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“キラキラ映画”に変化訪れる? 新たな監督たちの参戦と、主題の多様化

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リアルサウンド

 昨年と比べ、大幅に公開本数が減った“キラキラ映画市場”。ここでいうキラキラ映画とは、主にティーン層の観客をターゲットとした作品群のことだ。この中でも筆者は、“少女マンガが原作であること”と、“学園生活を舞台に文字通りのキラキラとした恋愛模様を描いたもの”を「キラキラ映画」と定義づけている(おそらく多くの方がこの手の作品を想起するだろう)。昨年の公開作であれば、『センセイ君主』『honey』『ママレード・ボーイ』『青夏 きみに恋した30日』『ういらぶ。』などがこれに当たる。

 ここで筆者の思う“キラキラ映画=学園が舞台の少女マンガ原作映画”というものから、純粋に“ティーン層向けの映画”と捉え直してみると、この2019年はその流れが大きく変わってきたように思える。

【動画】『町田くんの世界』オーディションの舞台裏

■少女漫画実写映画を職人的に手がける監督たち

 今年公開された筆者の思う正当なキラキラ映画には、『L・DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』と『午前0時、キスしに来てよ』などが挙げられる。前者は2014年に公開され、“壁ドン”ブームの火付け役ともなった『L・DK』からキャストを一新して実写化された作品だ。タイプの違う二人の男子に一人の女子高生が翻弄されるという筋書きは、まさに王道だといえる。後者では、ごく普通の女子高生の前に国民的なスターがまるで“王子様”のように現れ、禁断の恋が展開していくというものであった。誰もが思い描く“憧れ”を作品化したものとして、こちらも王道だといえるはずである。

 両作には、簡単に見出すことができる共通項がある。それは前者は、前作に引き続き、『きょうのキラ君』(2017)などの川村泰祐が、そして後者は『潔く柔く』(2013)、『ひるなかの流星』(2017)などの新城毅彦が監督を務めており、この並びから分かるように、この手の作品を職人的に手がけてきた者がメガホンを取っているということだ。筆者のようなキラキラ映画ファンからすれば安心な布陣だと受け取ることができるが、そうでない方からすれば、食傷気味な“安全パイ”といったところなのではないだろうか。

 これはほんの一例で、ほかにも三木孝浩監督や廣木隆一監督、古澤健監督に神徳幸治監督などが少女マンガが原作の映画を職人的に仕上げており、筆者もつねに彼らの新作を楽しみにしている。

 だが今年、この穏やかに流れていた川に、大きな一石が投じられた。山戸結希監督が『ホットギミック ガールミーツボーイ』を、石井裕也監督が『町田くんの世界』を手がけたのである。山戸監督は、2016年にすでに少女マンガ原作の『溺れるナイフ』を撮っているし、10代の少女を物語の中心に据えることで浮かび上がってくる主題は、彼女の過去作から今作まで通底しているように思う。それでありながら、やはり彼女の“映画の文法”を逸脱した作品づくりや詩情あふれる言葉と映像の奔流は、先に述べた職人監督たちの作品とは大きく異なるセンセーショナルなものとして迎えられたしだいだ。劇場で面食らった方も多いのではないか。

 一方、話題の小説を原作としたものから自身のオリジナル企画、はたまた、最果タヒによる詩集を基にした『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』まで、実直に人間ドラマを撮り続けてきた石井監督は、主人公こそ超・新人を起用したものの、脇には高畑充希、仲野太賀、池松壮亮、戸田恵梨香、佐藤浩市、松嶋菜々子といった現在の映画界の中核を担う人材を配し、よりドラマ性の強い作品を展開。映画だからこそ実現しうる脚色も見られ、そのメッセージ性の強さには、中高生以上に大人の方が多く唸っている印象であった。両監督とも、ターゲットを若年層に絞っているというわけではないのだ。むろん、筆者がキラキラ映画に夢中であるように、その“見方”を変えれば年齢に関係なく楽しめるものではあるのだが、それに触れるのはまたの機会にしたい。

■ライトノベル、4コマ漫画、楽曲……を原案としたキラキラ映画

 ティーン層を中心にヒットした作品は、今年ほかにどんなものがあっただろうか。まず『君の膵臓をたべたい』などを手がけた月川翔監督による、『君は月夜に光り輝く』がこの一群に挙げられるだろう。どちらとも、高校生の恋愛と死をテーマにしたライトノベルが原作の作品だ。“ライト”とあって、原作そのものが若年層に受け入れられやすいというのが大きなカギとなっている印象である。

 SNS漫画家・世紀末による“4コマ漫画”を原作とした『殺さない彼と死なない彼女』も、その作品ビジュアルからしてキラキラ映画の系譜に連なるのだろう。ところがフタを開けてみれば、そこでは“自分の居場所”を求める者たちの普遍的な物語が展開。原作からの脚色や、作品テーマと映画製作の手法の合致、若い俳優陣の演技の妙味など、さまざまなギミックが施された作品となっていた。普遍的な物語と上質な仕上がりの作品とあって、口コミをはじめ、年齢を問わず広がりを見せたのだ。

 また、MONGOL800による同名楽曲が原案の『小さな恋のうた』も、このくくりに入る作品かもしれない。本作は恋愛を主体とした作品ではないが、こちらもそのビジュアルからして、いかにもティーン層向けな印象を広く与えていたように思う。しかし、澄み渡る青空のように爽やかな青春模様の下には、沖縄の米軍基地問題や文化の違いによる壁など、思春期の若者たちの揺れ動くアイデンティティとともに根深い問題が提起されていた。

 さて、ここまで足早に2019年の“キラキラ映画市場”を振り返ってみたが、劇中で描かれるパターン化していた若者たちの姿が、より多様化してきたと思える。誰かの死は、たんに恋愛を盛り上げるエピソードではなくなったし、少年少女の眩しい姿は、観る者に改めて社会問題を問いかけることもある。こうしてみると、劇中の若者たちの姿というよりも、作品の主題そのものがより多様化してきているのではないか。もういよいよ観客も作り手も、たんなる恋愛モノに退屈しているのかもしれない。だが同時に娯楽である映画くらい、外界と遮断された劇場という空間で、わいわいキャッキャと若者たちの恋愛模様を眺めていてもいいのではないかという思いもある。ともあれ、キラキラの源泉はあちこちにあるようだ。2020年の“キラキラ映画市場”の動向をチェックし続けたい。

※『L・DK』の「・」はハートマークが正式表記

(折田侑駿)