GRAPEVINE、移籍後初シングルで掴んだ“新しい感触”を語る 「理想のバンド像に近づいている」
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GRAPEVINEがレコード会社移籍第一弾シングル『Empty song』をリリースする。彼らがレコード会社を移籍するのは、メジャーデビュー17年目にして今回が初めて。心機一転となる本作は“ストレートなロック”を意識して制作されたという骨太のロックナンバーに仕上がっている。今回リアルサウンドではメンバーの田中和将(V&G)、西川弘剛(G)、亀井亨(Dr)にインタビュー。ニューシングルの制作過程と現在のバンドの状況について聞いた。
「僕らなりの真っ直ぐな歌のつもり」(田中)
――ニューシングル「Empty song」はダイナミックなロックチューン。レーベル移籍第一弾であることは意識していましたか?
田中和将(以下、田中):うん、そうですね。移籍するにあたって、レコーディングまわりのスタッフも変わりますし、レーベルの方々といっしょにやっていくわけですから。担当のA&Rの方ともいろいろと話をしながら作っていこうとは思っていましたね。その人も「移籍第一弾なので、熱いのを一発お願いします」ということを言ってたんですよ。
――今回はそのリクエストに応えよう、と。
田中:まあ、「目論見通りの曲ができるかどうかは、わかりませんよ」という前提ですけどね。そのときに僕らが作っていた曲のストックを聞き返してみたら、わりと渋いものばっかりだったんですよ。
西川弘剛(以下、西川):ここ最近の僕らの感じですよね。ストックと言っても試作品みたいなものですけど、そのなかに“ストレートなロック”みたいな感じの曲はなくて。
田中:アップテンポな曲もほぼなかったから、「ジャムりながら曲を作ってみますか」ということになって。
――GRAPEVINEの場合、ストレートなロックと言っても一筋縄ではいかないような気がしますが…。
田中:そうですね(笑)。ただ、せっかくいろいろとアイデアや意見をもらえるわけだから、それを受け入れて、トライしてみようと思ったんですよね。
亀井享(以下、亀井):うん。
田中:まずはA&RのスタッフがGRAPEVINEに持っているイメージを聞かせてもらって、そのうえで「こういう感じの曲をやってみたらどうですか?」という視点をいただいて。
亀井:ふだんはテーマも何も決めずに「じゃあ、やってみますか」って何となく作っていくことが多いので、なかなか的が絞れないこともあるんですよ。でも、今回はわりとテーマがはっきりしてたから、取っ掛かりやすかったんですよね。もちろんストレートなロックの捉え方も人によって違うとは思うんだけど、大きな方向は同じだったので。
田中:実際、そこそこ暑苦しい曲になりましたからね(笑)。
亀井:いろんな意見を聞きながら作ったんだけど、“自分たちらしさ”みたいなものも出てると思うし。おもしろいですよね、そこは。これがスタッフが思うストレートなロックかどうかはわからないですが。
西川:いろいろと(アレンジ的な)仕掛けもあるんですけど、歌モノというか、メロディが残るのも“らしい”のかな、と。何も考えずに作ったら、これだけ歌が熱い感じにはならなかったと思うんですよね。
――確かに田中さんの歌が軸になってますよね、この曲は。メロディを立たせるという意図もあったんでしょうか?
