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「楽曲派」アイドルファンに告ぐ! Especiaの鮮烈な一撃を受け止めよ

音楽

ニュース

リアルサウンド

 昨年、あるアイドル・フェスへ行ったとき、観客の中に「楽曲派」と大きく書かれたTシャツを着ている人を何人か見かけた。気になってTwitterで調べてみたが、「楽曲派」は特に強い政治的勢力を持つ大きなセクトという訳ではなく、アイロニカルなアイドル・ファンの青年たちがシャレで製作したネタTシャツだったようだ。

 私はそのフェスでいくつかの魅力的なグループを観て、それはそれで大変楽しかったのだが、同時に「今日はなんだか同じような曲をたくさん聴いたなぁ」という疲れもあって、アイドル・ポップスの品質について少しネガティブな気分だったので、そのTシャツにハッとした。おぉ、「楽曲派」か……。

 そもそもアイドル・ポップスを聴くときに、人々は何を求めているのだろう。可愛い女の子たちの姿を見たいというだけなら、そこに音楽は不要だ。写真集かDVDがあればいい。ライブは握手会か写メ会でいい。実際にほんの6年ほど前まで、「アイドル」といえば「グラビア・アイドル」のことだったではないか。「アイドル」=「グループで歌う女の子たち」というイメージが定着したのは、PerfumeやAKB48がアイドル・ポップス復権の狼煙を上げた2007年以降のことだ。

 じゃあ「可愛い女の子たちが集団で歌っていればどんな曲でもいいのか」と考えると、やはりそこに一定のクオリティが求められる。ただ、私がアイドル・フェスで疲れてしまった原因は、いわゆる「アイドル・ソング」にデフォルトで装備されている約束事のダサさだった。その場で初めて聴く新曲でも「ミックス」と呼ばれる掛け声やメンバーの名前のコールを入れやすいように、構造が様式化している。イントロのコード進行で曲の展開が最後までだいたい読めてしまうことが多く、それはまるで演歌のように形骸化していて、どの曲も同じに聞こえる。「ヲタ芸派」であればそこが魅力なのだろうが、「楽曲派」には退屈だ。アイドル・ポップスには、どの程度高い音楽性と多様性が求められるべきなのか……。「楽曲派」という言葉に、私は深く考えさせられた。

 もちろん、楽曲のクオリティで高い評価を受けているアイドル・グループはたくさんある。

 東京女子流はいつも丁寧なアレンジのアッパーなファンクを聞かせていて、リリースのたびにそのサウンドの先鋭化が話題になる。新潟のローカル・アイドルだったNegiccoが全国区になったのは、地元のクリエイターconnieの絶妙なトラック・メイクによるところが大きい。2012年に「散開」してしまったTomato n’ Pineこそ「楽曲派」の代表格で、唯一のアルバム『PS4U』は「ミュージック・マガジン」の年間ベスト(歌謡曲/Jポップ部門)1位に選出されたほどだ。新興勢力である「BELLRING少女ハート」は、プログレッシブ・ロックとエバーグリーンなガール・ポップの融合を図るかのような実験的な楽曲が魅力的だ。

 そんな中で、「楽曲派アイドル」の最高峰と呼ぶべきグループを紹介したい。大阪を本拠にしている、「Especia」(エスペシア)だ。

 Especiaは大阪のお洒落スポット・堀江(大阪市西区)を拠点にした6人組のガールズ・ユニットで、12年にリリースした『DULCE』、今年5月リリースの『AMARGA-Noche- 』、『AMARGA -Tarde-』の3枚のCDで全国に鮮烈なセンセーションを巻き起こし、また9月にシングル「ミッドナイトConfusion」を発売したばかり。

Especia『ミッドナイトConfusion』(つばさレコーズ)

 Especiaの楽曲は、スティービー・ワンダーやタワー・オブ・パワーなどの70年代ファンクを下敷きにしたような爽快なホーンやカッティング・ギターのアレンジが特徴で、ボズ・スキャッグスやカフェ・ジャックスなど少しひねくれた粘っこいコード展開のAORや、音色のチョイスにはアシッド・ジャズの影響も感じられる。フュージョン・コンシャスという点では、DORIANや(((さらうんど)))など最新のシティポップにも通じる。実に渋く、かつ、キラキラ輝いていて、圧倒的にダンサブルで、とにかくカッコイイのだ。

 80年代に同じようなアプローチのガール・ポップはたくさんあったように思う。小林泉美や二名敦子といったトロピカルなイメージのシンガーや、杏里や泰葉のヒット曲を思い出す人もいるだろう。AOR路線のガール・ポップというと八神純子や川口雅代、少しおとなっぽい印象だが門あさ美なども今聴くとなかなかファンキーだ。Especiaはこれらのテイストをアイドル・グループというスタンスで演じているのが新しい。

 また、世代によっては、後期の東京パフォーマンスドールやLip’s、中野理絵といった90年代初頭のアイドルを想起するリスナーもいるだろう。ハウス・ミュージックやヒップホップが歌謡曲に引用されはじめた時代、大きなムーブメントにはならずセールスとしては不遇だったかもしれないが、練りに練った上質なサウンド・プロダクトが確かに存在した。

 ダンス・ミュージックとアイドルの融合という点で、島田奈美の功績が大きいことも記しておきたい。90年のアルバム『I LOVE YOU > YOU DO』はサンプリングを多用したアイドル・ファンクの名盤で、今こそ再評価されるべきだ。しかし、Especiaのトリッキーで鋭角的なブラス・アレンジには、島田奈美の偉業さえ吹き飛ばすような破壊力がある。

 さらに固有名詞を並べると、Especiaの音にもっとも近い過去のアイドルはGWINKOだと思う。87年から94年ごろに活躍した沖縄生まれのキュートなシンガーで、かのアクターズスクール出身タレントの第1号であったGWINKO。ブラック・コンテンポラリーをアイドル・ポップスに敷衍したパイオニアで、安室奈美恵やSPEEDなど沖縄出身アイドルが進撃する布石を打った。

 大いに懐かしい名前を羅列してみたが、正直、これらをすべて聴いたあとにEspeciaを聴いたとしてもまったく遜色がなく、Especiaが描く渚のきらめきやアーバンな夜景には一切の陰りがない。そう考えると、少しおおげさだが、Especiaは史上最強の「ガールズ・シティポップ・ユニット」と言ってもいいかもしれない。

 ただ、最後にひとことだけ辛口なことを書くとすれば、彼女たちのルックスに楽曲ほどのきらめきを感じない、というか、まぁ……とても可愛い女の子たちが一生懸命に歌い踊ってはいますが、「アイドル」と呼ぶにはあまりに普通というか、うーむ。

 今ちょっとひどいことを書いてしまったので、言い直そう。「楽曲派アイドル・ファン」の魂を揺さぶるEspeciaは、もはや「アイドル」という範疇で語る必要がないほど、ガール・ポップ・ユニットとして至高の存在で、今もっとも輝いているグループ。マスト・チェックです!

●プロフィール
山口真木(やまぐち・まき)
大阪出身の27才、OL。ポップスとロックと女の子をこよなく愛する。何かに毒づいてばかりの思春期まっただ中。父親が出張で毎月上京するのですが、そのたびにデートの誘いが激しくて困ります。何が楽しくて土曜の昼間から父親と二人でスーパー銭湯行ってアカスリされなきゃいけないのか…。と思ったら肩も背中もスッベスベ! アカスリ最高やん! おとーさん来月も行こな!