DEEP GIRL涼川ましろ&プティパ篠崎こころ&エリボンnatsuki、作詞家・zoppから“プロの作詞術”を学ぶ
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アイドルが投稿した写真に対して、ユーザーが“CHEER=応援”することでアプリ内のランキングが決定し、上位アイドルには雑誌掲載や街頭ビジョン出演など、様々な特典が与えられる、アイドルによる写真投稿アプリ『CHEERZ』。今回は、近年自らのグループで作詞を手がけるアイドルが増えたことや、それらのメンバーが一芸を身につけることで活躍の場が広がっていることから、同アプリとリアルサウンドの合同企画『アイドル作詞講座』を実施。当サイトで連載「ヒット曲のテクニカル分析」を持つ作詞家・zopp氏が講師役を務め、イベントへの出演権を巡る投票で上位に輝いた、DEEP GIRLの涼川ましろ、プティパ -petit pas!の篠崎こころ、エレクトリックリボンのnatsukiの3人に課題の添削やアドバイス、作詞のコツを教えるレクチャーなどを行なった。(編集部)

――まずは授業の前に、3人が作詞に興味を持ったきっかけを教えてください。
涼川ましろ(以下、涼川):私の場合は、グループの前作(「I kill」)でメンバー全員が作詞をしたのですが、そこで言葉選びに迷って、上手くメロディに載せきれず“語り”になってしまった経験があって。そのときは1週間くらいかかってしまったので、「もっと作詞を勉強したい」と思ったんです。
natsuki:私は音楽だけでなく文学も好きで、日本語のもつ「同じ表現でも違う言い回し」みたいな表現の豊かな部分に面白さを感じていました。それがさらに音楽に乗っていると、もっと響いてくるし、作詞という作業が自分に合っていると思うんです。最近はグループだけじゃなく、信岡ひかるちゃんに詞を提供することもあって、もっとしっかり作詞を勉強したいと思って。でも私、普段はお酒を飲まないと歌詞を書けないんです(笑)。ここで勉強して、しっかり書けるようになりたいですね。
篠崎こころ(以下、篠崎):私はグループの楽曲を作詞する中で、自分の世界観に偏りを感じていて。書く詞のメッセージが一辺倒だし、「人生悩まず進もう」みたいな、教訓っぽいものが多いんですよ。なので、今日勉強したことを踏まえて、そのマンネリを打ち破りたいと思っています。
――3人の作詞力を試すため、事前に『童謡「どんぐりころころ」の音に合わせ、「食べ物」か「しつけ」の話で別の歌詞をつける』というzoppさんからの課題に取り組んでもらいました。まずは涼川さんの詞を見ていきましょう。

涼川ましろ作「野菜がいっぱい☆」

涼川:私は『野菜としつけ』をタイトルに、野菜を食べられない子に、おいしく楽しく野菜を食べることを薦めるというテーマで作詞しました。
zopp:今回のテーマをふまえると、“子どもに伝わりやすいこと”が重要なので、そういった意味では「にこにこ」や「ころころ」といった擬音語を上手く使っていることは評価したいですね。ただ、「食べましょう~」といったように具体的な指示は、嫌がられる傾向にもあるので、どちらかというと、ひとつの物語みたいなものを作って「食べた方がいいのかも」と感じさせるような内容にすると、よりいい歌詞になるかもしれませんね。あと、出てくる野菜がピーマン・トマト・きのこ・にんじんなのは何で?
涼川:自分が嫌いな食べ物だからです(笑)。
zopp:なるほど。それでも問題はないですけど、より多くの人に届けることを考えると、図書館やネットでリサーチをして、「子どもが嫌いな食べ物ランキング」のようなものから、信憑性のある3つくらいを参考にするほうがいいかもしれないですね。
涼川:確かに、そのほうが共感する子どもは多いかもしれないです!

