20年ぶりのソロアルバム発表! MORRIEが語る、自身の音楽的遍歴とNY前衛シーン
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DEAD ENDのシンガーであり、Creature Creatureを率いるMORRIEが、前作『影の饗宴』のリリースよりちょうど20年となる1月21日に、ソロアルバム『HARD CORE REVERIE』をリリースした(先行発売は12月25日)。ジャパニーズメタルの鬼子ともヴィジュアル系の元祖とも形容されるDEAD ENDのフロントマンとして名を馳せたのち、90年代初頭にはノーウェーブ以降の人脈が蠢くNYに拠点を移し、ロリ・モシマンらとアルバム制作をしていたMORRIE。『HARD CORE REVERIE』は、すべての楽曲でポストロックバンドdownyの青木裕が参加し、ヴァイオリンやサックスをフィーチャーするなど、メタルやヴィジュアル系というこれまでMORRIEが紹介されてきた文脈に留まらない音楽性でリスナーを驚かせる。ジム・フィータス、ジョン・ゾーン、アート・リンゼイといったミュージシャンがそれぞれの模索のなかで新しい音楽世界を開拓していた街で、彼は何を見て、何を思ったのか。
さまざまなバンドとの関わり
ーー20年ぶりとなる今回のソロアルバムは、どういったコンセプトで制作しましたか?
MORRIE(以下「M」):アルバムのオープニングでもある「Nowhere, Nobody, Go Under」に尽きますね。どこでもない、誰でもない何かになった時、「堕落」が始まる。存在の感覚を深く感得し、自分が自分であるところのこの感覚を研ぎすますと、おのずとこの「現実」という「夢」から醒めでてしまうという事態に至ります。そこで獲得した別の感覚と認識から眺めると、この現実が夢であり絵空事であったと気付く。それが「HARD CORE REVERIE」です。醒めて見るハードコアな幻想、つまり、この現実。それを夢であると実感し感得している境地というものを何とか歌にできないか、というようなことです。
ーーdownyの青木裕さんがほぼ全曲にギタリストとして参加されていますが、彼には全幅の信頼を置いているんですね。
M:今回参加してくれたミュージシャンは全員信頼しています。もちろん青木くんも。青木くんには、僕がソロ活動を復活させた2012年の最初のライブからずっとギターを弾いてもらってます。
ーーdownyを知ったのはどのような経緯なんですか?
M:彼らがデビューした90年代の日本のシーンについては全然知らなくて。だから最初は彼らについても知らなかった。ベーシストのTOKIEちゃんとは長い付き合いなんだけど、彼女のUnkieっていうバンドに青木君が参加していて、その最初のアルバムを聞かせてもらったらギターがえらくかっこいいなと。その人がdownyの青木くんだった。彼は本能とプレイが直結しているというか、やることすべてがインプロ(即興)っぽい。弾くフレーズが決まっていてもインプロヴィゼーションをやっているようでね。普通のコードを普通に弾くようには見えなかったので、ソロバンドに誘う時に「青木くん普通のコード知ってるかなあ」って聞いたら「バカにしないでください」って(笑)。
ーーTOKIEさんとは本当に長いお付き合いなんですよね。
M:そうですね。90年、僕が最初にNYに行ったときに出会いました。DEAD ENDを解散して最初のソロアルバム制作をNYでやっている時にライヴをやることになって、当時所属していたアミューズから「いいベーシストがいるから」といって派遣されてきたのがTOKIEちゃんだったんです。そのアルバムは元スワンズのロリ・モシマンがプロデュースしているんだけど、ロリの彼女がフランス人シンガーで、バンドを始めるからいいギタリストはいないかと聞かれてね。彼女はニック・ケイブとかフィータスとかが好きだったので、それっぽい感じの大所帯のバンドを作るということでした。それで紹介したのが、E・Z・O(元フラットバッカー)のギタリスト・SHOYOと、TOKIEちゃんだったんです。ちなみに、このバンドでSHOYOの後にギターを弾くのがスワンズのノーマン・ウェストバーグで、ヴァイオリンを弾くのが後に嫁さんになるHeather Paauweです(笑)。この「Sulfur」ってバンド、すごく面白かったんですが、アルバム一枚出して解散しちゃいましたね。
