声優・神谷浩史は、『進撃の巨人』『夏目友人帳』真逆キャラをどう演じ分けたか?
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20年以上のキャリアを誇り、男性声優の中でも安定した活動と人気を見せる神谷浩史。最近では『宇宙戦隊キュウレンジャー』(テレビ朝日系)でのアフレコも話題になった神谷だが、もちろんアニメ作品にも毎シーズン引っ張りだこだ。今期でも『進撃の巨人』Season 2でリヴァイ役、『夏目友人帳 陸』で主人公・夏目貴志役など、注目度の高いキャラクターを担当している。
リヴァイと夏目は、ともにシリーズ作品の主要キャラということでファン人気も高いが、方向性が大きく違うこの2キャラクターを神谷が同時に演じているという点でも大変興味深い。ただでさえ少年漫画原作と少女漫画原作でそれぞれまったく異なる世界観の中、神谷は対照的なキャラクターをどのように演じ分けているのだろうか。
1994年のデビュー以降、数多のアニメ作品に出演し、声優アワードで最多得票賞を5年連続受賞して殿堂入りするなど、男性声優として不動の地位を築いてきた神谷。これまでにも多種多様なキャラクターを演じてきたが、今回のリヴァイを筆頭に、“ドSキャラ”のハマりっぷりにはとりわけ定評がある。過去に演じた『デュラララ!!』の折原臨也や『黒子のバスケ』の赤司征十郎なども、そうしたクールなキャラクターだ。また、神谷自身、ラジオやイベント出演時には仲のいい小野大輔ら共演声優を容赦なくいじるため、“ドS”な性格と称されることも多々。しかし、あくまでもそれは距離の近さゆえ。小野との仲良しエピソードも多く、ファンからは「ツンデレなのでは」とも言われている。
ドSキャラの王道をいくようなリヴァイは、一見神谷にはぴったりな役どころかと思える。しかし、放送開始当初は賛否両論あった。リヴァイは特に人気の高いキャラだったため、原作ファンを中心に、「声がイメージと違う」といった批判も見受けられたのだ。だが、これは連載期間の長い漫画が映像化される際には、逃れられない宿命でもある。しかし、放送を重ねるにつれ、神谷の声色に慣れてイメージも馴染んでいったのだろう。そうした批判は少なくなり、むしろ“神谷リヴァイ”の人気は右肩上がりとなっていった。リヴァイから神谷を知ってファンになったという視聴者も目立ち、リヴァイは神谷を代表するキャラクターとなったのだ。
そうしたクールなリヴァイと対照的なのが、いわゆる“優男”な夏目だ。物語を通して緊張感が続く『進撃の巨人』に対して、ほのぼのとした田舎風景の中、夏目と妖(あやかし)たちが心あたたまる交流を繰り広げていく『夏目友人帳』。2008年から放送をスタートし、現在で第6期を迎える人気シリーズ作品ということもあって、夏目もリヴァイ同様、神谷ファンからの人気が高い傾向がある。
ただ、改めて両キャラクターの演技を聞き比べてみた結果、声色にはそれほど大きな違いは感じられなかった。役ごとに声色を使い分ける声優も少なくないが(ニャンコ先生役・井上和彦のように)、今期の神谷の場合、どちらかといえば抑揚で変化をつけている部分が大きいのだろう。派手に演じ分けるというよりも、声自体に柔軟性があるのではないだろうか。その繊細さが彼の魅力となっているし、それでいて視聴者に真逆の印象を植え付けるのだから驚きである。神谷の声は、ちょっとした調子の変化で光にも影にもなるうるのだ。
『進撃の巨人』と『夏目友人帳』という、異なる世界観を持つ作品が照らしだす、神谷のふたつの顔。夏目を“デレ”と呼んでいいかは少々悩ましいものの、今期ではある種“ツンデレ”的な神谷の二面性を堪能できる。
■まにょ
ライター(元ミージシャン)。1989年、東京生まれ。早大文学部美術史コース卒。インストガールズバンド「虚弱。」でドラムを担当し、2012年には1stアルバムで全国デビュー。現在はカルチャー系ライターとして、各所で執筆中。好物はガンアクションアニメ。Twitter