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欅坂46「風に吹かれても」のポイントは“狭く速いボーカル”? 楽曲の構造から読み解く

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リアルサウンド

 欅坂46の5枚目のシングル『風に吹かれても』。

 ノリの良いアコースティックギターと「トゥルットゥットゥー」と口ずさむイントロからは、軽快、爽快、楽天的といったキーワードが浮かぶ。シリアスなニュアンスが多かった今までのこのグループにはないテイストだ。この冒頭の明るい印象を、ほとんど変化させることなく最後まで維持し、斬新な展開や転調は一切行わない。この爽やかな曲調、あるいはミュージックビデオにおける”笑顔”や”黒スーツ”といったビジュアル面での視覚的インパクト、その第一印象一発で勝負を仕掛けたシングルである。では、そうした印象を抱かせる楽曲の構造を分析してみたい。

展開の早さ

 曲の展開はシンプルにAメロ→Bメロ→Cメロ(サビ)を繰り返し、Dメロを挟んで最後はまたCメロで締める、J-POPの最もオーソドックスなスタイルだ。こうした正攻法な進行も相まってか、これまでの欅坂46のシングル曲のなかでは最もあっさりとした印象を抱く。それを端的に示すデータが下記だ。

「シングル表題曲の最初のサビまでにかかるおおよその時間とBPM」

1st サイレントマジョリティー 1分8秒  BPM:123
2nd 世界には愛しかない     1分38秒  BPM:136
3rd 二人セゾン          1分23秒  BPM:130
4th 不協和音         1分6秒  BPM:120
5th 風に吹かれても      53秒   BPM:126
(※「二人セゾン」はサビ始まりのため2回目のサビまで)

 シングル表題曲の中で最も早くサビに到達していた「不協和音」の1分6秒を塗り替え、今作は53秒という早さでサビに突入する。つまり、「風に吹かれても」はこれまでのシングル表題曲の中では最も”寄り道をしない”作りになっているのだ。留意しておかなければならないのは、だからと言って曲のテンポが目立って速いわけではないということである。「風に吹かれても」のBPMは126付近で、「サイレントマジョリティー」をほんの少しだけ速くした程度だ。つまり、曲のスピード自体はそこまで速くないのにも関わらず、楽曲の中心となる目的地には最速で着地するのが今回のシングルの特徴だ。

欅坂46「風に吹かれても」Music Video

サビの軽快なリズム

欅坂46『風に吹かれても』(初回限定盤Type-A)

 ただし、確かに「風に吹かれても」はそこまで速いテンポではないが、どこかこの曲からは軽やかな小気味良さを感じる。それはリズムの面が大きく作用しているためだろう。Bメロでベースが消えて一時的に2ステップになった後、ウネりとハネの効いたベースラインが生み出すグルーヴにより素早いステップで踊るサビのリズム感は、4ビートを基本としたダンスチューンがメインのこのグループにとっては四つ打ちからの脱却である。

 「不協和音」こそ裏ノリの掛け声が挿入され倍のリズムで踊っていたものの、少々強引気味に作られたものであったのに対して、「風に吹かれても」のサビはしっかりと8分のノリだ。こうした新鮮なリズム感が爽やかで明るい楽曲の印象に影響しているのだろう。そのため、今作のパフォーマンスには四つ打ちのもたらす一体感ではなく、8ビートのリズムを全身で楽しんでいるムードがある。

狭く速いボーカル

 ボーカルの動きは非常に特徴的である。音域は狭く、Aメロで記録する最低音と最高音をそのままサビが終わるまで広げずに限られた音域の中で上下させている。一般的に、サビで最高音を更新するのがJ-POPの定石であるが、この曲はそうはせず、喩えるなら“Aメロで見せた世界をそのままサビまで持続させる”作りだ。音域を拡張して得られるカタルシスに頼るのではなく、代わりに、<何も始まらない>や<なるようにしかならないし…>といった部分でそれまで登場しなかった音を使うことで特有の情緒を醸し出している。与えられた領域をフルで活用するテクニックだ。言わば、”限られた領土の中で未開の地を開拓してゆく”メロディの進行である。

 狭い範囲内で細かく揺れ動く主旋律に対して、それ以外の音をごっそり削ぎ落としたA~Bメロのスリムなサウンド。小刻みに繰り出される早口のボーカルを出来る限り目立たせようという意図を感じ取れるここでの音作りは、<枯葉がひらひらと空から舞い降りて>という歌い出しの歌詞の風景がそのまま音世界にも表現されているように聴こえる。

 しかしそれだけでなく、メロディのこの特徴的な細かい動きには「エキセントリック」や「危なっかしい計画」といった既存曲に見られるような、欅坂46における秋元康の詞乗りの探究を見て取れる。その傾向は今作のカップリング曲にも如実に表れていて、表題曲のイメージとは真逆の「避雷針」であったり、グループ内ユニットの五人囃子による「結局、じゃあねしか言えない」、けやき坂46が歌うフォークソング「それでも歩いてる」など、ポエトリーリーディングではない、ラップとも言えない、独特のバランスを保ったボーカルスタイルが随所に垣間見える。元をただせば「世界には愛しかない」がかなり挑戦的であったように、今回のシングルに収録されている各曲の歌詞は未だ試験段階に思える(筆者の個人的な印象では「避雷針」の完成度は高く、こういった試行錯誤の先に何か新しいものがある気がしてならない)。

欅坂46「避雷針」Music Video

ライブパフォーマンスにも期待

 サビまで直行する早急な展開、サビでの軽快なリズム、音域を維持するメロディ、これらの特徴が曲の印象に繋がっているだろう。そして“笑顔”や”黒スーツ”といった要素がそれを補強し、今までのシリアスなイメージを刷新した今回のシングル。加えて、このグループがカップリング曲などで見せていた細かい譜割りのボーカルスタイルが表題曲クラスにまで及んだシングル、という見方もできる。夏の全国ツアーを終えある程度完結した世界観を作り出し一区切りのついた欅坂46。グループの大きな魅力となっているライブパフォーマンスで、この曲がどのように表現されるのか今後も要注目だ。

■荻原 梓
88年生まれ。都内でCDを売りながら『クイック・ジャパン』などに記事を寄稿。
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Twitter(@az_ogi)