍しい番組。そこに存在価値があると考えている」と語る彼は出演者の並びについても以下のように述べている。「近年の音楽業界はかつてのように一つのベストテン番組のようなもので状況が分かる時代ではない。インディーズで活動されている方も、自分なりの地道な活動がベストだと思っている方もいる。いろいろな層やカテゴリーから抽出したピースを使って組み立てたのが今年の紅白歌合戦」。以前のような「誰もが知るミュージシャン」や「皆が歌えるヒットソング」だけでなく、さまざまな世代やジャンルから出演者を選んだ。その結果として若いミュージシャンが増えたのだ。筆者は個人的にこの選択が間違いだとは思わないし 、音楽業界にとってもリスナーにとっても良いことだと思っている。次代を担うミュージシャンをフィーチャーすることで音楽自体についても「世代をつなぐ」ことができると考えるからだ。
紅白は決して「役割を終えた番組」でもなければ「オワコン」でもない。むしろシーンを盛り上げていく存在としてこれまで以上に重要な役割を担っていく番組になるのではないだろうか。
(文=北濱信哉)