竹内まりやの音楽にはなぜ普遍性があるのか 最新作『TRAD』をじっくりと聴く
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竹内まりや本人、そしてプロデューサーの山下達郎もさまざまなメディアで示唆しているように、彼女の音楽の中心にあるのは“ミドル・オブ・ザ・ロード”という言葉だ。ミドル・オブ・ザ・ロードとは“万人受けする/穏やかな/中間派”という意味で、音楽ジャンルとしては“誰もが楽しめるポピュラーミュージック”ということになる。市井の人々の生活とそこに生まれる感情に寄り添い、聴くだけで何となくホッとしたり、気分が少しだけ明るくなる――『Denim』以来、約7年ぶりとなる竹内まりやの新作『TRAD』にも、そんな効果を持ったポップスがたっぷりと収録されている。
「縁(えにし)の糸」「いのちの歌」、そしてサザンオールスターズの桑田佳祐、原由子がコーラスで参加した「静かな伝説」(竹内まりや、山下達郎を含めたこの4名が楽曲制作で揃うには、山下達郎の名曲「蒼茫」以来、じつに26年ぶりだという)などのシングル曲や、松たか子に提供した「リユニオン」、松田聖子に提供した「特別な恋人」のセルフカバーなどを収めた本作。収録曲の多くは、主に女性に向けられた応援歌だ。理想とする女性への憧れと“本当の強さを身につけたい”という思いを綴った「輝く女性よ!」、たそがれてゆく人生の途中に去来する想いや夫婦の長い歴史への愛着信を描いた「たそがれダイアリー」。50代後半になった彼女の楽曲は、人生の機微をしっかりと捉え、確実に深みを増している。変化していく女性の生き方を描くことで、常に時代性と大衆性を持ち続ける。それもまた、彼女のソングライティングの特徴だろう。
“TRAD”というタイトル通り、伝統的なポップミュージックのスタイルを踏襲していることもこのアルバムの特徴だ。50~60年代のアメリカン・ポップを軸にしながら、タンゴ、カントリー、フォークソングなどの要素を交えたサウンドメイクは、決して目新しさはないものの、性別、年齢、音楽の趣味に関係なく、多くの人が素直に“いいな”と思える幅広さを備えている。当たり前のことだが、ポップス(≒大衆の音楽)はなるべくたくさんのリスナーに聴かれてこそ、存在の意味を得る。そのことを彼女は、デビューから一貫して体現し続けているのだ。
サウンドのクオリティの高さを支えているのは、メイン・アレンジャーとして手腕の発揮している山下達郎をはじめ、佐橋佳幸(ギター)、伊藤広規(ベース)、小笠原拓海(ドラム)などといった一流のミュージシャン陣。ここでも彼らは、奇を衒ったことは何もしていない。歌を聴かせるということに意識を置きながら、ひとつひとつのフレーズを吟味し、的確なテクニックとともに演奏する。そんな真っ当で地道なスタンスを続けること以外、質の高い音楽に到達する術はないということだろう。
ちなみに8月31日に放送された「山下達郎のサンデー・ソングブック」(TOKYO FM)で山下達郎は、本作『TRAD』に「Your Eyes」(原曲は’82年の山下達郎のアルバム『FOR YOU』収録)のカバーを収録するにあたり、“原曲の青山純(ドラム/’13年、56歳で死去)のプレイを打ち込みで再現した”という趣旨の発言をしていた。質の高さを徹底的に求める彼の職人的な姿勢も、このアルバムのプロダクションを支える大きな要素と言えるだろう。
多くの人が気楽に楽しむことができる間口の広さ、そして、10年、20年経っても色褪せることのない普遍性を併せ持った竹内まりやの音楽。『TRAD』は現時点における、彼女の最高傑作と言ってもいいだろう。我々はどうしても、新奇なスタイルを持ったアーティストに目を奪われがち。しかし、“ミドル・オブ・ザ・ロード”という言葉に象徴される中庸な音楽こそが、本当の意味で人生の支えになるのではないか。このアルバムを聴き返すたびに、どうしてもそう思ってしまう。
■森 朋之
音楽ライター。’00年頃から音楽誌などでライターとしての活動をスタート。現在、主な執筆媒体は「WHAT’s IN?」「CD&DLデータ」「B-PASS」「オリ☆スタ」「ナタリー」など。ロックバンド、シンガーソングライター、アイドルからK-POPまで、取材対象はジャンルレス。
■リリース情報
『TRAD』
発売:2014年9月10日
【初回限定盤】 未発表ライブ映像+ミュージックビデオ満載のDVD付き
¥3,500(税抜)
【通常盤】
\3,000(税抜)
■ライブ情報
『souvenir 2014』
11月22日(土) 広島グリーンアリーナ
11月23日(日) 広島グリーンアリーナ
11月29日(土) ゼビオアリーナ仙台
12月4日(木) 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
12月9日(火) マリンメッセ福岡
12月13日(土) 大阪城ホール
12月14日(日) 大阪城ホール
12月20日(土) 日本武道館
12月21日(日) 日本武道館
詳細:http://wmg.jp/artist/mariya/news_58587.html
竹内まりやスペシャルサイト:http://wmg.jp/mariya/