最もショッキングな場面が訪れる 戦争激化の『この世界の片隅に』ついに“死”の影が見え隠れ
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昭和20年の3月、呉の町に空襲がやってくる。8月19日に放送されたTBS系列日曜劇場『この世界の片隅に』第6話は、ドラマの折り返し地点を迎え、着実に“昭和20年の夏”が迫ってくると同時に、激化してくる戦争、その中でいつもと変わらぬ“暮らし”を送ろうとする人々と、そして“死”の影が見え隠れし始めるエピソードとなった。
参考:ドラマ『この世界の片隅に』“Special thanks問題”を考え【写真】
空襲を受けた後でも、綺麗に咲き誇る桜を見るために公園に向かうすず(松本穂香)ら北條家の人々。公園には多くの市民が、これが最後かもという思いを胸に、いつもと同じ春を過ごしているのだ。そこですずは、リン(二階堂ふみ)の姿を見つけ、家族と離れてリンの元へ向かう。遊郭の近く以外で、この2人が会うのは初めてのことだろう。
「高いところ好きなんよ」と言って木に登りはじめるリンが、さりげなく幼い頃に屋根裏に隠れていたということを語るが、すずは他のことを考えていて聞いていない。この台詞こそ、アニメ映画版では描かれていなかった(12月に公開するバージョンでは描かれるのだろうが)、幼い頃にすずが出会った“座敷わらし”の正体が、リンであったことを示唆しているわけだ。
桜の木の枝に腰掛け、会話をするすずとリン。すずを取り残して木から飛び降りるリンと、なかなか降りられなくてその場から動けずにいるすず。そして、そんなすずを探して周作(松坂桃李)が迎えにくるときのショット。桜の美しさと同時に、誰もが知るその花の儚さが、あたかもこれから劇中に訪れる悲しい戦争の描写を物語っているかのように映し出される。
日常から戦争へと移り変わることを告げるこの花見のシーンでは、同時に“死”がすぐそばに迫っていることが語られる。先週の放送ですずが遊郭を訪れ、ザボンをあげたテル(唐田えりか)が亡くなったことを知らされるのだ。そして、木から降りたすずの目線の先で、振り返るリンの姿。神々しくも輝き、桜の花びらが彼女の周りを舞い散っていく。どことなく、死相を漂わせたそのショットからは、もうリンが登場することがないのではと予感せずにはいられないほどだ。
そして物語は戦争に飲み込まれていく。相次ぐ空襲警報と、それに対する備え、そして防空壕の中での様子。円太郎( 田口トモロヲ)が働く工場が爆撃されて消息が掴めなくなり、周作が軍人として訓練を受けるために家を離れることに。そして女性だけになった北條家だったが、ほどなくして円太郎の行方を突き止める。そして、この物語で最もショッキングな時限爆弾の場面が訪れるのだ。
言葉を失うシーンではあるが、戦争というもののありのままの姿を描写する上でも、この物語を描く上でも決して欠かすことのできないこの場面。正直なところ、この場面に臨むために1週間も心の準備をする時間を与えてもらえるのは、連続ドラマとしての最大のメリットなのかもしれない。しかも、次週予告を観る限り、さらに8月6日まで描かれるようだ。(久保田和馬)