ーーMORRIEさんが90年代初頭に飛び込んでいったNYのシーンって、80年代初頭にいわゆるノーウェーブが盛り上がったあと、ジャズやロックや現代音楽などなど、ほんとうに多種多様なジャンルが相互に横断し合い、形容しがたい混沌状態にあったと思うのですが、MORRIEさんの目から見て、どのような状況だったのでしょうか。
M:刺激的でしたよ。変や奴らがそこここにいましたから。NYのシーンは、狭いなかで面白い奴らがそれぞれ単独で活動していて、だからこそ大きなムーブメントにはなりえなかったんだと思う。ノーウェーブは当然もう完全に終わっていたけれど、ジョン・ゾーンやアート・リンゼイ、ラウンジ・リザーズのジョン・ルーリーとか、みんな元気にやっていましたよ。
ーー当時は彼らのライブも観ましたか。
M:ライブはかなり行ったね。僕のアルバムをプロデュースしてくれたロリ・モシマンはドラマーで、彼のスイス時代にやっていたバンドのベーシストの息子がジョジョ・メイヤーだった。それで、ジョジョ・メイヤーのバンドがすごいから観においでよって言われて、連れて行かれたのがスクリーミング・ヘッドレス・トーソズのライブだったんです。ジョジョは初期に在籍しただけで抜けちゃったんだけど、このバンドのギタリストはデイヴィッド・フュージンスキーっていって、上原ひろみとやって日本でも名前が知られるようになったと思います。当時からゴッドハンドって言われていて、今はバークレーで教えてるんじゃないかな。とにかく凄腕のミュージシャンが4人集まっていて、僕の当時の印象は、キング・クリムゾンがジャズファンクバンドをやっているような、そんな感じでした。まだアルバムを出す前だったけど、むちゃくちゃカッコよくって、当時のNYでやった彼らのライブは全部行ったんじゃないかっていうくらい行きましたね。ジョジョ・メイヤーは1stアルバム『1995』を作ったあとに抜けちゃうんだけど、これが凄まじくかっこいい。でも当時はミクスチャーのハシリとして扱われていたんじゃないかな。日本にも1回か2回来ているはずですよ。
ーーYBO2のライブもNYでご覧になったんですよね。
M:YBO2を観たのは00年代に入ってからだね。マンハッタンのKnitting Factoryっていうライブハウスに来たんだけど、もう12時を回っていて、お客さんは10人もいなかったんじゃないかな。北村昌士さんとギターの2人でやってきて、ほかのメンバーはアメリカで揃えたんだろうね。YBO2の複雑な曲を演奏するのがたいへんそうだったよ。日本のバンドもちょくちょく観に行きましたね。ボアダムズはよく来ていたし、ナンバーガールも観たことあります。Borisも最初に観たのはNY。近年ではVAMPS、X JAPANやDIR EN GREYもアメリカで観ていますね。随分前だけどMUCCも観ました。
渡米の動機
ーー最初に渡米をしたとき、MORRIEさんはどのような刺激をNYに求めていましたか。
M:DEAD ENDが解散した時、実はソロをやる気は無かったんですよ。だから解散してから、次のバンドを作るために何度かセッションしたんです。でも縁がなくてね。周りからもソロを聞きたいという要望が色々と聞こえてきて、じゃあやってみるか、という風になった。それで、プロデューサーを決めようということになって、元ザ・スミスのジョニー・マーが参加していたザ・ザの『マインド・ボム』や、その前作の『インフェクティッド』が好きだったので、その共同プロデュースをしていたウォーレン・リヴジーかロリ・モシマンに依頼したいと思ったんですね。この『マインド・ボム』ってアルバムは、DEAD ENDが3枚目のアルバムをロンドンでレコーディングしているときに発表されたんですよ。