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“ゲーム化”する夏フェスで、Perfumeはいかにして勝ち上がったか

音楽

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リアルサウンド

 国内最大級の夏フェス『ROCK IN JAPAN FES. 2013』(以下RIJ)が、8月2日〜4日の3日間、茨城県ひたちなか市・国営ひたち海浜公園にて開催された。昨年は3日間で過去最多となるのべ17万4000人を動員した同フェスだが、今年はさらにそれを上回るのべ17万7000人の動員を記録する大盛況。名実ともに日本最大級の野外フェスとして巨大な成功をおさめている。

 なかでも今年、大きな注目を集めたのが、3日間の大トリをPerfumeがつとめたこと。他にもBABYMETALやでんぱ組.inc、9nine、BiSなど多くの女性アイドルグループが出演を果たし、話題を呼んだ。一部では「アイドルブームに媚びた」などというアンチの意見もあったようだが、実際に足を運んでそこにある熱気を体感した人は、そういう表層的な批判が全くの的外れだったことがわかるだろう。

 何よりPerfumeは圧倒的なステージを見せてくれた。国内最大級の夏のロックフェスのヘッドライナーを引き受け、数万人の観客を魅了した彼女たち。その「偉業」の本当の意味を知るためには、まずはRIJがフジやサマソニなど他のフェスとは全く違う力学で動いている特殊な夏フェスであることから語らなければならない。

 RIJの特殊性とは何か? いろんな側面があるが、まず大きな特徴はブッキングがもたらす物語性にある。計6つのステージはそれぞれ大きさが異なり、なかでも6万人収容可能のメインステージのステータス性が非常に高い。そして、多くのアーティストは複数年出場を果たしている。そうするとどうなるか? 出演者に「次はもっと大きな場所で出たい」「来年はもっといい時間帯でステージに立ちたい」という欲求が生じるのだ。実際にMCやインタビューでそういう発言をするミュージシャンも少なくない。例えば、デビューしたばかりの新人バンドはまずキャパの小さなテントに出演し、そこで喝采を浴びて客を集めれば、次はより大きなステージにステップアップする。さらにその次はメインステージに立つ。そうやってバンドが「フェスの場で勝ち上がっていく」風景が可視化される。つまり、RIJは約150組の出演陣がメインステージのヘッドライナーを目指す一種の「ゲーム」として設計されているわけである。

 もちろん、そのゲーミフィケーション的な構造が完成したのはここ数年のこと。2010年代に入ってからの新しい傾向だ。00年代中盤はまだサザンやミスチルや矢沢永吉のような国民的な人気を持つアーティストがヘッドライナーをつとめていた。しかし昨年の2012年に3日間の大トリをつとめたのは、それに比べて世間的な知名度では遥かに下回る3ピースバンドのACIDMAN。それでもチケットはソールドアウト。このことが証明したのは、もはやRIJはヘッドライナーが誰かによって動員が左右される他フェスとは違う盤石の動員体制を築き上げたフェスであるということ。そして、そこのトリをつとめるのは、RIJのお客さんを熱狂させ、主催者側に評価され、「フェスを勝ち上がった」アクトなのである。

20130806shiba3.jpg本日8月6日(火)より、「チョコラBBスパークリング」(エーザイ)の新イメージキャラクターとしてテレビCMに出演中のPerfume。CMには、ニューアルバム『LEVEL3』に収録される新曲「Party Maker」がCMソングとして起用されている。『LEVEL3』の発売は10月2日(水)。

 ちなみに、『Mステ』を観ていると若手ロックバンドの紹介に「夏フェスで入場規制!」みたいな煽り文句がつけられることが多い。そのことも、上に書いた構造の一つのあらわれになっている。普通に考えれば「入場規制」という言葉はお客さんがステージを観れないマイナスの意味合いになってもおかしくないが、RIJというゲームにおいては、その言葉は出演者が次の機会にもっと大きいステージに立つことを意味する。だから基本的にポジティブな意味合いで捉えられる。「入場規制」と「人気沸騰」という二つの言葉が、ほぼ同義になっているわけだ。

 さて、そういう独自の構造を築き上げたRIJにおいて、Perfumeはどんな存在だったのだろうか? 実は彼女たちはRIJに5年連続出演を果たしている。初出場は2008年。2番目の大きさのステージへの朝イチの出演である。その時点では、本人たちも、オフィシャルサイトのレポートも、アイドルグループのロックフェスへの出演を「アウェー」と表現していた。しかしそこで入場規制の盛況を記録し、翌年からはメインステージに昇格。2010年と2011年は昼、2012年はトリ前と、順調に時間帯を夜に近づけていく。5年間をかけて彼女たちはアウェーの場をホームグラウンドにしたわけである。

 そうして大トリをつとめた2013年。この日のPerfumeは、そういう「ロックフェスで勝っていったアイドルの物語」を強く意識させるセットリストだった。2013年発表の新曲「だいじょばない」に続けてブレイク前の2006年にリリースした「エレクトロ・ワールド」を披露した流れが象徴的。さらに、アンコール最後の曲「Dream Fighter」の前に、あ〜ちゃん(西脇綾香)はこんなことを語った。

 「今のマネージャーは、私たちが売れなくてクビになって広島に帰る寸前に信じて繋ぎとめてくれた人で、そのマネージャーと一緒にここに来れて嬉しいです。誰よりもイモっ子だった私たちがこんなところまで来れるという曲をやります」

 その言葉はとても感動的だった。Perfumeのステージは「こんなところまで来れた」3人の物語を数万人が共に体験するもので、その一体感が強力な物語性をもたらしていた。彼女たちにとっても、RIJというフェスにとっても、いろいろな意味で記念碑的なステージになったと思う。

 そして、話は冒頭に戻る。今回のRIJに多くの女性アイドルグループが出演した意味もここにある。この日出演したBABYMETAL(Perfumeの事務所の後輩)や9nine(西脇綾香の実妹がメンバー)をはじめ、今回のフェスに出演したアイドルグループにはPerfumeをロールモデルにRIJのメインステージを目指す物語のイメージが強くインプットされたはず。ロックバンドだけでなく、アイドルグループもまた「フェスを勝ち抜く」ゲームに参戦するようになった。そのことが、2013年のRIJのブッキングが持つ大きな意味だったわけである。また、今年初めて声優・坂本真綾が出演し好演を見せたことも、同じように数年後への伏線となる可能性がある。

 RIJのメインステージの収容動員は6万人(公式発表)。東京ドームのキャパが5万5000人なので、フィールドを埋め尽くす群衆をステージの上から見渡した光景としては、すでにRIJのメインステージはあらゆるフェスやコンサートを含めても日本最大級のものになっている。Perfumeがそのヘッドライナーを引き受け、公演を成功させたことは、3人やファンだけでなく、アイドルシーンの未来にとっても大きな意味を持つ「偉業」だったと言えるのではないだろうか。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter