『サバ婚』が描く、一生懸命に恋をすること 奈緒の“あっぱれ”な努力を考える
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黒木さやか(波瑠)と栗原美里(奈緒)は、物語を通じて正反対のキャラクターをもつ者同士として描かれてきた。祐一(吉沢亮)を巡って、さやかと火花を散らす美里は、どう考えてもさやかとしては素直に受け入れることが難しい存在のように思われてきた。ただ第5話では幾分か、そんな美里に対してさやかが理解を示したのだ。一見、真逆の女性同士でありながら、2人が抱えているものは案外似たようなものなのかもしれない。そこで、今までの2人の“バチバチ”を振り返りつつ、『サバイバル・ウェディング』(日本テレビ系)から垣間見える、女性の生き方を見ていく。
参考:波瑠と吉沢亮が急接近!? 『サバイバル・ウェディング』さやかの魅力が柏木の心を動かす
男ウケする服を着るようにしろとか、男性が喜ぶようなスタイルを保つようにしろ(伊勢谷友介演じる宇佐美曰く、痩せていればいいというわけではないのだとか)といったようなことを宇佐美から命令されると、初めは抵抗感を示すさやかであった。そうしたことをすること自体、あまり気が進まないということもあるのかもしれないが、まるで恋愛のために、男性に合わせていくことに違和感を抱いている場面があった。
反面、美里の方は、さやかが度肝を抜くほどに、アグレッシブに振る舞っていく。さやかや祐一を交えた合同の打ち合わせであろうと、可愛さを打ち出したファッションを身にまとい、祐一や上司に話しかけるときには、媚を売るかのようなトーンで甘えた声を出す。祐一と食事をしたときにはボディタッチだけにとどまらず、臆面もなく祐一に恋人の有無を尋ねたり、合コンさながらのトークをふっかけたりと、さやかが言うようにまさしく“策士”なのである。
ただ、第5話では、関係する会社の不手際が原因で徹夜に追い込まれている祐一のために、手作りのサンドイッチを作ってきた(ご丁寧にウェットティッシュの箱まで用意した)美里に対しては、さやかは「敵ながらあっぱれ」と心の中で思ってしまう。さらに、さやかはそんな美里の様子を見ながら、「この子はこの子で、一生懸命なんだよな……。私とタイプが違っても、闘い方が違っても、一生懸命、恋してる」としみじみ考える。恐らく、さやか自身は美里のようなアプローチの仕方はできないということが何となく分かっているのだろう。ただ、 “一生懸命に”“恋をする”という一見矛盾しているように感じるこの言葉は、さやかたちが物語の中で抱えているものを言い表しているようだ。
というのも、恋をするということは理想的には、もっと自由に、気軽にできればいいのだけれど(現実には、そんな気楽なことは言っていられない場合がしょっちゅうあって)、“一生懸命”にならざるを得ないときがある。そんな時、とても悩む。美里のように、男性が言うところの女性らしさを武器として全面的に駆使していくというのは、はっきり言ってあまりにもストレスフルなことである(だいたい、あんな時間帯にあれだけのサンドイッチを作ってくるなんて、いくら好意を寄せている祐一のためとはいえ、さすがに美里も頑張りすぎている感が否めない)。
一方、思い返せば、さやかもさやかで“一生懸命”になってきた。ただ、宇佐美の指南のもと、男性のニーズに答えるべく“愛され系ファッション”や“木のポーズ”によるストレッチに至るまで様々な取り組みをしてきたものの、実際に祐一が本当に評価しているさやかの側面はそこじゃないように見受けられる。もちろん、祐一は一連のさやかの努力が実ったこともあって、「印象が変わった」とか言って褒めてくれる。ただ、第5話の終盤でさやかのことを“素敵”だとしたのは、サラリーマンで溢れ返る居酒屋で過ごしたさやかとの時間や、さやかがインドでダンボールを敷いて寝た話が印象に残ったからということだった。要するに、ある程度はさやかの外見的変化とかも影響しているのかもしれないが、居酒屋やインドでの寝泊まりの話のような、小手先の技術で飾らない“素のさやか”が垣間見える時にこそ、良さを見出しているのだ。そんなさやかのことを、祐一は、「強いというか、1人でも生きていけるというか。そういうところが素敵だなって」と評する(さやか本人はあまりその言葉をポジティブに捉えてはいなかったけれど)。
さやかにしろ、美里にしろ、多かれ少なかれ女性として“一生懸命”になっている中、作中での祐一はどこかそんな女性たちに向けて、「あまり一生懸命になりすぎなくて良い」こと、言い換えれば、男性のために過度に“女性らしく”いなくてもいいのではということを伝える役割を担っているように感じられる。美里も美里で、祐一からはその良さを認められている。新製品のことに関しておよそ3時間に渡って打ち合わせしたことを受けて、「栗原さんって本当に仕事熱心ですよね」と呟く。ただ当然のことながら、ここでいう“熱心”とはあくまで仕事での意味であって、日頃の美里の“あざとさ”を想定している訳ではないし、実際祐一はさやかが考えている以上に、そうした美里の可愛さアピールに対して心を動かされているとは思えない。
本作のタイトルに含まれる“サバイバル”という単語は、もちろん、半年以内に結婚をしなければならないさやかの立場を言い表すために使われているのであろうが、ある意味、恋愛の中での試行錯誤の様に絡めているとも言えなくもない。これからもさやかはあれこれ悩みながら祐一にアプローチしていくのであろうが、そんなさやかに幸せが訪れることを楽しみにしていきたい。(國重駿平)