クリアな音作りがすごく好きで、エンジニアのフェリックス・ケンドールにも頼みたいと思ったんです。でも、ウォーレン・リヴジーは捕まらなくて、当時、NYに住んでいたロリ・モシマンに会いにいくことになった。だから、NYに行ったのはプロデューサーがたまたまそこにいたから、というだけで、NYがどうこうというわけではなかったんです。そうしてNYでソロの1枚目を作って、日本に帰ってきて、アミューズからルギャングという事務所にうつって2枚目を作った後、3枚目はまたNYで作らせてくれとお願いした。それが本格的な渡米になりました。このルギャングという事務所は、ALI PROJECTとか人間椅子とか、文学的な人たちが所属している事務所でしたね。
ーー90年に1stアルバム『Ignorance』を出したあと、シングル『視線の快楽』を91年に発表します。これには四人囃子の森園勝敏さんと茂木由多加さんが参加していました。
M:そう、まず森園さんとやることになって、森園さんが茂木さんをアレンジャーとして連れてきた。茂木さんも僕と同じく文学が好きで、衝突というわけではないけれど、色んなことで議論になりましたね。彼は村上春樹が好きなんだけど、僕は好きじゃない、とか。それで『視線の快楽』とカップリングの『孤独の太陽』のアレンジをやってもらった。『孤独の太陽』はウォーカー・ブラザースのカヴァーですね。これはルギャングの大輪茂男さんが「MORRIE、ウォーカー・ブラザースのこの曲どうだ」って持って来て、やることになった。そういえば、スコット・ウォーカーも元気にやっているようですね。最近もSUNN O)))とコラボしたりして、面白い活動をしている。
MORRIEの音楽性、新譜について
ーーMORRIEさんの音楽性って、すごく独特だと思います。今まで名前が挙がってきたようなミュージシャンたちの影響を足していけばMORRIEさんの音楽性が出来上がるかというとそうではない。たとえば、ザ・ザの『マインド・ボム』や、90年のフィータスのライブ映像を観たりすると、たしかに今までのMORRIEさんの音楽にその影響があることはわかる。でもそこに収まらない部分も感じます。
M:自分ではそれはわかりませんね。誰かに言ってもらうしかない。今回のアルバムも、スタンダードに作りました。
ーーマスタリングにものすごくこだわったそうですね。
M:そう、最終的にはテイチクの吉良武男さんという方にお願いして納得のいく出来になりました。レコーディング・エンジニアの田本雅弘くんの紹介で吉良くんにお願いすることになったんだけど、急だったので、他の仕事の合間に時間を作ってもらった感じです。
ーーアルバム収録曲の「Goodnight Reverie」では、ドラマー・下田さんのタンバリンが、まるで目の前で振っているような臨場感がありました。
M:ミキシングも素晴らしいよね。今回は、ドラム録りからすべて、スタジオに入って、アンビエンスのマイク立てて、曲ごとにマイクの位置も変えてと、それぞれの曲の空気感の違いにもかなりこだわりました。昔はよくこうやって録っていたんだけど、最近は予算がないからやらないことも多い。でも今回のレコーディングでは、生々しさ、空気感を大事にしました。そうやって録音したもの全体を、最終的にひとつの空間として構築する。そこはエンジニアもすごく気を遣ったし、音楽を録音するというのはそういうことなんです。そこはこだわりたかった。
ーーMORRIEさんの音楽活動は、「新しい」ジャンルを取り入れつつも、常に模索している感じがして、それがリスナーにとって刺激となっているように思います。
M:僕はずっとやりたいことをやっているだけです。長くやって残っている人はみんなそうなんじゃないかな。だから自分の音楽を、たとえばいわゆる「ロック」だと思ったりもしていない。好きなように、行き当たりばったりでやっています。「これが新しい!」みたいな「わかりやすい新しさ」は目指してない。でも、自分の「歌い方」は常に模索しているね。このアルバムを作ってる最中に掴んだものもあるし。音楽をやることで、自分がどこまで行けるのか。その都度、限られている条件の中で出来ることを最大限に出していく。ずっとそうしてきました。
