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V系シーンを代表するバンド R指定とは何だったのか? “凍結”前ラストライブから感じたこと

音楽

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リアルサウンド

 『R指定⼗周年記念47都道府県単独公演ツアー 「CLIMAX47」』、ツアーファイナル公演が、12月29日、東京・両国国技館にて開催された。

(関連:R指定は、なぜ多くのバンギャルの心を掴む? 金爆 歌広場や鬼龍院も注目する“V系らしさ”とは

 全国47都道府県を廻ったツアーの最終日、そして去る22日、突如発表された通り、この日をもってR指定は、改名でも叙述トリック的な悪趣味パフォーマンスでもなく、バンドを「凍結」する。

 あまりにも突然の告知に、困惑するファンもネット上には多数見受けられ、事態を飲み込めないまま、ライブ当日がやってきた。会場に集った指定女子・男子(ファンの通称)の間には、これから始まるライブが楽しみであると同時に、「凍結」に対しての複雑な想いもある、様々な感情が入り混じった空気が漂っていた。

 開演時刻を5分ほど過ぎた頃、客席の照明が落ち、童謡「夕焼小焼」をアレンジしたSEが流れ始める。十字架をあしらった(マモ曰く「十周年の“十”」とのこと)セットを背にし、マモ(Vo)、Z(Gt)、楓(Gt)、七星(Ba)、宏崇(Dr)のメンバー5人が特効と同時にせり上がりでステージに登場。5人が向き合い“気合い入れ”をしたのち、それぞれの立ち位置へ向かう。

 宏崇の繰り出す高速ビートに、観客からは“待ってました”と言わんばかりの大きな歓声が上がる。このツアーのテーマソングである「CLIMAX」でライブはスタート。続いての「EROGRO」では、大会場ならではの贅沢なレーザー使い、そして「アポカリプティックサウンド」の特効と同時に花道に駆け出すZと楓のギター隊のかっこよさときたら!

 今回の47都道府県だけでなく、3年前には“八十八箇所巡礼”を掲げ全国88箇所をまわり伝説を残した彼ら。そしてライブハウスだけでなく、これまでの渋谷公会堂や中野サンプラザ、幕張メッセホールなどの中規模~大規模会場でのワンマン経験含めて、ライブバンドとしての経験値はこのシーン切ってのものだということを序盤から感じさせてくれる。

 MCではマモの「“ライブハウス両国国技館”にやってまいりました」と、昭和から続くロックバンドの定番(?)MCから始まり、過去にツアーファイナルでは悪天候に見舞われることも多かったことに触れ、「今日、この10年で1番大事じゃないですか。天気も味方してくれました! 地球さんありがとう!」と観客の笑いを誘った。

 そして、「今日は色んな想いをもって集まってくれたと思います」と言葉を続ける。「普段なら(“凍結”の)発表があってから“来ようかな”なんていう奴は、僕的には“くそくらえ”なんですが、今日だけは許します、優しいお兄ちゃんになります。ここに集まってくれた皆が、“指定男子、指定女子”ということで。ラッパー(R-指定)と勘違いした人もいるかもしれないけど、会場がひとつになれたらと思っております」と、マモ流のジョークをはさみながら現在の心境を述べると、観客からは大きな歓声が沸き上がった。

 キャッチーかつ切ない「ラストレイン」、重厚な雰囲気をたたえた「アビスカルマ」、そしてアングラポップな「ぼくらのアブノーマル」では、拡声器を手にしたマモが花道に駆け出す。バラエティに富んだR指定の楽曲の魅力をみせつけていく。

 2度目のMCでは、「メンバーの気持ちはメンバーにしかわからないから……」と、普段はアンコールでしかメンバーMCはないのだが、最高の1日にして帰ろうと言うZ。自分にしては珍しく、無事に東京に戻ってこれたことを安堵する宏崇。ファンやスタッフに対して“人生で最高の1日”にしようと煽る七星。何か言おうとしたところでマモに遮られる楓。それぞれが、このライブに対して想いを語った。

