つんく♂や小室哲哉の流れを汲む存在に? ハロプロを支える音楽家・星部ショウのソングライティングを分析
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2018年に結成し、2019年8月にシングル『眼鏡の男の子/ニッポンノD・N・A!/Go Waist』でメジャーデビューを果たしたBEYOOOOONDS。彼女たちの1stアルバム『BEYOOOOOND1St』が同年11月27日にリリースされ、12月には初の単独ライブ『LIVE BEYOOOOOND1St』を開催。さらに『第61回 輝く!日本レコード大賞』(TBS系)では新人賞を受賞するなど大きな注目を集めている。
(関連:BEYOOOOONDS『ニッポンノD・N・A!』視聴はこちら)
BEYOOOOONDSは、ハロー!プロジェクト所属の12名からなる女性グループ。ハロプロ研修生の選抜メンバーで結成されたユニット、CHICA#TETSU(チカ#テツ)、雨ノ森 川海(あめのもり かわうみ)、および『ハロー!プロジェクト“ONLY YOU”オーディション』合格者という構成だ。『BEYOOOOOND1St』は全17曲中、12曲の作曲を星部ショウが手がけており(曲により、作詞と編曲も担当)、アルバム全体のカラーはもちろん、BEYOOOOONDSの音楽性は彼のソングライティングセンスが大きな位置を占めているといえよう。
2015年より作家活動をスタートした星部は、Bitter & Sweetの「真夜中のLonely」で初めてプロとして楽曲が採用される。以降はモーニング娘。やアンジュルム、℃-ute、Juice=Juice、Buono!など、ハロプロ所属グループを中心に数多くの作詞作曲・編曲を行なってきた。12歳でギターを始め、Boyz II Menに衝撃を受け様々な楽曲のコード進行をコピーしまくったというだけあって、非常に幅広いジャンルを手掛けている。
例えば『BEYOOOOOND1St』にも収録されたメジャーデビュー曲「ニッポンノD・N・A!」は、本人が公式サイトの「Liner Notes」でも解説していたように、「あの2018年大ヒット曲(筆者注:DA PUMPの「U.S.A.」のこと)の外角ギリギリを掠めるような曲」がコンセプト。サビでは星部いわく「TK進行」、つまり小室哲哉をはじめ90年代の多くのヒット曲(TM NETWORKの「Get Wild」や高橋洋子の「残酷な天使のテーゼ」、H Jungle with T「WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント」など、数え上げたらキリがない)が多用していたコード進行「Am → F → G → C」を、ド直球で用いている。また、16分音符でシンコペーションするハネるようなピアノとメロディの譜割りも小室の十八番だし(TM NETWORK「Self Copntrol」ほか)、サビ前の展開は渡辺美里の「My Revolution」やTM NETWORKの「SEVEN DAYS WAR」を、サビへの転調は「Get Wild」などを彷彿とさせる。ちなみに、メンバーがセリフを喋る中盤のブレイク部分は、Yellow Magic Orchestraの「U.T」をオマージュしていると感じたのは筆者だけだろうか。
「高輪ゲートウェイ駅ができる頃には」は、星部がディレクターと浜松駅前の歩道橋で立ち話をした際、「高輪ゲートウェイって、中央フリーウェイみたいだよね」という話題になったことがキッカケとなって生まれた曲。そのため、荒井由実「中央フリーウェイ」の歌詞〈右に見える競馬場 左はビール工場〉のアンサーともいえる、〈右に泉岳寺 左に巨大な 折り紙の屋根〉という一節が入っていたり、Aメロのコード進行が同じだったりと遊び心に溢れている。また、〈ゲートウェイ ゲートウェイ 高輪ゲートウェイ〉のコーラス部分はポール・マッカートニー&スティーヴィー・ワンダーの「Ebony and Ivory」から引用したことを、本人が「Liner Notes」で明かしているが、それでいうとイントロのベルは、ポール・マッカートニー&ウィングスの「Let ’em In」から来ているのではないだろうか。こうした小ネタを随所にちりばめるのが、星部のソングライティングの魅力の一つである。
「眼鏡の男の子」と「恋愛奉行」では、最近だと米津玄師のトレードマークともいえる五音音階、いわゆる「ヨナヌキ音階」を用いてどこか懐かしい「和」な響きを醸し出している。ちなみに「眼鏡の男の子」のサビのマイナー進行は、スティーヴィー・ワンダーの代表曲で、星部のフェイバリットソングである「Part-Time Lover」から。元ネタよりもテンポを上げ、ビートを強調することでダンサブルに仕上げている。
個人的に本アルバム収録曲で最も好きなのは、「都営大江戸線の六本木駅で抱きしめて」だ。「明るく可愛く」、「YMOから派生したようなテクノポップ感」、「地下鉄・電車」をテーマに、矢野顕子「春咲小紅」やEPO「う、ふ、ふ、ふ、」をリファレンス曲にオーダーされたというこの曲は、Aメロ、Bメロ、サビとセクションが変わるごとに転調を繰り返すマジカルなコード進行、中でもサビへ向かう4小節の洗練された響きがたまらない。メロディは、なるべく少ない音で抑揚を抑え、その分サビの〈君を深く深く… 愛しているのよ〉でポーンとファルセットに飛ぶところが絶妙なアクセントになっているのだ。
BEYOOOOONDS以外でも、例えばアンジュルムの「恋はアッチャアッチャ」ではボリウッドミュージックのイデオムを取り入れ、モーニング娘。の「恋のダンスサイト」や「ハッピーサマーウェディング」、ミニモニ。の「ミニモニ。ジャンケンぴょん!」あたりに通じる楽曲に仕上げたり、「明晩、ギャラクシー劇場で」では、「エッジの効いたビッグバンドサウンド」をテーマに大胆な転調を用いたり、ケレン味たっぷりの「つんく♂節」をしっかりと受け継いでいる。また、Juice=Juiceの「銀色のテレパシー」は、Aメロでリディアンスケールを用いてスペイシーな雰囲気を作り出しているが、サビ前のところでマイケル・ジャクソンの「Rock With You」をオマージュするなど、ここでも音楽好きをニヤリとさせる仕掛けを施しているのだ。
90年代J-POPや昭和歌謡、洋楽ヒット曲、ジャズ、民族音楽など古今東西、実に広範な音楽要素を分析・引用し、邦楽のフォーマットに落とし込んでいく星部ショウ。つんく♂や小室哲哉の流れを汲む彼のソングライティングスタイルが、今後どう進化していくのか非常に楽しみだ。(黒田隆憲)