Acid Black Cherryが、作品やファンとの交流にかける思いとは? 高野修平が独自の視点で分析
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Acid Black Cherryが、愛知、千葉、大阪の3会場で大規模フリーライブ企画『ABC Dream CUP 2015 LOVE』を終え、フリーライブとしての国内最多動員数である10万人を動員した。
“4年に一度の大感謝”と銘打たれているように、ファンへの感謝を目的とした同企画。yasuがライブのMCでも「君が笑顔になるなら唄いたい。君の街で——」と語ったように、ABCはこれ以外にも2013年8月から2014年6月まで約10か月にわたって、新曲をリリースしながらライブを展開し、全都道府県すべてを駆け巡るProject『Shangri-la』を行った。また、みんなにより近い距離で会いに行きたいという思いからファンとの触れ合いを重視して「Shangri-la Meeting」と題し、各地のテレビ局やラジオ局で公開収録と無料のハイタッチ会を行ったり、各地のイオンモールを会場にした展示企画『Shangri-la Museum』では、衣装やパネルなどを設置してファンを楽しませた。また、ネットではTwitterのオフィシャルアカウントを使用し、フォロワーにだけMVを限定公開するという“密会”企画を行うなど、積極的にファンとコミュニケーションを図ってきた。
ABCはなぜ、これほど熱心にファンとの交流を続けるのだろうか。音楽マーケティングについて綴られた書籍『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング』の著者である、トライバルメディアハウスの音楽マーケティング部「Modern Age/モダンエイジ」事業部長の高野修平氏(Twitterアカウント:@groundcolor)は独自の視点からこう切り取る。
「ABCは、Web上での露出と、ファンとの実際の触れ合いにおいて上手くバランスを取っているアーティストだという印象があります。大抵はどちらかに偏りがちなものなのですが、ABCはフィジカルとデジタル双方の得手不得手を把握したうえで、ウェブでしかできないことをやりつつ、リアルな場を設けることにも取り組んでいるように思います。Apple musicやAWA、LINE MUSICなどのサブスクリプションサービスがようやく始まった中で、マスマーケティングとデジタルマーケティングを組み合わせて、かつ役割を分けて展開することで、ファンとの温度感を大事にしているやり方、届け方、広げ方ではないでしょうか。もちろん知名度があるからこそできることも多いとは思うのですが、彼らほどのスケールにはなかなか出来ないフットワークの軽さだと感じています」
また、同氏は作品ごとにコンセプトを作り込み、ファンと共有する活動形態について“ディズニーランド的”であると分析した。
「コンセプトを作り込むことによる一番の利点は、聴き手によって様々な視点から掘り下げることができ、『物語の主語を変えられる』ことだと思うんです。つまり、一曲単位で楽しむことができる一方、アルバムのコンセプトに沿って楽曲が構成されているため、アルバム全体を通して聴くことで、世界観への理解を深めることもできる。“音楽の単位“を引き上げられる可能性を秘めていることです。コンセプトないし世界観というものは、一見、ファン以外には排他的に見えてしまうときもあるのですが、ライトなファンや潜在顧客へしっかり“良い楽曲”という入口を用意しておいて、音楽と戦略が一致していれば、ライトファンや顕在層であっても掘り下げたくなり、世界観に没入するきっかけを得られたりすることもありえますし、ライブにも通うようになる可能性を秘めています。つまり、コンセプトを作りこむことは世界を用意することであって、マーケティング戦略と合致していれば、繰り返しになりますが“音楽の単位”を引き上げる事ができます。その究極系というのは、テーマパークかもしれません。世界観を味わいたくて行くって、なんだかディズニーランドみたいですよね」
コンセプチュアルな内容を持つ最新作『L-エル-』においても、ABCのコミュニケーション志向は貫かれている。
「100ページにわたるブックレットの装丁があったり、フィジカル自体にアソビを加えることで、リスナーの所有欲を刺激するパッケージが面白いです。最近ではサブスクリプションサービスもスタートして、音楽がデータとしてやりとりされる中、総合的な価値観を提示できている稀有なアーティストではないでしょうか。楽曲もさまざまなジャンルを参照しつつ、V系という括りに収められないほど多彩です。しかもすべてに繋がりがあるので、1曲だけを聴くよりアルバムを通して楽しむほうが、その温かみは増大します。たとえばシングルカットされた『INCUBUS』も、もちろん一曲単位で良い曲なのですが、アルバム内で前後の曲を含めて聴くと、何倍もの魅力が生まれます。」
常に新しい戦略を打ち出しつつ、温かみのある交流でファンを楽しませるABC。自身の作る作品については以前yasuが語った次のようなインタビューがある。
「音楽だけを聴いてもらっても全然構わないし、歌詞カードも見なくてもいい、ましてや本を絶対読んでくれっていうわけじゃないんです。でももし、いいアルバムだなって思ってもらえた時に、もうひとつの世界があったら素敵じゃないですか。それでCDを買ってよかったなって思ってもらえたら、この時代にCDを出している意味がある思うんですよ。僕が、昔音楽を聴いたり映画を見て感動したのと同じように、これを手に取って感動を味わってほしいんですよね」
これはまさにyasuの創作スタンスを示した発言と言えるのではないか。コンセプトアルバムは、今までも様々なアーティストが作品として残してきた。今回の「L-エル-」は大手出版社KADOKAWAから、ストーリーブックの書籍化が決まったように、重厚なストーリーと音楽との融合した作品というのは音楽界の長い歴史を見渡しても中々存在しなかったのではないだろうか。
また、直木賞作家の姫野カオルコ氏は「クイックジャパン」Vol.119月号で、yasuの作り出す世界を「ロマン主義」というキーワードを通して語っている。
「彼の楽曲と歌詞を聴かせて頂いて、私なりのキャッチフレーズを考えたんです。『巧智なロマン詩人』。ロマン主義というのは、フランス革命において台頭してきたブルジョアジーが愛していた様な通俗的なお話に対抗して、もっと物語性のある芸術を作ろうというムーブメントであった訳ですが、yasuさんの描く歌詞と音楽には、それを感じました。毎回アルバムと並行して物語を作っているという魅せ方も、まさにロマン主義だなと。わざわざ大変なことを自分に課せながらも、そういう魅せ方にこだわっているという個性も実に興味深かったです」
作品ごとに世界を生み出し、それをファンと共有してきたABCは、どんな“次の一手”を繰り出してくるのだろうか。
(文=向原康太)
■Acid Black Cherry 4th ALBUM「L-エル-」Special Site
http://acidblackcherry-album-l.com/
■オフィシャルサイト
http://www.acidblackcherry.net/