浅利陽介は『コード・ブルー』の“扇の要”だーー空気を読まないキャラクターの重要性
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ドラマ『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~THE THIRD SEASON』(フジテレビ)も8話目が終わり、残すは2話だけとなった。
参考:浅利陽介が語る、チームの中でのポジション 「『コード・ブルー』の箸休めになれば」
セカンドシーズンで冴島はるか(比嘉愛未)は、事故で恋人を失った。そんな冴島に藤川一男(浅利陽介)が、この7年間しっかりと寄り添ったのであろう。関係を育み、そして妊娠が発覚するところからサードシーズンは始動した。
そんな冴島は、今シーズンの第3話においてドクターヘリ内でのアクシデントに遭遇し、意識を失ってしまう。病院のベッドで再び意識を取り戻した冴島は、「目を覚ましたとき、わたし最初、誰のことを想ったと思う?」と藤川に問い、藤川が「俺?」と答える。冴島は、お腹の中にいる子どものことを想い、出産のためにヘリを降りる事を決断して行くのだが、ここで間違えて「俺?」と答えてしまうところにこそ、藤川一男というキャラクターの特徴があると感じた。そして同時に、この群像劇のドラマにおいて、“扇の要”を担っているのは藤川だと感じたのである。
ドラマではときに、登場人物同士がおたがいの考える「正義」をぶつけあうことがある。特に『コード・ブルー』のような医療ドラマでは、自分の知性や腕に自信のある医者同士がぶつかることが多い。そのため基本的に、それぞれに考えは深く、意見も鋭く、そして正論を述べるのである。
藤川以外のドクターである藍沢耕作(山下智久)、白石恵(新垣結衣)、緋山美帆子(戸田恵梨香)は、基本的に“間違えない”人物である。少なくとも本人たちは、自分の考えに自信を持っており、間違っているとは思っていないだろう。
そんな中、浅利陽介演じる藤川一男だけが、軽やかに間違いを犯す。空気を読み違えた行動や発言をすれば、「あなたは黙ってて」と突っ込まれてしまうこともある。逆に言うと、あまり気を遣ってもらえないことこそが、藤川と言うキャラクターの魅力である。
日常においても、いつも正しくて、その意見を否定しづらい人はいるだろう。そして、そういう人は意識的にせよ、無意識的にせよ、独特の緊張感を周囲に感じさせるものだ。そういう人物と接する際、空気を読み、黙って話を聞いていれば、関係性が壊れることはない。だがそこに、良い意味で空気を読まずに意見を述べることができて、しかもなお、自ら進んで軽やかに間違いを犯すタイプの人物がいるとどうだろう? 多くの場合、関係性が壊れるというより、集団内の緊張感が解かれ、より風通しの良い関係性が再構築されるのである。
軽やかに空気を壊すことができる人間は、ドラマにおいても重要だ。藤川のようなキャラクターがいることによって、対極にあるシリアスなシーンがより引き立つからである。しかし、空気を壊す役というのは、実は案外難しい。シリアスなシーンの空気を壊しつつも、ドラマ全体の空気は壊さないというバランス感覚が求められるからだ。
空気の読めない役を演じるためには、演者は人一倍、空気を読まなければならないのである。浅利陽介氏はインタビューで、「監督に『低い声で僕に“いくぞ”と言ってください』とどうでもいい演出をお願いして『なんでだよ!』と総ツッコミをされる」と答えていた。きっと、普段から現場での人間関係を大事にしているのだろう。
そんな浅利氏が演じる藤川がいるからこそ、藍沢や白石や緋山といった個性的なドクターたちが衝突を繰り返しながらも、ギスギスし過ぎない絶妙な空気感を保ち、チームがまとまっているのではないだろうか。(登米裕一)