アイドルから松崎しげるまで……意外なプロデュースワークに見る亀田Pの「真の武器」
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楽曲ヒットの裏にはさまざまな要因があるとしたら、そのひとつは間違いなくプロデューサーの存在だ。そして昨今のJ-POP界で、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中のプロデューサーといえば、この人、亀田誠治。昨年はNHK Eテレ『亀田音楽専門学校』に出演したり、映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』で、劇中歌の製作を一手に引き受けたりと、彼の名前を目にする機会も多かったわけだが、何より本業のプロデュースワークでは、手がけたアーティストは20組以上。この数字がいわゆる一般の音楽プロデューサーにとって、多いか少ないかは別として、その作業量はやはり相当なものになるはず。名実ともに、日本を代表するプロデューサーの一人といえよう。
これまでに本当に多くのアーティストを手掛けてきた彼だが、その歴史を紐解くと、中には現在の彼からするとちょっと意外に感じるような名前もチラホラ。そのひとつがアイドルや声優アーティストたちだ。例えば、1989年~1994年に活動していたCoCoにはデビュー直後から関わっており、参加楽曲は20曲以上にのぼる。初めて編曲に参加したというシングル『夏の友達』は、アイドル感満載の1曲。当時の楽曲らしいキラキラしたアレンジが印象的だが、そのひとつひとつに『亀田音楽専門学校』内で話題にしていた“キメ”や“転調”が活かされ、“亀田節”の教科書的な楽曲だったことがわかる。
声優アーティストの中で、亀田が長らく関わっていたのが國府田マリ子。編曲の大半に携わっていたのはもちろん、ライブではバックバンドのベーシストとしても参加していた。今でこそ、当たり前となった声優の歌手活動だが、亀田が関わっていた90年~00年初頭と言えば、ちょうどその動きが活発になってきた、いわば黎明期。この時期のJ-POP界はエイベックス系クラブサウンドと、ミスチル等のロックバンド勢がチャートを席巻していた時代だったが、声優アーティストたち(及びそのファンたち)には王道の歌モノ人気が高かった。そんな背景の中、数多のアイドルたちの楽曲制作経験を経てきた、キャッチーなアレンジは、ニーズに見事合致。メロディックなベースラインも際立ち、以降のさまざまなタイプのアーティストプロデュースに繋がる点も多い。
一方で、既存の楽曲のアレンジを手掛けてもいる。そのひとつが松崎しげるの「 愛のメモリー 2012 ver.」(!)。楽曲の発売35周年を記念して、さまざまなバージョンの「愛のメモリー」がおさめられている『愛のメモリー(発売35周年 アニバーサリーエディション) [Single, Maxi]』中の1曲となっている。ピアノが印象的なイントロから、ホーンや弦楽器を使ったサビは、「2012ver」と銘打っているだけに、今風のテイスト。JUJUやアンジェラアキなど、亀田プロデュースの女性アーティストが歌うバラードのアレンジによく似て、ゴージャス感が増している風でもある。誰もが知る有名曲を新たな手触りに生まれ変わらせる。それもまた高い技術の賜物だろう。
曲調だけでなく、時にはアーティストのイメージすらガラっと変えてしまうことができる--プロデューサーの役割とはそれだけ大きなものだ。そんな中でこれだけ引く手あまたとなれば、その理由はテクニックだけではないはず。亀田と仕事をした多くのアーティストは、インタビューの中で「物腰の柔らかい、魅力的な人」などと語っているが、その人間性こそがもうひとつの要因だと思われる。そしてそれを裏付けたのが、昨年開催されたライブイベント「亀の恩返し2013」。スピッツ、スガシカオ、いきものがかりなど日本の音楽界を代表するトップアーティストたちが、亀田を慕いレコード会社の垣根を越えて集結し、イベントは大成功を収めた。こんな風にアーティストと強固な信頼関係を築けること、そしてそれぞれに合わせて、絶妙のプロデュースワークを展開できること、さらには日本人の心に響く耳馴染みのよい“亀田節”。各所で発揮される柔軟で器用な立ち回りこそ、プロデューサー・亀田誠治の真の武器であるように思う。
(文=板橋不死子)