natsuki作「いただきますの歌」

zopp:この歌詞の良いところは、必ず決まったところに決まった言葉があること。「ごはんのじかん」で始まって、「みんなで仲良くいただきます」で終わる。子どもって、沢山の物事を一度に理解できないので、大事なことはなるべく繰り返してあげるほうがいいんです。J-POPでも、複雑な歌詞よりは繰り返しが多く口ずさみやすいものが流行するという傾向もあります。もっとも、安易に繰り返すと「手を抜いている」という印象になってしまうこともあるので、そう思われないようなテクニカルさを加えることも必要ですよ。
――全体として、改善したほうが良い点はありますか?
zopp:あまり悪いところはないんですけど、唯一挙げるとすれば、インパクトが薄いんですね。今の形は保ちつつ、もう少しファンタジックな要素をいれてもいいかもしれません。たとえば、主人公が野菜の王国に行って、トマトの王女様がさらわれちゃって、それをピーマンの戦士と一緒に助けに行ってという、そんな歌でもいい。子どもにはもっと何か大げさな夢を見せてあげたほうが食べたいと思えるかもしれません。ここまでの2人は、「それをもっと間接的に言ったら素敵なのにな」という感じでしょうか。

篠崎こころ作「ゆめへのうた」

zopp:さっき自分でも“説教くさくなってしまう”と言っていた通り、「内容がカタい」ですね。歌う内容もですが、言葉自体もカタい。<小さい頃から夢を持ち>の「持ち」って小さい子は使いませんから。
篠崎:そうですね。自分でもわかっていたのですが、小さい子に教えるもの……と考えても、なんだか難しくなっちゃって……。
zopp:この認識違いって、今回のテーマが子どもを対象にしたものだからわかりやすいんですよ。例えば相手を20代女性にすると、人格のバリエーションが多すぎて、どこをターゲットにしていいのかを絞り切れない。その点、子どもの共感できるものはある程度決まっているし、基本は「楽しいものや、難しくないもの」が好きですね。この後の講義でも話しますが、歌詞にはファンに向けて上から「ついて来いよ!」と叫ぶアーティストタイプのものと、聴き手の横に寄り添うようなクリエイタータイプの2つがあって。僕のようなクリエイタータイプは、やはり一人でも多くの人が聴いてくれるようなものを作ることが重要なんです。

――多くの人に伝えるためには、どんなことに留意すればいいのでしょうか?
zopp:自分が思っている歌詞の内容が100だとして、受け手が理解できるのは50だとします。そこで自分のメッセージを50まで削るのも違うし、受け 手に100まで理解することを求めるのも間違っていて。だったらどうするかというと、いかに75のところに落とせるかという、折衷案で考えるしかないんです。それがいわゆる僕らの考えた「ちゃんとリスナーの気持ちになって書いてあげる」ということだと思います。そういう意味で篠崎さんは、「ライブに行ったとき、歌ったときに、子どもたちがこの歌を歌って笑うのかな」という風に考えて作ることをオススメします。
篠崎:確かに、それは考えて作ってなかったですね……。ありがとうございます!

zoppによる作詞講座レポート
ここから涼川・natsuki・篠崎の3名に対し、zoppによる歌詞の書き方講座がスタート。まずは3人の目指す歌詞が“アーティストタイプ”か“クリエイタータイプ”のどちらかをヒアリングし、その中間の歌詞を目指すべく授業を行なうことを明かした。

続けてzoppは作詞に大事な要素として「テーマ」「メッセージ」「コンセプト」の3つを挙げ、今回添削した課題では、そのうちの「テーマ」がすでに規定されていたとコメント。そのうえで3人が書いた歌詞について、「どんな“メッセージ”を込めた?」と質問するが、全員がうまく回答できず、苦戦する一幕も。

3つの要素についてじっくり講義したあとは、作詞の基本中の基本といえる“譜割り”についての話題へ。zoppは<どんぐりころころ どんぶりこ>が何音で構成されているか3人へ質問すると、全員が「13音」と回答。しかし正解は違った音数であり、3人が書いてきた歌詞も、実際に当てはめてみると、音数が足りなかったり余ったりすることが明かされた。その後、世界共通で作詞の際には「跳ねる音」に気を付けなければいけないこと、日本語詞はそのなかでも異端で、「ん」という“飲む言葉”に音を乗せる特色があることをレクチャー。3人は改めて、日本語詞の深さと難しさを知ることとなった。ほかにもzoppは、作詞におけるタイトルの重要性や、“料理の際に必ず「味見」するように、自分で歌いながら音を嵌めていくべき”という基礎的な要素、音の後ろが上がる場合と下がる場合に適切な言葉の選び方など、作詞におけるポイントを1時間にわたり徹底的に解説。その後、zoppと3人による質疑応答が行なわれた。