田中:そこまでメロディを立たせようと思っていたわけではないんですけどね。けっこう“あれよあれよ”っていう感じで出来たので。
――でも、キャリアを重ねるにつれてボーカリストとしての意識も高まってる印象もありますが。
田中:うん、そこはずいぶん変わってきたと思います。簡単に言うと“自覚が出てきた”っていう言い方になるのかな。それだけで説明できているかはわからないけど、つまりはそういうことだと思います。もともとボーカリストではなかったし、初期の頃は自覚も足りてなかったですからね。
――「Empty song」というタイトルも、GRAPEVINEらしいですよね。ストレートなロックをテーマにしても、どこかにシニカルな視点が入っていて。
田中:まあ、僕らなりの真っ直ぐな歌のつもりなんですけどね。ハジけた明るい感じではなくて、どちらかと言うと切羽詰まったヒリヒリした曲じゃないですか。そのなかでどんな内容を歌うか?って考えたときに、移籍第一弾というのもあるし、いままで自分たちがやってきたこと、これからやっていくことを剥き出しで表現できたらいいなと思ったので。
「“何も考えずにやさぐれてる”感じにしたかった」(西川)
――やはりレコード会社の移籍はバンドにとっても大きな出来事だったんですね。
田中:そうですね。あと“せっかくこういうタイミングなんだから”って自分を焚き付けてるような感じもあったと思います。この状況を逆手に取るっていうわけでもないんですけど、関わる人が変わったら、いろいろと変化も生まれるだろうし。自分たちだけで籠って作るのとは違いますよね、やっぱり。
西川:活動の環境自体はあんまり変わってないんですよ、正直言って。今回のシングルも僕らの作り方でやらせてもらったし。ただ、移籍先が決まるまで2~3か月くらい時間があったから、そのブランクの間にそれぞれ考えたことはあると思いますけどね。
――活動の方法については、いろんな選択肢があったと思うんですが…。
西川:そういう話もしましたけどね。僕らはずっと同じマネージャーといっしょにやってきたんですけど、「ぜんぶ任せきりだったんだな」ということも露呈してきて。そういうことも影響してるんじゃないですかね、今回の曲に向かう気持ちとしては。
亀井:リスタートというか、仕切り直しみたいな感覚もありましたからね。
――そのブランクの間も、曲作りは続けてたんですか?
西川:いや、何もしてなかったです。個別には何かやってたかもしれないけど、バンドとしての作業は完璧に停止してたので。
――不安はなかったんですか?
西川:なくはないですけどね。心境しては、昼間、公園をブラブラしてるおじさんみたいな感じです(笑)。「この人、昼間から何やってんだろう?」っていう。メンバーやマネージャーとたまに喫茶店で会うだけですからね。
田中:そうね(笑)。ミーティングする場所もないから、喫茶店に集まって。
西川:「これじゃダメだ!」みたいなことを言う人もいないので、みんなでお茶を飲んでるだけなんですけど(笑)。
――ものすごく無責任な言い方ですけど、こちらから見ると「GRAPEVINEみたいにライブが良いバンドは、絶対大丈夫」みたいなところもあるんですよね。
西川:どうなんですかね? 僕らだけではやれないので…。支えてくれる人がいる限りは続けようと思いますけどね。
――では、シングルの話に戻って。2曲目の「KOL(キックアウト ラヴァー)」はギターのアレンジが斬新ですよね。
田中:この曲も「Empty song」と同じ時期に作ったんですよ。
西川:ガレージっぽいイメージのロックが作れないかと思ったんですよね。欠落しているがゆえの破壊力というか、何も考えずにやさぐれてる感じにしたくて。なかなか欠落してる感じが出なくて、苦労しましたけどね。どうしてもちゃんとしちゃうんですよ(笑)。
亀井:“抜き”の感じがおもしろいですよね。以前は音を足していきがちだったんですけど、ここ何年かで、ようやく音を抜くっていう感覚がわかってきた気がします。
――新しさという意味では、「Empty song」よりもこちらのほうが強いような気もしますが。
田中:そう、僕はどちらかというと「(シングルには)こっちがいいんじゃないか」って推してたんです。ありそうでなかった感じの曲だし、わりと明るいので。まあ、その判断はレーベルに任せようと最初から思ってたんですけどね。
――そして3曲目の「吹き曝しのシェビィ」はダークな雰囲気のミディアムチューン。ロードムービー的な雰囲気の歌詞を含めて、これもGRAPEVINEらしさだな、と。
田中:自分っぽいなとは思います。曲のストーリーも歌詞の書き方も、個人的に好きな感じなので。
――自分の思いを歌うよりも、情景を描くほうに興味がある?
田中:そっちのほうがグッとくるんだと思いますね。その明確な理由はわからないですけど、まあ、好みじゃないですか(笑)。
「“そうじゃないとダメ”っていうのは良くないなって」(田中)
――シングル全体を通して、GRAPEVINEのスタイルが明確に示されていると思います。流行にもまったく左右されていないし、本当に自分たちのスタイルを貫いているバンドだな、と。
田中:そんなにカッコいいものではないですけどね。スタイルを貫こうとか、むしろまったく思ってないので。自分たちの枠みたいなものがあるとしたら、それを出来る限り広く使いたいので。まあ、何かしたらスタイルもあるんだろうけど、それを言葉にするのは難しいですね。
――音楽的な目標みたいなものもない?
