ONEOR8が異色作『誕生の日』で示す新たな一歩
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ONEOR8『誕生の日』
劇団ONEOR8の2年ぶりの新作公演『誕生の日』がまもなく開幕する。外部プロデュース公演でも脚本、演出などで目覚ましい活躍を見せている劇作家、演出家の田村孝裕が、「評価を直に感じるので、一番緊張する」と語るホームグラウンドでの、久々の書き下ろしである。ささやかな日常を懸命に生きる人間の感情の揺らぐ様を、鋭く、温かく見つめ、繊細に描き出してきた田村が、新たな主人公としたのは40歳を目前にした独身女性。この設定だけで同世代の女性たちの共感を誘う田村の世界が炸裂しそう……と期待を募らせていたところ、そこには思いもかけない、これまでの田村のアプローチとは確かに違う驚きの仕掛けがあった。挑戦のきっかけは、危機感だ。
「当たり前ではあるけど、いつまでも若手とは言っていられない。自分たちの芝居を古いと自覚して芝居を作っていかなくては、このままではヤバいぞと(笑)。古いというか、自分が面白いと思っているものと、世の中で評価されたり、面白いとされているものがだんだん違ってきていると感じているんですよね。“劇団力”といったものをつけていかないと、どんどん取り残されてしまう。一昨年に劇団創立20周年を迎えて、今回はリスタートの気持ちでやろうよ、と」
バーを営む木村加寿美は39歳、独身。幼い頃から男の子に見間違われてきた。思春期に女性としての自我が芽生えるが、容貌のコンプレックスからいわゆる“女らしさ”はすべて排除し、恋愛沙汰とももちろん無縁。オバサンと呼ばれる年齢となった今も化粧もせず、見た目はオッサンのままで……。そんな主人公に扮するのは、劇団員の山口森広だ。女性キャラクターを、男性が演じる。まさしく演劇の妙味ともいえるが、ジェンダーに対する問題意識が高まる昨今、このような切り口を選んだのはなぜなのか。
「自分の母校である舞台芸術学院の公演に関わった時など、やっぱり若い子と僕らの感覚はだいぶ違うなと気づかされるんです。性に対する飛び越え方が全然違うな……ってことは前々から感じていて、そのあたりのことを書いてみたいなと。ただ、いわゆるホモセクシュアル、レズビアンといった題材になってくると、僕自身がどうしても差別的な視点で見てしまう。たとえば女装家だとか、山口そのものをノーマルではない人物として描くとしたら、おそらくその差別意識が全面的に出てしまうなと。その描き方がはたして正しいのか、僕の中で疑問があったので、だったら彼を女として書いたほうが、僕の持つ差別的な視点そのものもちょっとした笑いに転嫁することができるかなと。自分がそうした差別意識を持っていることは、正直に、なるべく隠さずにいようと思って書きました」
そう、焦点はLGBTではないのだ。ひとりの女性が、心の傷をどう解消し、新たな一歩を踏み出していくのか。そのドラマを覗くことで、やはり各々の性差に対する考えがあぶり出されるだろう。男優が女性を表出する仕掛けは、過度な深刻さを避けて空気を緩和しながら、人間関係の新たな気づきをもたらすのでは……、そんな予感がする。
「最初はLGBTについて触れないといけないかな……とも思いましたけど、そこに僕なりの説得力がなかった。加寿美のように生きてきた女友達が僕の周りにもいるので、そういう人に視線を向けたほうが僕自身のリアリティが出るなと思ったんですね。ただ芝居の匙加減をどうすべきか、ずっと悩んでいて。観客がどう受け止めてくれるのか、今から不安です(笑)」
これまでの劇団公演とは違う新たなドラマの打ち出し方は「自分でも意識した」と明言。昨秋、数々のヒットドラマを手がけた脚本家、岡田惠和の書き下ろし舞台『不機嫌な女神たち プラス1』を演出した。その時の経験が大きく影響していると振り返る。
「ホンをいただいて、すごく困ったんですよ。これ、どうするの!?って(笑)。ある状況から状況への飛躍が生理的に無理じゃないか……、ここでこのセリフをしゃべっちゃう!?といった場面が多々あって。でもそれって、意外と役者さんがどうにでもしてくれるんですよね。役者の力ってすごいなと、あらためて思いました。その時に、ある程度面白いと思ったものなら、強引に、乱暴にでも書いてしまっていいんだなと思って。頭で書くんじゃなくて心で書く、岡田さんのホンはそんなふうに感じられた。岡田さんはきっと、ディレクターさんや役者さんのことをものすごく信頼しているんですよ。その信頼のもとに、自由に書いている。信頼関係の上に成り立つのなら……と考えて、実は今回の『誕生の日』は、だいぶ乱暴に書いたんです(笑)。いつもだったら二の足踏んで、立ち止まって、戻って、もう一回書き直して……なんてやってますけど、それをせずに、演出のことも考えずに」
劇団ONEOR8のリスタートのテーマは、「劇団の体力をつけよう」。集客を含めて、劇団本来が持つ力を見直していく。そのため今回の新作公演は、著名な客演を迎えない、小劇場での長期間公演など、新たな試みに乗り出した。先述のように田村の劇作スタイルも新境地へ。ただ、描き出したい芯は変わらない。今回も、ひとりの女性の葛藤を時に笑いを交えて見つめながら、胸にガツンと響く何かを受け取ることになるのだろう。
「表現の仕方は試行錯誤して、変化をつけていかなければと思いますが、僕自身が書きたいものは、劇作を始めた時から変わってないなと。どうしようもなくがんじがらめだけど一生懸命に生きる人たちが、何を選択し、どう動くのか。前進でも後退でもいいから、その登場人物の一歩を見つめることが僕の興味であり、そこはこの先も変わることはないだろうと思います」
ONEOR8『誕生の日』は、1月18日(土)から2月2日(日)まで東京・日暮里のd-倉庫にて上演。
取材・文:上野紀子