 「喪失-soushitsu-」のイントロが響き渡り、「行けるか両国!」とマモが煽ると、客席からは拳が無数にあがる。サビではシンガロングが巻き起こり、その光景に満足したようにマモが「愛してる!」と応えると、さらに会場は熱を帯びていく。

 中盤のセクションは、「予言」、「-ZANGE-」、そして「-SHAMBARA-」といった、宗教色のある楽曲が配置され、セットの十字架が効果的に使用された演出、レーザービームや照明も雰囲気にあった効果を生み、大会場ならではの興奮を巻き起こす。そして、楓のカッティングが空間を切り裂き始まったパンクチューン「人生謳歌」は、先程までの重厚な雰囲気を振り払うかのように、力強さに満ちていた。

 「大きな会場でよくやる、アレやっていい?」と、1階スタンド、2階スタンド、アリーナと続けて煽っていくマモ。「今日はバンドマンも沢山来てくれていると思うんですけど、どうですか?  うらやましいですか?」煽るように続けていく。「いいだろう? バンドマンにとってアリーナはひとつの憧れ。どうやったらここに立てるのか教えてやろうか? まず“ライブ後のツーショット撮影会”をやめろ! ヴィジュアル系はミステリアスさを大事にしなきゃ!」と皮肉をチクリ。

 「時代のせいもあるかもしれないけど、俺らは反骨精神で時代に逆らってきました。その結果ここに立っております。それを受け止めるか、捨てて帰るかは勝手です。これはエールです。昔からヴィジュアル系バンドが好きだからこそ“だせえことしてんじゃねえぞ”と、誇りを持ってシーンを盛り上げてください」と後輩に対して発破をかけた。

 そして、投下された「フラッシュバック」に、水を得た魚のような反応をみせる指定女子と指定男子。おなじみの七星のベースソロで始まる「-死刑-」では、「殺す」コールの巻き起こる中、花道で「もっと行けるだろ!」と煽るマモ、ステージから降りたかと思えば、ファンにベースを預け、客席をひっかきまわす七星。バンドとファンの化学反応で、さらなるカオスを生み出す。続いて「毒廻る」、「病ンデル彼女」を畳み掛け、本編は終了した。

 アンコールでは、黒いジャケットをまとったマモが登場(他のメンバーは黒いツアーTシャツを着用)。そして、先日発表されたばかりの『遺書』から、マモがアコースティックギターを奏でながら始まる「-青春-」に続いて「シンクロ」が披露された。

 その後、始まったフリートークでは、メンバー同士で47都道府県ツアーの感想や、国技館のステージに立った感慨を語り合ったり、マモの黒いジャケット衣装は90年代V系を意識したものだと明かされたりした。マモ曰く「今日は卒業式みたいなものだから」と、BGMにのせて、「楽しかった47ツアー(47ツアー)」「辛かった車移動~(車移動~)」と、卒業式風にツアーのエピソードが紹介された。大半がネットメディアに出すには憚られる飲酒関連の失敗で、場内は大爆笑。“凍結”ライブとは思えないほど、底抜けに笑える内容だった。 そして、ようやくマモの口から“凍結”の真意が告げられた。

「方向性やメンバーの仲とかありきたりなことは言いたくない。10年間休まずやってきて、今が最高潮。これ以上のことを、どうやっていこうかと考えた時、思い浮かばなかった。そんな気持ちでやっても皆に失礼になる。時間が欲しい」

 そんなふうに、丁寧に言葉を選びながら、今の心境を語っていった。

「マモから(凍結を)言われた時は、一瞬迷ったんだけど、バンド始めるときもそうだったけど、だいたい“いいよ”って。押さえつけられてやるのは嫌いで、後悔はない。これを無理やり押さえつけるほうが後悔すると思ったから。今すぐ死ぬわけではないから、受け止めてください」(Z)

「“俺が今日死ぬ”みたいな勢いのメッセージが沢山来てたんですが(マモ“俺も恐怖新聞みたいなDMめっちゃ来た”)。僕は今日で死なないし、R指定も死んだわけではないですから、“凍結”という形になりますけど、ぬるぬるやっていくよりは、1回止めて考えるだけ考えて、その先に何があるのかはわからないけど。とにかく、僕は死なないので(笑)」(宏崇)

