オリジナル作品、アニメから作るか? 実写から作るか? 実写版『ここさけ』の苦戦を考察
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先週末の動員ランキングは大方の予想通り、初登場『怪盗グルーのミニオン大脱走』が圧勝。土日2日間で動員47万8000人、興収5億9900万円を記録。この数字は、シリーズ最高の最終興収52.1億円を記録したプリクエル(前日譚)的作品『ミニオンズ』に対して興収比で109.7%。一部で囁かれていた「日本での『怪盗グルー』シリーズ人気はミニオン人気によるもので、グルーが主役の今作は大ヒットした『ミニオンズ』を超えないかも?」という危惧を吹き飛ばすこととなった。というより、ミニオン人気は別に日本だけでなく海外でも同様で、同シリーズは作品自体の問答無用の面白さと、ミニオンのキャラクター人気、その両輪によって成り立っている。むしろ、物語の本筋とは関係のないところで勝手にミニオンたちが大活躍するところが痛快なのだ。
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今週考察したいのは、286スクリーンでスタートと、アニプレックス配給作品としては異例の大規模での公開であったにもかかわらず、動員ランキング初登場9位、動員5万1977人、興収6628万円と苦戦を強いられている『心が叫びたがってるんだ。』について。2年前の2015年9月に公開されたアニメ版『心が叫びたがってるんだ。』は、今回の半数以下の142スクリーンでスタートして、動員ランキングで初登場5位、その後もロングヒットを続け、最終興収は11.2億円にまで達した。今回の公開初週の数字は、実写版がその結果を上回ることはないという現実を突きつけるものとなった。
これまでもアニメ作品の実写化、あるいは実写作品のアニメ化という前例は数え切れないほどあったが、その多くはもともとマンガや小説などの原作がある作品だった。今回の実写版『心が叫びたがってるんだ。』が特殊なケースとなったのは、元となるアニメ版『心が叫びたがってるんだ。』が完全なオリジナル作品であったことだ。制作のA-1 Picturesは、過去に同じくオリジナル作品であったアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のメディア展開においても実績があり、それが今回の実写版『心が叫びたがってるんだ。』の試金石となったに違いない。
もっとも、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』は映像化された作品だけでも、テレビの深夜枠連続アニメ→集中的な再放送による作品認知度アップ→その総集編+αの映画版→実写版ドラマ化と念入りに段階を踏んでいて、その実写版もテレビ局のプライムタイムでのスペシャルドラマとして放送されたものだった。村上虹郎、浜辺美波、志尊淳、飯豊まりえら現在大活躍中のフレッシュな役者陣の脇を小泉今日子、リリー・フランキー、小日向文世、吉田羊ら豪華共演陣が固めた同作は、今観直しても新しい発見がたくさんある好作で、ソフトが廃盤となっていて再放送なども期待できない(メインロールの一人として高畑裕太が出演していた)のは残念だが、初放送時の視聴率は9.1%という成功とも失敗とも判断のつきにくい結果に終わった。
それでも実写化の企画にGOサインが出て、今回は映画作品として劇場公開された『心が叫びたがってるんだ。』。Sexy Zoneの中島健人、そして芳根京子とメインのキャスティングも万全の体制で、ヒットが期待されていたからこその、有力作品がひしめく夏休みの拡大公開であったはずだ。しかし、今回の結果は、キャストの力不足についてなどを指摘する以前に、そもそも作品の企画自体が、少なくとも劇場公開作品としては観客から望まれていなかったという事実を示している。古い感覚ではつい、アニメ作品はオタクの観客層にアピールするもの、実写作品はより一般の観客層にアピールするものと勘違いしがちだが、実はアニメ版『心が叫びたがってるんだ。』のヒットは一般の若い観客層を集めることに成功した結果であったことは公開当時も指摘した通り(国内アニメ映画の勢力図が変わる!? 『ここさけ』興収10億突破が日本映画界にもたらすもの)。実際のところ、アニメ版『心が叫びたがってるんだ。』のヒットは、その翌年の『君の名は。』や『聲の形』の大ヒットの先駆けとなる現象だった。そして、その若い観客層の多くは、今回、実写版でアニメ版の時の記憶を上書きすることを求めていなかったということなのだろう。
今年の夏には、完全オリジナル作品のリメイクという点で、『心が叫びたがってるんだ。』同様の作品がもう一本控えている。東宝が大きな期待を込めて送り出すアニメ版『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』だ。「アニメ版→実写版」と「実写版→アニメ版」という制作順の違い、そして何よりもオリジナル作品からのインターバルの大きな違い(オリジナルの2年後に公開された『心が叫びたがってるんだ。』に対して、『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』はテレビでの初放送から24年後)があるので、もちろんこの両作品を同列に論じることはできないが、「オリジナル作品、アニメから作るか、実写から作るか?」問題を考える上でも、重要な作品になるのではないだろうか。(宇野維正)