三浦大知、「I’m Here」サウンド面に注目 自然な移ろいが表現する“みずみずしい生気”
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三浦大知の2020年は、陽光のごとく穏和なムードを携えての幕開けとなった。先頃リリースされた、通算26枚目となるシングル作品『I’m Here』。常に進化と変革を求めてやまない三浦大知らしいカッティングエッジな楽曲が3つ収録されているのだが、なかでも表題曲の「I’m Here」は、一足早い春を演出するハートウォーミングな要素の数々がひときわ耳を惹く。こんなにも“開放されたシングル曲”はいつ以来だろうか。肩の力を抜き、自分らしく歩いていくことを尊ぶ。同シングルにも収録されている「COLORLESS」でも歌われているように、独自性の賛美は今、三浦大知にとって欠くことの出来ない最重要テーマとなっている。
ふと大知の歌声に意識を向けてみると、いつものダイナミズムを抑え、誰かに語りかけるような優しい節回しを意図的に採っていることが窺える。「I’m Here」が主題歌に起用されている連続ドラマ『病室で念仏を唱えないでください』(TBS系)では、伊藤英明が僧侶と救命医の二足のわらじを履く役柄を演じているが、座禅の直後よろしく落ち着きを払った大知の歌唱こそ、個人的にはなかなか悟りを開いているように思う。
極め付きは、オリジナリティの塊ともいうべきサウンドワークだ。長きに渡って大知とパートナーシップを築くUTAが、音の足し引きを繰り返しながら躍動感を増幅させる魔法のようなトラックを提供している。楽曲は、16分音符を用いた小気味よいギターリフのパートからスタート。Aメロで展開するネガティブな独白に焦点を当てるためか、主旋律も五線譜の低い位置に置かれている。その後、打ち込みの力強いリズムが挿入され始めたのも束の間、サビではピアノとボーカルによるシンプルな編成となり、再びリズムを封じた空間に。かと思えば、大知の悠然としたコーラスが谺する朗らかなアレンジに模様替え……と、1コーラスだけでもこれだけの移ろいがあるのだ。もっとも、そこに強引なスイッチングは皆無。あくまでも自然に滑らかに、「I’m Here」の主人公が持つみずみずしい生気を大らかに表現している。「COLORLESS」のエキセントリックな離れ業にも驚いたが、こういったポップな曲調で味わうUTAの手腕もまた格別だ。
そもそもUTAと三浦大知は、いかなる環境においても柔軟に立ち回れるという共通点で固く結ばれている。ある時はアーティスト本来の音楽性を最大限に膨らませる誠実なスペシャリスト。またある時は、既定路線に風穴を開ける型破りなクリエイター。そんな風に、関わる作品やクライアントの意向に寄り添いながら作風を自由自在に変貌させるUTAの仕事ぶりは、AIやDEAN FUJIOKA、登坂広臣、JUJUら、著名かつ多才な面々に広く愛され、ここ日本の音楽シーンで不動のポジションを確立する推進力にもなっている。
そんなUTAが近年、もっとも密にセッションしていると思われる人物が三浦大知だ。早いもので、もう10年以上もコンスタントにコンビを組んでいるわけだが、楽曲の品質は衰えるどころか、ボーカルとサウンドが織りなす波長とともに年々精密さを増しているのだから感動を禁じ得ない。大知もまた、どんな曲調でも颯爽と乗りこなし、あっという間に会得する稀代のミュージシャン。おそらく、どこかのタイミングで両者のマインドは完全に同化し、今となっては全く等しいベクトルで切磋琢磨できているのだろう。でなければ、「I’m Here」「COLORLESS」のようなあまりに繊細で、一途な意志を内包した楽曲はきっと生まれやしないのだ。
彼らの詳細な功績については、枚挙にいとまがないため別の機会での言及に持ち越すとして、現時点で確かなのは、三浦大知がこのシングルで、またしても大勢のファンを獲得してしまう、ということだ。リリースされたばかりではある。が、決してハッタリなどではない。大知とUTA、互いの凄さを理解し合う二人だからこそ生まれ得た作品なのだから、その反響の行方など、初めから決まっているも同然なのである。(白原ケンイチ)