田中:うーん…。目指しているイメージはあるんですよ、自分のなかには。理想のバンド像みたいなものというか。それに近づいている感覚もあるし。
――西川さんはどうですか?
西川:理想みたいなものはないですけどね、もはや(笑)。もともと明確なビジョンを持っていたバンドでもないし。「長く続けたい」という話はしてましたけど、「あのバンドみたいになりたい」っていうのはまったくないので。
――最近の若いバンドは、コンセプトをはっきり決めてることが多いと思うんですよね。「こういう音楽性で、こういうキャラクターで、こんな活動方針で」って。
田中:そういう時代なのかもしれないですけどね。パッケージをはっきり決めたほうがやりやすい感じもあるんだろうし。
西川:でも、そうやって決めてる段階で、物別れに終わったりしないんですかね?
田中:あるんじゃないですか?(笑)
西川:実際に音を出すまでが大変そうですよね。まあ、しっかりデモを作り込んだりしてると、ビジョンを明確にしたくなるのかもしれないけど。
田中:そういう傾向はあるかもね。デスクトップで何でもできるから。
西川:ウチは相変わらず、スタジオに入って“あーだこーだ”やってますからね。
田中:そういう意味では、前時代的ですね。昔からよくいるようなロックバンドです(笑)。
西川:コンピューターもたくさん使いますけどね、いまは。「ここからここまで、全部ナシ」とかもすぐ出来るし。以前はいちいち演奏して「ここが違う」って確かめてたから、ものすごく時間がかかってたんですよ。
田中:あれは大変だった(笑)。曲作りはずいぶんラクになりましたね。
――ちょっと話がズレてしまうかもしれないですけど、田中さんはイベントやフェスなどで「盛り上がる曲は一切やりません」って言うことがあるじゃないですか。あれは何か意図があるんですか?
田中:いろんな意図があるんですけどね。まず、実際に盛り上がる曲が少ないから、それに対する言い訳がひとつ。あとは盛り上がる曲ばかりやってる人たちへのアンチテーゼもあるし、そういう曲ばっかり喜ぶ客に対する皮肉もあります。盛り上がるのは悪くないと思うんだけど、煽ったり乗せたりして、盛り上げたかどうかで評価が下されたりすることもあるので。ステージにいる演者側も、そういうパフォーマンスを良しとしているところもあるし。“そうじゃないとダメ”っていうのは良くないなって、いつも思うんですよね。
――なるほど。GRAPEVINEは「もっと盛り上がる曲があったほうがいい」っていう話にはならないんですか?
田中:いや、なりますよ(笑)。
亀井:ハハハハハ。
田中:ただ、そういう曲の球数がホントに少ないんですよね。
――レコード会社の移籍をきっかけにして、新しいテイストの曲も出てくるかもしれないですね。
田中:そうですね。シングルに引き続きアルバムも作ってるんですけど、おそらく、いまままでとは違う感触になりそうなので。
亀井:うん。おもしろい曲がけっこうあると思いますよ。
(取材・文=森朋之)
■リリース情報
『Empty song』
発売:2014年11月19日
【初回限定盤(CD+DVD)】
VIZL-737
¥1,800(税抜)
〈初回限定DVD〉
1.「IN A LIFITIME」LIVE at SHIBUYA AX 2014.05.19 – presented by 名盤ライブ –
1.いけすかない 2.スロウ 3.光について
2.VIDEOVINE Vol.1
〈収録曲〉
1.Empty song
2.KOL(キックアウト ラヴァー)
3.吹曝しのシェヴィ
【通常盤】
VICL-36976
¥1,200(税抜)
■ライブ情報
『GRAPEVINE club circuit 2014 supported by uP!!!』
11月22日(土) 東京 EX THEATER ROPPONGI
『Ticket PIA 30th Anniversary 「MUSIC COMPLEX 2014,winter」~supported by uP!!!~』
12月17日(水) 東京 豊洲PIT
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■Label http://www.jvcmusic.co.jp/speedstar
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