秋元康と中田ヤスタカの作詞術はどう違う? プロデューサーが生み出す言葉を読み解く
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修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zoppによるインタビュー連載。ヒット曲を作詞家目線で切り取り、歌詞の面白さやポップな表現に隠れたテクニックなどを徹底分析していく。前編【きゃりーぱみゅぱみゅと小泉今日子の歌詞の共通点とは? 作詞家・zoppがヒット曲を読み解く】では、きゃりーぱみゅぱみゅと小泉今日子の共通点や、同音異義語の使い方などの作詞術を解説。後編となる今回は、中田ヤスタカと秋元康という、現在のJ-POPを支えるプロデューサーが生み出す歌詞を読み解いた。
「秋元さんはメロディを倒すくらいの勢いで詞を作っている」
――中田ヤスタカさんがこれまでプロデュースしてきた曲の歌詞には、どういったイメージがありますか?
zopp:「王道なんだけどアンドロイド」みたいな感じが新しいなと思います。情景や心象の描写は恋愛をモチーフにした話が多くて、同世代の女の子が普通に思うようなことを歌っているんですけど、アクセントになっているのは設定ではないでしょうか。中田さんの作る先鋭的なポップソングがあってこそだと思うのですが、歌詞の中に登場する女の子は、普通の人間ではなく、極めて人間に近いアンドロイドのようなものではないかと感じることがあります。映画では“ロボットが感情を持つことで愛に目覚めていく”というプロットが、有名なものだけでもいくつか存在しますが、中田さんのプロデュースする楽曲はこれに近く、アーティストのビジュアルイメージやビデオクリップのせいもあると思うのですが、Perfumeは無機質なロボットのように、きゃりーさんは、宇宙から来たお姫様のようなパブリックイメージを根付かせる要素が歌詞にも見て取れます。もちろんこれは見た目や音のプロデュースを含んでのことなので、トータルで世界観を統一できるプロデューサー・中田ヤスタカさんの手腕が素晴らしい、と同時に職業作家からすると羨ましくもあります(笑)。
――ひとりのプロデューサーや固定されたクリエイティブチームが手掛け続けるという利点ですね。
zopp:他方で、作品によって歌詞や曲の書き手を変えるアーティストも多く、毎回新しい一面を見せるという意味では素晴らしい見せ方ですし、作詞家としてはありがたいことだと思います。しかし毎回、違う人が書くと、聴く側も1回1回の楽しみで終わってしまうんです。でも、ひとりなら同じ世界観でずっと書き続けられるし、「実はこれって、あの曲の主人公なんだよ」とか「3作前の主人公が振った相手が今回の主人公なんだ」という伏線のような使い方もできますよね。
――その点では、秋元康さんがAKB48グループで行っている“作詞だけは必ず行うが、作曲者は毎回変える”という中間のやり方もありますね。
zopp:秋元さんのほうが圧倒的に言葉のパンチ力がありますよね(笑)。音ノリよりも言葉を重視してるというか。中田さんは音ノリ重視で、あくまで曲作りやアレンジありきのように受け取れます。秋元さんの場合は、あくまでも歌詞がメインで、作詞家としてメロディを倒すくらいの勢いで詞を作っているように感じ、その傾向は昔も現在も変わらないと思います。たとえばAKB48の「ヘビーローテーション」なら、<いつも聴いてた favorite song>という部分。文字にすると分かりにくいかもしれませんが、「fa vo ri te song」という音の置き方をしていて、「なんてのっけ方をするんだ!」と驚愕しました(笑)。コンペ式で音を集めて、曲を決めてから歌詞を乗っけていらっしゃるのですが、秋元さんは音に乗せるというか、言葉に音がついてくる。これはあくまでも僕の予想ですが、もしかしたら秋元さんは、思いついた言葉に合わせて、メロディを足したり減らしたりできるんだと思います。中田さんは作詞・作曲を両方やっているので、いい言葉が思い浮かんだら、たぶん、逆にメロディを足してる。自分の曲なら許されますしね。
「サビにはタイトルになる言葉か、歌詞を通して伝えたいことを入れる」
――この二人だからこそという部分も大きいのかもしれませんね。
zopp:ぼくたち職業作家は、与えられたメロディの数を守るというのがプロとして最低限の仕事だと思っているので、それは許されないんですね。それがこの2作品の比較というか、この二人とほかの作家の違いだと思います。普通なら「いや、君は作詞の仕事さえしっかりしてくれればいいから」と言われますから(笑)。
――秋元さんの歌詞で、他に気になるものはありますか。
zopp:最近ピンと来たのは、乃木坂46の「何度目の青空か?」です。もちろん曲として非常にすぐれているということがあるのですが、<校庭の端で反射してた 誰かが閉め忘れた蛇口 大事なものがずっと 流れ落ちてるようで 風に耳を塞いでいた>という一文の<端で>や<反射してた>に、主人公の学校内での立ち位置を上手く表現していますし、一曲を通して作詞をする人はこれを参考にすればいいのにという綺麗な物語性がある。乃木坂46はAKB48に比べると、比較的に詩的な歌詞が多いという印象もありますし、「君の名は希望」と同じ視点に思えますね。普通に生きていても<何度目の青空か?>という言葉は使わないし、思わないことをわかっていて、歌詞の中ではその“わからない人”の視点からしっかり表現している。
