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ネクライトーキー、ニガミ17才らが2020年代ロックシーンを動かすーー時代の変遷とともに手にした“独自性”と“大衆性”

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リアルサウンド

 2020年代の幕開けと共に、大きくロックシーンが動き出していく予感がするーー1月29日にリリースされるネクライトーキーのメジャーデビューアルバム『ZOO!!』を聴いて、はっきりとそう思った。

 まず、今作について語る前に、2000年代~2010年代のロックシーンの流れを、ざっくりとだが総括しておく必要がある。遡れば2000年前後はBUMP OF CHICKENを筆頭とした下北沢系ギターロックや、Hi-STANDARDが火をつけたメロディックパンクのムーブメントがあった。もちろん、蓋を開けてみれば、ムーブメントなどでは括れない、個性豊かなバンドも数多く存在していたのだが、この時期に確かな意志を持って結成されたバンドは「偉大なる先人を越えていくには?」「一括りにされないようにするには?」などといった課題と向き合っていたように思う。また、時を同じくして、アメリカでは、爆音でテクニカルでフリーキーなAt the Drive-Inが躍進。彼らの存在は日本のロックシーンが課題を突破するひとつの光明にも捉えられる気がしたのだが、実際にアンダーグラウンドではポストハードコアと呼ばれる先鋭的なバンドが時代を切り開き始めていた。そんな中から、メジャーシーンに打って出た代表格が、凛として時雨と9mm Parabellum Bulletだ。

 静寂と獰猛を切実に行き来する凛として時雨と、流血も恐れないとばかりに激しいパフォーマンスを繰り広げる9mm Parabellum Bulletは、全く違う魅力を持っていたが、「変則的なサウンドデザイン」と「爆音」という武器は共通していた。これまでメジャーシーンで鳴り響くことが少なかったタイプの楽曲に、多くの人が刺激を受けることとなったが、それはリスナーのみならず、バンドマンの卵についても同じだった。「変則的なサウンドデザイン」と「爆音」は、ロックシーンの課題と向き合うヒントとなり、多くのバンドが、技巧を磨き、気迫ある音を作り、他にない楽曲を生み出すことに取り組んだ。なお、「爆音」ではないが、the band apartのボサノバやフュージョンを取り入れた斬新かつポップなミクスチャー感覚も、(時雨や9mmより登場が早かったという意味でも)2000年代を語る上では欠かせない。

凛として時雨『DISCO FLIGHT』
9mm Parabellum Bullet – Discommunication

 そして2010年代。2000年代に生まれた数々のロックフェスティバルが定着し、目標が「フェスに出ること」というバンドも現れ始めた。フェスという、自分たちのファン以外も集まる場所を盛り上げるためには、2000年代に追い求めていた「独自性」だけではなく、「大衆性」も必要となる。そういった中で頭角を現したのが、KEYTALKやKANA-BOONだ。KEYTALKはバリバリの技巧派だが、あくまでポップソングを追求。KANA-BOONはギターロックを出自としながら、時代の空気をビビッドに反映させることに長けていた。そんな両者に共通していた武器が「四つ打ち」。2000年代に海外で流行したディスコパンク(日本ではthe telephonesがいち早く取り入れた)と、日本のフェスの隆盛がシンクロし、シャイな人も開放させる魔法を持った四つ打ちナンバーがフェスを踊らせることとなる。

KEYTALK/「MONSTER DANCE」MUSIC VIDEO
KANA-BOON 『フルドライブ』

 そして2020年。この20年を経て、「独自性」も「大衆性」も、自然体で血肉にしてしまっているバンドが現れた――と、ネクライトーキーの『ZOO!!』を聴いて思ったのだ。音楽性が先鋭的かと言うと、そんなことはない。むしろ、懐かしさを覚えるところもある。ただ、例えば「ぽんぽこ節」は、子どもが口ずさめそうなフレーズ満載のほのぼのした歌……のようで、きらびやかで意表を突く怒涛の展開を繰り返す、そして歌詞には毒もある楽曲。つまり、いろいろな要素の混ぜ方が秀逸で、しかもそれ自体を武器とするのではなく、あくまでポップに聴かせることを武器としているところが、ネクライトーキーの新鮮さなのだ。ボカロP“石風呂”として活躍していたソングライターである朝日(Gt)のセンスや音楽への愛情と時代を見る力、もっさ(Vo)のネガティブすらポップへと変革させる歌声といった、メンバー5人の個性の混ざり方も絶妙。楽曲もバンドも、このバランスで化学反応を起こさないと、きっと成り立たない。彼らは、この時代に改めてバンドの魅力を知らしめてくれる(朝日のボカロPという経歴も関わっているのかもしれない)。そして、様々な要素を持っているという意味では、先ほどまでの話を引き合いに出すと、ロックシーンという範疇も、フェスという範疇も、そもそも超えて語るべき可能性を、すでに持っているようなキャパシティを感じるのだ。キャパシティというところで言えば、音楽性は全く違うが、ニガミ17才にも同じものを感じる。

ネクライトーキーMV「ぽんぽこ節」
ニガミ17才「ただし、BGM」MV (Nigami 17th birthday!! “tadashi BGM” )

 何にもとらわれずに、生きてきた時代と聴いてきた音楽の全てを血肉にして、自分たちの計算式と感覚を信じて鳴らされるポップミュージック。これは、圧倒的な才能とピュアな心を併せ持っていないと生み出せないと思う。誰もがネット上で音楽を発表できる状況をサバイブして頭角を現す、輝くものを持った選りすぐりのバンドが、これからの時代を作っていくのだ。10年後、振り返った時に、ネクライトーキーやニガミ17才はその代表格になっているだろう。

■高橋美穂
仙台市出身のライター。㈱ロッキング・オンにて、ロッキング・オン・ジャパンやロック・イン・ジャパン・フェスティバルに携わった後、独立。音楽誌、音楽サイトを中心に、ライヴハウス育ちのアンテナを生かしてバンドを追い掛け続けている。一児の母。

■関連リンク
凛として時雨 オフィシャルサイト
9mm Parabellum Bullet オフィシャルサイト
KEYTALK オフィシャルサイト
KANA-BOON オフィシャルサイト
ネクライトーキー オフィシャルサイト
ニガミ17才 オフィシャルサイト