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リリー・フランキーが振り返る、アイドル歌謡曲が市民権を得るまでの20年史

音楽

ニュース

リアルサウンド

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 「ザンジバルナイト2013」主催者のリリー・フランキー氏が、同イベントの詳細から自身の音楽観、文化観までを語り尽くす集中連載第3回。

 最終回となる今回は、氏が20年ほど前に主催していたアイドルイベント「IBM」と当時のアイドルシーンについて、さらには氏が考える文化のあり方について語ってもらった。

第1回:「フェスはただの音楽鑑賞会じゃない」リリー・フランキーが考える“理想のフェス”とは?
第2回:初期ビートルズ、藤圭子、パンク……リリー・フランキー流の“音楽の楽しみ方”とは?

――ザンジバルナイトには、でんぱ組.incやNegiccoなどのアイドルも出演しますが、ほかにリリーさんが注目しているアイドルは?

リリー・フランキー(以下、リリー):実は俺、昨日(8月22日)東京ドームで初めてAKB48のコンサート観たんだけど、やっぱりすごいなって思った。俺、AKB48の曲はものすごく高純度のポップスだと思っていて、大好きなんだよ。

――リリーさんは昔からアイドル歌謡曲がお好きですよね。

リリー:今でこそアイドルの曲を聴いていても社会的になにも言われないけど、20年以上前はアイドルの曲を聴いているだけでオタク扱いをされていたから、大変だったよ。当時、俺はIBMっていうアイドル歌謡曲だけのDJイベントをずーっとやってきたんだけど、その時は相当冷たい目で見られた時代だったね。まぁ、良い時代でもあったけど。

――当時の状況を詳しく教えてください。

リリー:当時、歌謡曲をかけるDJイベントをやっている人たちはいたんだけど、それは昔の歌謡曲がメインで、今の曲はかけていなかったんだよね。いわゆる懐古主義に陥っていて、今のものは蔑視していて昔のものは認めている、という感じだったんだ。でも、それじゃ面白くないし、かといって今のアイドル歌謡曲をかけるイベントを、いわゆるオタク的な人たちが集まっているところでやっても、結局は内輪ウケに過ぎないじゃない。だから、あえて渋谷のインクスティックっていうクラブでアイドル歌謡曲のイベントをやってて。当然ながら最初はまったく客が来ないわけ。でも、続けていくうちに「なんか、のりピーのセカンド、キテるんじゃねぇ?」みたいなことを言う人が出てくる。

――少しずつ理解が広がっていったと。

リリー:やっぱり市民権を得ていない音楽って敷居が高いんだよね。AKB48だって最初はそうだったわけでしょ。で、そういう新しい音楽が認められるには、仕掛けがいるものだと思う。たとえば、クラブとかライブハウスみたいな、いつもと違う場所で聴いたら急に良く聴こえたとか、誰かの一言の説明を聞いた瞬間、その音楽が輝き出したりすることってあるでしょ。だからこそ、アイドル歌謡曲のイベントをクラブでやることに意味があったわけで。

――クラブで聴いたことによって、アイドル歌謡曲の良さに気付いた人がいた。

リリー:結局、みんなそんなに自分の感性に自信なんか持っちゃいないんだよ。雑誌を読んだり、ネットを見たりするのだって、ほとんどはただの確認作業でしょ。自分の感性が間違っていないかどうか、確認しているだけ。それで、新しい文化を理解するきっかけになるのなら、良いことだと思う。イベントだって、同じようなものだと思う。だから、そういう意味ではIBMのコンセプトと、今回のザンジバルのコンセプトって近いんじゃないかな。文化のいろんな側面が楽しめるからね。

――ザンジバルナイトの根底には、IBMがある?

リリー:直接は繋がっていないけど、流れは汲んでいるかな。今回ザンジバルに出演する吉田豪は、20歳くらいの頃、IBMでDJやっていたからね。そんな豪は今、一番アイドル音楽に詳しい人になっている。自分のアイドルのコンピ盤とか何枚出しているかわからないくらい。

――掟ポルシェさんもアイドルDJをされています。

リリー:掟くんのDJもすごく良いよね。もし今でもIBMをやっていたら、確実に誘っているDJ。でも、そうなってくるとDJがバカばっかりになってくる危険性があるんだ(笑)。もう、こればっかりはしょうがないよね。センスのいいヤツって、世間的な目で見るとバカに見えるものだから。

――そういう方がお好きなんですか?

