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関ジャニ∞「奇跡の人」は何を問いかける? 「関白宣言」から続くさだまさしのスタンスから読む

音楽

ニュース

リアルサウンド

参考:2017年9月4日~2017年9月10日週間CDシングルランキング(2017年09月18日付)

 9月18日付のオリコン週間シングルランキングでは、関ジャニ∞『奇跡の人』が1位を獲得した。”現代版・関白宣言”という触れ込みの今作。さだまさしが関ジャニ∞のメンバー全員にアンケートを配り、それをまとめて歌詞にしたというエピソードが9月8日の『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)で語られていたが、そのアンケートの質問には「好きなタイプの女性は? そしてその本音と建て前は?」とあったらしい。本家「関白宣言」と比べれば、晩婚化や未婚化といった傾向が叫ばれる現代を生きる我々にとってリアリティのある内容になっている。つまり、話のスタートは「そもそも結婚できる相手なんているんだろうか?」というところから始まる。

(関連:関ジャニ∞は「奇跡の人」で何を表現した? 現代版「関白宣言」にこめられた本音と建前

<この頃僕ふと思うねん/なんか藪から棒やなあ/ちゃんと結婚できるんか/ま、出来たら奇跡やなあ>

 錦戸亮と他のメンバーの対話形式ではじまるこの歌い出しから、徐々に”最近の若い子は……”的なオヤジの小言のようなフレーズをメンバー全員で歌ってゆく。<プライド剥き出しそのくせ下品>など、少々説教臭い言い回しに耳が痛くなる人がいるかもしれない。その後、<一所懸命な人を/笑ったら許さへん>などといった人生訓なんかを交えながら、<どこかで待ってる/君に会いたい>で締めくくる。要するに、存在するかどうかもわからない相手(=奇跡の人)へ想いを馳せて、そのままこの曲は終わる。

 さて、この「奇跡の人」は本家「関白宣言」のように夫婦関係に限定して歌っているわけではない。むしろ、ごく普通の人間関係の規範についても字数が多く割かれている。夫婦とはこうであれ、と言う以前に、結婚しようと思える相手の存在それ自体を問うているのがこの曲の歌うところだ。

 そもそも、さだまさしの「関白宣言」がヒットしたのは1979年のことで、その時にはすでに亭主関白なんて存在はとっくの昔の話であった。むしろ歌詞にある男性上位主義的な内容が、女性差別だとして炎上したくらいである。さだ自身、その後に続編となる「関白失脚」を作っていることからも、「関白宣言」には彼の理想とする夫婦観というよりは、女性に対する男性の不器用な愛情の表れがうまく綴られていたのだと思う。

 それから約40年ほど経過した2017年。9月9日放送の『サワコの朝』(TBS系)にゲスト出演したさだはこう話した。

「(「関白宣言」について)あの頃から核家族とかニューファミリーっていう言葉が出てきて、親と同居せずって言いはじめたの。そうすると夫婦二人きりになって片方いなくなったら最後は一人きりで死ぬんだよ、その覚悟はありますか? っていう問いかけが家族の歌だったのね。それで、今更この僕らの年になって、孤独死とか無縁死が話題になると、何言ってるんだ、だからあの時言ったじゃないっていう」

「時代の反対側にカードを張らないと。“炭鉱のカナリア”っていう言葉があって、僕ら発信者っていうのは“炭鉱のカナリア”でないといけないんですね。つまり、ピーチクパーチクさえずるのが僕らの仕事で。(中略)おかしいと思うことをおかしいと言うと滅多打ちにされるから、そうじゃない方法で歌謡曲として歌ってきたの」

 こうした彼の表現者としてのスタンスが「奇跡の人」でも実践されているとすれば、<スマホじゃなくて俺を見ろよ/会話が一番大事やん>や<言葉遣いと礼儀だけは/ちゃんとしとこうよ>といった詞にあるような人としてあるべき姿やモラルに対する指摘は、現代人に欠けている人間としての基本的な資質を問う彼なりの危険信号が表れていると言える。彼は「関白宣言」においても理想の夫婦/男女観なんて歌ってないし、むしろそうしたようなことを歌いながら別のところにテーマを持ってくる人なのだから、前述した”耳の痛くなる”オヤジの説教のような歌詞はむしろ、彼が察知した危険な未来を示唆する決して無視はできないセリフである。そしてそんな警告が、楽器を持った7人の“カナリア”たちによって歌われているのが「奇跡の人」という曲なのだ。

 余談だが、”女性版・関白宣言”なんて言われた「トリセツ」を書いた西野カナの作詞法もまた、知人にアンケートをとるスタイルだったなあなんて思い出したり……。(荻原 梓)