『スカーレット』喜美子と八郎の埋められない溝 女性陶芸家として生きるということ
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はじめての窯焚きは穴窯の温度が十分に上昇せず、求めていた色あいからはほど遠い仕上がりに終わった。窯焚きの費用は15万円。昭和40年代当時の額なので今ならその数倍になる。先の見えない状況に、八郎(松下洸平)は陶芸展で金賞を獲って世の中に認めてもらうべきだと主張する。
参考:『スカーレット』第99話では、八郎(松下洸平)が(戸田恵梨香)に穴窯の中断を進言するが……
『スカーレット』(NHK総合)98話では、女性陶芸家として生きることがどういうことであるかが描かれた。八郎は窯業研究所の柴田(中村育二)と美術商の佐久間(飯田基祐)から喜美子(戸田恵梨香)への厳しい言葉を浴びせられる。
「陶芸は男の世界やで」と言う佐久間は「陶芸家・川原八郎の奥さん言うさかい、みんなどっかなまぬるう見てあげてるだけやで。ハチさんがいのうては、ただの陶芸好きのおばさんや」と突き放す。柴田が見せたのは穴窯を取材した記事。写っているのは八郎ひとりで喜美子の名前はそこにはなかった。
八郎の言葉は自身の経験を踏まえてのものだったが、喜美子は「どうでもええ」と気にとめなかった。「売れるための名声を手に入れようゆう話や」と説得する八郎に、「そんなんいらん。『今の喜美子やったら売れん』言うなら、もっと誰もがみんな『ええなあ』言う作品をつくるのが筋ちゃう?」と返す。しかし、そんな作品はないと八郎。
話は平行線のまま「かわいがってもらえ。女性陶芸家として受け入れてもらえ」と八郎は諭す。陶芸の世界で女が生きていくには男たちの庇護を受けるしかない、とも取れる八郎の一言に、喜美子は、「一回目失敗したんはよそに気持ちが行ったからや」ととっさに口走ってしまう。八郎と三津(黒島結菜)が寄り添って眠っていたことを責め、二度目の窯焚きを八郎に承知させた。
「男やったらよかった」という言葉は、三津の場合、「自分が男だったら八郎を好きにならなかった」だが、喜美子の場合は「女性であるというだけで差別されたくない」という気持ちも込められている。しかし、その思いは八郎には通じない。「お母ちゃんはしくしく泣いたりしいひん」と息子の武志(中須翔真)は言うが、幼い頃から家族を背負ってきた喜美子にとっては、泣きたくても笑うしかない状況もある。
喜美子としては、有名だから、あるいは女性陶芸家だからということではなく、あくまで良い作品を作って認められたいと思っており、そのためには一切妥協しないということなのだろう。男性優位な陶芸の世界では、喜美子の進む一歩一歩に偏見と誤解がつきまとう。二度目の窯焚きも失敗に終わり、後がなくなってしまった喜美子。燃えさかる炎に何を思うのだろうか。
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。