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英国の至宝XTCを聴けば、日本のポップ史が分かる?

音楽

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リアルサウンド

 ライターの小野島です。今回から洋楽のアーティストを紹介する連載を担当することになりました。新旧ジャンルを問わず、その影響を受けた邦楽アーティストとの関連を踏まえながら解説していきます。

 さて、先日パンク/ニューウエーブを紹介するラジオ番組「今日は一日”パンク/ニュー・ウェイブ”三昧」に携わった時、コメントゲストで出演してくれたのがサカナクションの山口一郎。彼が「パンク/ニュー・ウエーブこの1曲」ということで選んでくれたのがXTCの「Living Through Another Cuba」(1980)でした。

XTC「Living Through Another Cuba」(1980)

 XTCは英国出身。ボーカル/ギターのアンディ・パートリッジを中心にパンク・ムーブメントのさなかに頭角をあらわし、1977年にデビューした、ニュー・ウエーブの先駆けのようなバンドです。当初はキーボード奏者がいて、とんがったテクノ・ポップ的な位置づけでした。

XTC「Science friction」(1977)

 また1980年に発表されたアンディ・パートリッジのソロでは、こんな尖りに尖った、アバンギャルドなロックをやっていました。

Mr.Partridge (Andy Partridge)「The Rotary」(1980)

 当時YMOにいた坂本龍一は、これなどに触発されてソロ・アルバム『B-2 Unit』を作ったとも言われています。アンディ・パートリッジはその『B-2 Unit』にギタリストとして参加しています。それがこの曲。

Ryuichi Sakamoto「Not the 6 O’Clock News」(1980)

坂本龍一『B-2 Unit』収録

 やがてキーボードが脱退し、代わりにギターが加入してから音が変わり、XTCは本格派のロック・バンドとしてぐっと評価を高めました。前記の曲は通算4作目、ギター・バンドになってから2枚目のアルバム『Black Sea』(1980年)に収められています。中期XTCの最高傑作との声も高い充実作です。

 ビートルズ直系の非常にキャッチーな英国風メロディ、独特な和声感覚、鋭角的なリズム、屈折したポップ・センス、緻密にして凝りに凝ったアレンジと演奏。英国ロックの最前線にたったXTCですが、しかし、このアルバムを最後にライブ活動をやめてしまい、非常に趣味的な渋好みの室内楽的英国ポップに移行してしまいます。もちろんそうなってからのXTCも素晴らしいんですが……。

XTC「Dear God」(1987)

 ライブ・バンドとして、時代と並走していたころの生々しくダイナミックなロックとしては、山口さんの挙げた「Living Through Another Cuba」のころがベストだと思います。

 山口さんは前記のラジオ番組で「ビートルズにも通じるベーシックなところから出発しながら、常に聞き手を裏切りながら進んでいく、その裏切り方が気持ちいいし、今の僕らにも通じる。僕が音楽を探す時に基準にしている、<よい違和感>に繋がっている」と語っています。とはいえサカナクションの曲で直接的にXTCの影響を感じさせる曲はそんなにないんですが、例えば『kikUUiki』(2010年)に入ってる「壁」という曲の陰りを帯びたメロディなんかは、XTC(アンディ・パートリッジ)に通じるものがあると思います。

 XTCの全盛期は80年代なので、リアルタイムで聴いていた音楽家たちは、もちろん大きな影響を受けています。代表格がムーンライダーズの鈴木慶一やカーネーションの直枝政広ですが、これなどはかなりモロにインスパイアされてますね。

カジヒデキ「ラ・ブーム~だってMY BOOM IS ME」(1997)

カジヒデキ『ミニ・スカート』収録

XTC「Mayor Of Simpleton」(1986)

XTCはどちらかといえば本国よりも日本で人気が高かったりしますが(同じように日本で人気が高いのがトッド・ラングレン)、90年代のブリット・ポップにも多大な影響を及ぼしています。代表格がこの人たち。この曲が入っているアルバム『Modern Life Is Rubbish』(1993)は、当初アンディ・パートリッジがプロデュースをやる予定だったとの話もあります。

Blur「For Tomorrow」(1993)

 そんなわけでサカナクション以外にも、ブリットポップ経由でXTCに影響された日本の若手も多いはず。意外なところではこの人たちなんかも。前記の「Living Through Another Cuba」と聴き比べてみてください。

SPECIAL OTHERS「AIMS」(2011)

SPECIAL OTHERS『Good Morning』収録

 生粋のライブ・バンドのスペアザだけに、『Black Sea』期のXTCの生々しくダイナミックなライブ・サウンドに触発されたとしても、おかしくないですね。ライブ・バンドとしてのXTCの凄さはこのあたりをご覧ください。

XTC live at Rockpalast「Living Through Another Cuba 〜 Generals & Majors」(1982)

XTC『BBC Radio 1 Live』収録(※編集部注:廃盤。収録されているのは同じ楽曲ですが、演奏は異なります)

 ビートルズ伝統の王道英国ポップと、ニュー・ウエーブ以降の尖ったサウンド、ひねくれたユーモア・センス。XTCは現在は活動休止中ですが、現在でも通用する音楽だと思います。これを機会にぜひ聴いてみてください。

■小野島大
音楽評論家。 時々DJ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』などに執筆。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)『音楽配信はどこに向かう?』(インプレス)など。facebookTwitter