「会えなくなるとは言いますけど、地球にいる限りは同じ空気を吸ってるわけだし、昼も夜も同じ空を観てる……南半球は違う(笑)? 今日を最高の思い出にしたいと望んでいました。親愛なる君たち、優秀なスタッフ、最高のメンバー、10年間で最高のライブを作りあげることができました」(七星)

「最初に活動を止める話が出た時に“活動しながら考えるのは無理なのか”と話したけど、付き合いも長いし、ここまで迷ってるマモを見るのは初めてだった。逆に、いつもイケイケなマモが不安そうに“どう思う?”と聞いてきたときに、時間がいるなって。辛いかもしれないけど、今日は残り楽しんで」(楓)

「今、“変わらないこと”にずっとモヤモヤしていて。今のヴィジュアル系シーンが、なあなあというか、ズルズル続いてることに“このままやってて意味あるのか”と思うこともあったし。“じゃあ自分で変えろ”という意見もあるかもしれない。けれど、変えたいからこそ、この道を選んだし、また革命を起こすかもしれない。今は“絶対復活する、また会おう”とか、期待させることはできない。でもこの10年間は輝かしいものだったし、皆さんには感謝しています」(マモ)

 優しい口調だけれど、安易な嘘はつかないマモ。そして言外にマモを尊重していることが伺える、メンバーの言葉。それをひとつひとつこぼさないように、聞き入る指定女子、男子たち。

 そして、ちょっと沈んでしまった空気を明るくするために、ツアー中に高崎clubFLEEZでもらったダルマに、楓のかなり適当な弾き語りに乗せて目玉を書き込む儀式(?)が行われた。「最後の最後までブチ切れて行こう! 最高の景色見せてくれ!」と、マモが悲しい雰囲気を打ち破るかのように、「規制虫」、「魅惑のサマーキラーズ」など、アッパーチューンを連打する。

 ダメ押しの「VISUAL IS DEAD」では、「誰もやらねえなら誰がやる誰がやる……俺しかいねえだんよ!」と咆哮するマモ。似たようなバンドが跋扈するシーンに対するフラストレーションを歌った曲だか、この日の「VISUAL IS DEAD」は後輩のバンドらに対して、“じゃあ、君たちはどうする?”という彼らなりの激励、発破のように思えた。

 思えばR指定はずっと、死にたいは生きたい、皮肉屋だけど真摯、そういった相反する要素が魅力のバンドだった。だからこそ、この時代を代表する存在になったのだ。

 最後に、改めて今日をもって“凍結”することを宣言するマモ。

「皆の青春を俺たちに預けてくれたからこその、俺らの青春でした。その青春を、一度お返しします。大事に素敵な思い出として、胸にとっておいてください」

 「心を込めて歌います」と、会場中に降り注ぐ銀テープの中、「-透明-」が届けられた。そして、メンバーの名前を呼ぶ歓声を愛おしそうに受け止めながら、彼らはステージをあとにした。終演を告知するアナウンスが繰り返される中、アンコールの声はずっと止まない。けれど、彼らがステージに再び姿を現すことはなかった。

 R指定とは何だったのか、“2010年代ヴィジュアル系シーンを代表するバンド”、“ヴィジュアル系シーンにメンヘラカルチャーを広めたバンド”、人によって様々な分析や捉え方ができると思う。けれど、確実にいえるのは、誰かの“青春”だったということで、それは若年層に人気があるという意味だけでなく、彼らと出会うことで“青春”を再び手にした、やり直した者だっていただろうし、青春をまっとうしている指定女子や男子をみて、懐かしく思う大人だっていた。この日のライブは、そんな人たちの“大事な想い出”であろうとする、彼らのプライドを感じるステージだった。

 おやすみなさい、R指定。またどこかで。この10年、ヴィジュアル系シーンに貴方たちがいてくれてよかったと心から思うのだ。(藤谷千明)