篠崎:私たちと同じ条件で、「どんぐりころころ」に別の歌詞を付けるならどうしますか?
zopp:おにぎりが逃げていく歌にして、“食べ物はいつかなくなるかもしれない”という裏テーマを持たせます。僕の作詞におけるルールのひとつに“7割表現”というものがあって、受け手に3割ほど想像する余地を残すようにしているんですよ。そうすると、歌を聴いた人はそれぞれの思い入れポイントを見つけてくれて、大事な曲になっていく。みなさんは今後作詞するにあたって、恋愛の曲も書いたりすると思います。ラブソングって、「好きです」をいかに別の言葉で伝えるかが大事なのですが、3人ならそれぞれどんなワードに言い換えますか?
涼川:「ドキドキ」ですね(笑)。
natsuki:私は「会いたい」かな。
篠崎:う~ん……「言えない」ですかね。
zopp:それぞれのキャラが出ていていいと思いますよ(笑)。これがいわゆる比喩表現で、作詞においてはこの表現技法をいかに使いこなすかが大事です。とはいえすぐにできるわけではないでしょうから、まずは自分の例えたい言葉に変わる何かを上手く探し当てる練習が必要かもしれません。僕も最初は一つのテーマに対して、多数派の人たちが想像するであろう内容を調べて、その人たちに共感できるような詞を書いていましたから。
natsuki:私も作詞の時に調べるのですが、経験に勝るものはないんじゃないか……って考えてしまうんです。
zopp:体験したことのほうが鮮明にイメージできるのではないか、ということですよね。でも、書き手自身が伝えたいことさえしっかりしていれば、実際に体験しているかどうかはあまり関係ないと思いますよ。僕は人から聞いた話でも十分体験だと思っていますし、自分の書いた歌詞の8割は未体験のものです。
涼川:歌詞を書くことってすごい大変だと思うんですけど、今までに「もう歌詞は書きたくない」と感じたことはありますか?
zopp:僕は結構飽き性な人間なので、その都度、嫌になったりしますよ(笑)。だって、23歳から作詞をはじめて、25歳のときに「青春アミーゴ」で1位を獲ってしまったから、その先の目標が見えなくなったわけですから。書けなくなってしまうことはないのですが、「もう作詞自体をやめたい」と思うんですよね。たまに「ネタがない」という人もいますが、そういう感覚にはなりません。その時は自分じゃないものを書けばいいわけで、しかもその人に直接手渡すわけじゃないから、大雑把な印象から想像したことを綴っても大丈夫ですし、そのほうが的が広がって意外とウケたりするんですよ。

講義後、それぞれの感想
――濃密な講義を終えて、それぞれ今の感想を教えてください。
涼川:こんなに濃い内容を聞けると思っていなかったので、びっくりしました! 普段作家さん同士で話しているような「音と詞がぶつかり合う」とか、「小さい『っ』が入るとメロディが変わる」といった内容も、今日の講義を通じて初めて分かりました。これからは書けることが何倍にも増えますし、感じることも多くなっていくと思います。
natsuki:私は今まで作詞の経験はあったものの、自由だったからこそ分からないことが沢山あって不安でした。でも、今日は音のことだったり、作詞する上でのルールを教えてもらって、納得すると同時に「そうやれば良かったんだ……」とすごくホッとしました。
篠崎:私も作詞に関しては、自由に制限なく書くものだと勝手に思い込んでいたし、音のことも「何だったら、詰め込んで早口で言っちゃえばいいや」と考えていました。でも、こんなに作詞には守らなければならないルールがあることを知ることができて、勉強になりました。いま新曲のレコーディング中なので、そこで作詞をする機会があれば、ぜひ役立てたいと思います!
――ではzoppさん、最後に全体の講評をお願いします。
zopp:今日話したことは、作詞テクニックの一部でしかありません。本当はもっと深い部分や「比喩表現」についての話をしたかったのですが、そこはまた機会があればということで。今回は作詞における基本ルールが分かってもらえて、今後の役に立てるのであれば良かったです。
涼川・natsuki・篠崎:今日はありがとうございました!
(取材・文=中村拓海/撮影=はぎひさこ)
■リリース情報
『ソングス・アンド・リリックス』
発売日:2016年1月15日
発売元:講談社文庫
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