ーー最近はどんな音楽を聞いていますか。
M:いまはまたウェイン・ショーターばかり聞いています。ウェイン・ショーターでは『Speak No Evil』とか『The All Seeing Eye』とかがおすすめですね。
ーーほかにおすすめの音楽がありましたら、ぜひ教えてください。
M:大学に入ったときにレンタルレコード屋で聞いて好きになったダンス・ソサエティを、さいきん久しぶりにダウンロードして聞いたら、やっぱりカッコええなあと。下手なんだけど、問題は演奏じゃないんだよね。80年代当時ポジティブパンクって言われる連中では、セックス・ギャング・チルドレンとか、面白いことをやっていたと思う。ザ・カルトも初期は面白かった。日本のインディーズレーベル、トランスレコードもよく聴いてましたよ。G-schmittは大好きだったので、ライブも何度か観ました。あとはジム・フィータス一派の周辺にいたコップ・シュート・コップとか。このバンドのボーカルのTod Aというやつが面白くて、そのあとに組んだFirewaterというバンドではHeatherもヴァイオリンで参加したりしていて、ちょっとニック・ケイブっぽかったです。そのあたりでは、Flux Information Sciencesとかも衝撃的でした。スワンズのヤングゴッズレーベルからデビューしていて、ボーカルのポルトガル人の子が、そのあとに作ったServicesっていうバンドもカッコいい。
昔の音源を聞き返すことも多いんですが、ここ2年ほど聴いてるのは女性ボーカルのものが多いですね。書上奈朋子とか、いいですよね。『Psalm 詩編』と『BAROQUE/バロック』っていう2枚のソロアルバムが出ているんだけど、作詞作曲編曲からパフォーマンス、エンジニアまで、ぜんぶ1人でやってしまう。そして歌がとてもいい。あと、ハイエイタス・カイヨーテっていうバンド。ネオソウルって言われているけど、このバンドのボーカルの女の子がまた面白い。『Tawk Tomahawk』っていうアルバムが出ているので、それもぜひ。それから、デイヴィッド・リンチの秘蔵っ子と言われて売り出されたクリスタ・ベルね。リンチがプロデュースしたアルバム『This Train』でデビューしていて、震えるような危うさが横溢する歌なんだけど心地好い。あとは、日本の若いバンドで、tricotも好きです。別に女性ボーカルだけを聞きたいと思っているわけじゃないんだけど、気がついたら全部女性ボーカルばかりだね(笑)。
世界中、現在過去問わず面白い音楽はいっぱいあるので、色々と聞いてみてください。
(取材・文=永田希)
■リリース情報
『HARD CORE REVERIE』
発売:1月21日
スペシャルエディション[CD+DVD+写真集]:9800円
通常盤[CD]:3500円
〈収録曲〉
01. Prologue: Go Under
02. 春狂え
03. Dust Devil
04. Sign
05. Disquieting Muse
06. Chrysis
07. 真昼の揺籃
08. Goodnight Reverie
09. Unchained
10. Riding The Night
11. Killing Me Beautiful
■ライブ情報
MORRIE Solo Live 2015「HARD CORE REVERIES」
3月3日&4日
東京キネマ倶楽部2days
http://l-tike.com/morrie-hps2015/
■書籍情報
『Book of M: From Nowhere To Nowhere』
500部限定 (DVD付)。
2015月3月3日・4日 MORRIEソロライヴ東京キネマ倶楽部先行販売
(当日購入特典書き下ろし音源CD「From Nowhere To Nowhere」)。
写真集仕様 B4判(ハードカバー)
総頁数160 ページ (オールカラー)
DVD付 エディションカード付
定価19,440円(18,000円+税)