――タイトルも捻っていて、つい歌詞を見たくなる感じですね。
zopp:「これはなにを言いたかったんだろう」と思うと、つい歌詞まで見てしまうので、そこはすごく大事でしょうね。「制服のマネキン」はタイトルもそうですが、サビのフレーズで使われている<恋をするのはいけないことか?>や<若過ぎる それだけで 大人に邪魔をさせない>に驚きました。これも「なんてったってアイドル」に通ずる、秋元さんならではのタブーの入れかたですよね。作詞クラブでは、よく「サビにどういうフレーズを入れればいいんですか?」という質問がありますが、基本的にはタイトルになる言葉を入れるか、歌詞を通して伝えたいことをワンフレーズで入れたほうがいいと教えています。「暴力反対」とか「私は君が好きです」とか、そのふたつの要素がサビには入ってないとダメだよ、と絶対に言いますね。
――J-POPとしては、どこがサビかわかることも重要なんですね。
zopp:そうですね。それと近年の音楽はサビ至上主義でもあるので、さらっと始まると聞き流してしまう。ここ最近、音楽を聴く人がすごく減っていると言いますが、電車の中でイヤホンをしている人は多い。これって、好きな曲だけを垂れ流して聴いていると思うんですよ。そういう状況で、街で曲をプロモーションしたときに、いかに印象を残すかというのが、曲のサビや頭のところの強さなんですよね。サビにタイトルになる言葉が入っていたほうがいいのは、聞いた曲をどこかで字面で見たときに、リンクするから。作詞クラブで宿題を出したときに、タイトルになった言葉が歌詞のどこにも出てこない人もいます。その時に「なぜ入れないの?」と訊くと、生徒から「映画とかでも本編にタイトル出てこないことって、あるじゃないですか」と反論されたりするんですが、「いや、そんなことはない。絶対にどこかに出てきてる。見過ごしてるか聞き過ごしてるかだけで、どこかにタイトルを思わせるフレーズとか、タイトルがキーになって物語が開けたりするから」と投げかけています。
「尾崎豊さんに検索順位で勝てるわけないですから(笑)」
――あと、近年だと「ネットで検索して初めの方に出てくるかどうか」も大事なのでしょうか。
zopp:「I LOVE YOU」とか、尾崎豊さんに検索順位で勝てるわけないですからね(笑)。僕らプロの作詞家は、タイトルを決めたらたいてい検索して、被らないようにしています。作詞家を目指している若い子によく言うんですが、若者は時間というハンデが圧倒的にあるわけです。たとえば、秋元さんはぼくらより30年近く長く生きているわけで、その時間を埋めることはできない。だったら、自分が得意なことをやるのがベストではないかと思います。近年、作詞家として活動している方はほとんどが何かの仕事と兼業だったりします。なので、今までの自分の人生や職業を生かした歌詞を書けば個性に繋がると思います。それと、時流を掴むことも大事だと思います。昔、ぼくが家族で住んでいたマンションの横に三浦徳子さんという有名な作詞家さんが住んでおり、母とすごく仲が良かったのですが、三浦さんは必ずファミリーレストランで歌詞を書いていたそうです。ファミレスはお年寄りも子供も高校生の話も聞けるので、そこにいるだけで話のネタがいっぱい入ってきますし、大半の方は何かを食べに行くというより話をしにいく場所だったりするので、勝手に世間でいま何が起こっていて、どういう時流が来ている・来ようとしているのかがわかる。そういう心がけも大事なんだと思います。そういう意味では、阿久悠さんは王貞治を題材にしてピンクレディーの「サウスポー」を作るなど、曲に時代の背景が反映されていますよね。
――言葉を乗せにくいメロディについてはどう解釈しているのでしょうか。
zopp:K-POPの潮流などにあるダンスビートを軸にしたポップスは、言葉の強さよりメロディにどれだけ乗っているかが重要になるので、作詞家としても歌詞で使える言葉が制限されてしまい、レパートリーも少なくなるので難しいですね。そのなかでは少女時代やT-araが個人的に秀逸だなと思います。たとえば少女時代の「FLOWER POWER」は、一聴すると言葉の座りが良い造語のように聴こえますが、慣用句で「愛と平和」とか「愛による社会変革」という強いメッセージ性がある言葉になる。同じものでT-araの「Roly-Poly」は「起き上がり小法師」という意味だけど「ロリポリ」と言葉にしたとき座りも良いし、「くびったけ」という意味の「Lovey-Dovey」も、「ラビダビ」という愛称で親しまれています。日本人にはなじみが少ないけど、韓国のアーティストは英語で韻を踏んだり、擬音語・擬態語みたいなのをとくに使う傾向があります。最近は日本でもSTYさんやH.U.Bさんなど、英語を得意にする作詞家さんも増えてきていますし、ダンスビートでも中田さんとは違った日本ならではの歌詞が書ける人が次々と現れるのかも。作詞家にとってはここがいま勝負すべきフィールドなのかもしれませんね。
(取材・文=中村拓海)