シンコペーションで“祭囃子”が聴こえる? 槇原敬之の名曲『世界に一つだけの花』が大ヒットしたワケ
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音楽プロデューサーの亀田誠治がJ-POPのヒット曲を分析するテレビ番組『亀田音楽専門学校』(NHK Eテレ)の第8回が11月21日、23時25分より放送された。
同番組は、亀田が校長、小野文惠NHKアナウンサーが助手を務め、毎回さまざまなアーティストがゲスト出演する全12回の教養番組。前回に引き続きゲスト講師には槇原敬之が登場、「フライングゲットのメロディー学」について講義した。
亀田はまず、“フライングゲット”という用語について「CDの発売日は毎週水曜日って決まっているんです。でもCDがお店に並ぶのは前の日の夕方。それを買っちゃうことをフライングゲットっていいます」と説明。今回は音の始まりをフライングさせるテクニックである「シンコペーション」について講義することを明かした。
シンコペーションとは、ひとつの音の始まりを本来の拍よりも、少し前に設定することでリズムに変化を与えるテクニックで、ジャズやラテン音楽でよく使われる。J-POPの名曲では、GLAYの『誘惑』のサビ部分や、エレファントカシマシの『今宵の月のように』の冒頭などでこの手法が使われている。
亀田は、このシンコペーションの効果を実感するために、童謡の「たきび」をシンコペーションを使って演奏してみることに。まず、メロディーパートだけをシンコペーションさせると、前のめりな演奏となり、亀田は「なんだか落ち着きがなくなってくるでしょう?」とその効果を説明。さらに伴奏までシンコペーションさせて、槇原が合わせて歌うと、曲調がグル―ヴィーなジャズになり、会場からは手拍子が起こった。亀田は、「シンコペーションを僕らは『食い』って呼んでいるんですけど、メロディーが前の小節に『食い』込むことで躍動感が生まれ、ウキウキとかワクワクといった気持ちにさせる効果がある」と説明した。
桑田佳祐の『波乗りジョニー』を分析
さらにシンコペーションへの理解を深めるため、桑田佳祐『波乗りジョニー』を題材に、講義を進めることに。同曲ではサビ「すーきだといって、てーんしになって、そーしてわらって、もーーいちど」の、各節の始まり「す」「て」「そ」「も」がシンコペーションしている。これによって亀田は、「曲に勢いがつくだけではなく、『ー』の部分に感情が込められる」と、その旨味を語った。また、同曲をシンコペーションなしで演奏すると、泊にあわせて淡々と歌うだけの曲になり、亀田は「拙い印象になる」と指摘。その効果を改めて実感できる演奏となった。
槇原が選ぶシンコペーションの名曲
槇原はシンコペーションの名曲として、まず広瀬香美『ゲレンデがとけるほど恋したい』を選曲。サビの最後「とけるほど、こーいしたい」の「こーい」の部分がもっともシンコペーションが際立っていることを指摘。同曲のシンコペーションを「一点豪華主義」として「一番言いたいことが伝わってくる」と評した。
続いては、宇多田ヒカルの『Can You Keep A Secret?』を紹介。いろんな種類のシンコペーションを織り交ぜたサビを「複雑で巧みなシンコペーション」と称え、さらに亀田は、「曲名になっている『Secret』が食っている。先ほどの香美ちゃんの曲といっしょで、歌詞とも密接な関係がある」と解説した。また、同曲のシンコペーションは、小節をまたがずに拍をまたいで食う『中食い』と呼ばれるテクニックであること、対して小節をまたぐ場合を『頭食い』といい、シンコペーションにも種類があることを説明した。また、「頭食い」には「前に飛び込んでいくようなイメージ」があるのに対し、「中食い」には曲にちょっとした違和感を与え、歌詞に気を向かせる効果があると、微妙なイメージの違いまで語った。
中島みゆきの『空と君のあいだに』では、サビの最後で「ぼくはあーくにーでもーなる」と、三連発でシンコペーションが使用されていることを指摘。なにかを渇望するような感情が強く伝わってくると解説した。同曲をシンコペーションなしで演奏した場合は、やはり淡々とした曲調になり、小野は「同情する気がなくなる」と、『家なき子』の主題歌でもあった同曲の価値が揺らぐほど、印象が変わると述べた。
槇原の名曲『世界に一つだけの花』
亀田は、槇原の楽曲にもまた、シンコペーションの名曲があるとして、槇原がSMAPに提供した『世界に一つだけの花』を紹介。「せかいーにひとーつだけーのはな」の「ー」部分などに、多数シンコペーションが使用されていることを図解し「本当に曲の作りが上手」と称した。同曲をシンコペーションなしで演奏すると、とうとうと説教をするような印象になり、会場からは笑いが起こった。
また、この楽曲で「中食い」を多用した理由について槇原は、「SMAPはみんな個性があって楽しい人たちなので、あまり四角四面なメロディーでいくよりも、自由な感じを出したかった」と、その意図を語った。さらに、サビのリズムを抜き取ると、「エンヤートッド」などのお囃子に近いことが判明。同曲が広く受け入れられたのは、日本人の根底にあるリズム感を想起させるからでは、との推測もされた。
番組の後半では、亀田がベース、槇原がピアノ&ベースを担当するスペシャルバンドで『世界に一つだけの花』を演奏。シンコペーションの躍動感を堪能できるパフォーマンスを披露した。
亀田は総括として「シンコペーションは、感情のほとばしりですよね。にも関わらず、『エンヤートット』で、またリズムを整えたり……。こういう音楽を作れるJ-POPってすごく素敵な構造物だな、と再認識しました」と語って締めた。
『亀田音楽専門学校』、次回11月28日の放送では「ダメ押しのメロディー学」について講義する予定だ。
(文=編集部)