リリー:やっぱりバカのふりしているヤツのほうが遠慮があるよね。俺これ知っているんだ、とか、俺こういう風にセンス良いんだぞって顔しないじゃない。で、新しい文化っていうものは、そういう人たちが広めていくものなんだよね。だって今、AKB48とかももいろクローバーZが一般的に語られるようになったけど、アイドル歌謡曲が市民権を得るまでに、彼らがどれだけ語ってきたか。宇田丸くんや吉田豪なんかが、BUBKAの片隅なんかでアイドルについて語っていたけど、それでも世の中にはジワジワ伝わっていくものなんだよ。

――BUBKAの隅っこは、サブカルチャーの情報が充実していました。

リリー:今はネットがあって誰でもメディアを持ちやすいけど、ちょっと前、雑誌しかなかった時は、カコミの400文字くらいの連載でも良いから、ひとつ、本当に自分の思ったことを書く場所を持つのが、メディアをやる人間にとって重要なことだったんだ。ページの大小は関係なく、それこそが本当のメディアだ、という風潮すらあったと思う。たとえ月に一本しか連載がなくても、雑誌に連載ができるということは、すごく誇らしいことだったんだよね。だから、その400字のために、激しく推敲する。当然、良い原稿ができた。でも今は、書きたいだけ書けるからね、駄文も増えるよ。かといって、ネットで書いている人が下手というわけではないんだけど、いわば全員が物書きとしてのオーディションを受けている状態だから、無尽蔵に情報がありすぎて、本当に面白い文章を書く人が見つけにくくなっちゃったよね。だって俺、びっくりしたもん、世の中の人がこんなに文章書きたがっているとは思わなかったからね。

――光る逸材が埋もれる可能性が高まったと。音楽でも同じような現象はありますか?

リリー:CD一枚作るのにも、金がかからなくなったからね。たとえば、俺にとってのアイドルの定義って、やっぱり歌を歌っている人で、大勢の中から選ばれた人がなるものだった。90年代前半くらいまではアイドルと呼ばれる人は100%歌っていたからね。音楽も込みで、夢中になれる存在だった。でも今は、誰でもプロデューサーになれるし、誰でもアイドルになれるようになった。そうすると、ふざけた大人が作ったどうしようもないコンセプトのグループも出てくるし、良くない曲も増える。今みたいな状況が続くと、たくさんいるアイドルが、一気にガサっと消えてしまうような気もするね。そんな状況も含めておもしろいけど。

――玉石混交が過ぎて、玉まで飽きられる可能性がある。

リリー:でも、ネットがある時代のカオス感は、逆に面白いとも思う。だって今、音楽にしか興味がないっていう人、少ないでしょ。アイドルも好きで、お笑いも好きで、もちろん音楽も好きでっていうのが普通。だんだんと、文化の垣根がなくなってきたというか。だから今、時代を切り取ったイベントをやろうと思ったら、いろんなジャンルから光る人を集めて、カオスな感じにしたいんだよね。同じような人が集まっている感じじゃなくて、知らない文化に偶然出会えるようなイベント。少なくともザンジバルナイトは、カオスで刺激的なイベントだと思うよ。

zanzibal.jpg2013年9月21日(土)
東京都 新木場STUDIO COAST
OPEN 14:00 / START 15:00
出演者
アリーナ・ステージ(ライブ)
小室哲哉 / スチャダラパー / OKAMOTO’S / でんぱ組.inc / and more
テント・ステージ(トーク&ライブ)
みうらじゅん&リリー・フランキー / 吉田豪&杉作J太郎 / どぶろっく / マキタスポーツ / 渡辺大知(黒猫チェルシー) / 星屑スキャット(ミッツ・マングローブ、ギャランティーク和恵、メイリー・ムー)
プール・ステージ(ライブ&DJ)
Negicco / ウクレレえいじ / Charisma.com / 掟ポルシェ / ピエール中野(凛として時雨) / and more
テレビ・ステージ(トーク)
大根仁 / and more
フードコート
Coming Soon

ザンジバルナイト公式HP

(取材・文=マツタヒロノリ、写真=金子山)