『スカーレット』における理想の夫とは? 信作と百合子はどんな家庭を築くのか
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1月29日放送の『スカーレット』(NHK総合)99話で大野信作(林遣都)と川原家の三女・百合子(福田麻由子)が結婚を報告し、正式に夫婦になることが決まった。92話で信作がプロポーズしてから劇中では半年が経過。その間、鮫島正幸(正門良規)による二女・直子(桜庭ななみ)への公開プロポーズも成功し、川原家の三姉妹がそれぞれパートナーを得たことで、物語も後半に向けて加速しそうな予感がある。
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信作と百合子のなれそめは昭和22年にさかのぼる。川原家が信楽にやって来たとき、百合子はまだ赤ん坊だった。雑貨店を営む大野家と川原家は家族ぐるみの付き合いで、同級生だった喜美子(戸田恵梨香)とは、熊谷照子(大島優子)も加わって、互いに「腐れ縁」と呼び合う文字通りの親友。百合子からは「信兄い」と慕われる兄妹のような間柄だ。
不器用でシャイな信作の面倒見の良さは親譲りのものだ。そもそも川原家が信楽に来たのも、戦争中に常治(北村一輝)に命を助けられた父・忠信(マギー)が「恩返しに」と声をかけたことによる。その後も川原家に電話を貸したり、カフェ・サニーで使うコーヒー茶碗を喜美子たちに発注するなど陰に陽に支え続けてきた。三姉妹をよく知る信作が親戚になったことは、喜美子たちに確実にポジティブな影響を与えることだろう。
直子の夫・鮫島については、直子が東京で勤めていた熨斗谷電機の同僚であるということ以外、わからない部分も多いが、大阪出身のひょうきんな性格で周囲を明るくするキャラクターである。劇中では、缶ぽっくりに乗ろうとして奮闘したり、直子の入れ知恵で川原家に金を無心しに行くなど、気の強い直子の尻に敷かれている印象が強い。一方で喜美子やマツたちと早々に打ち解けているところを見ると、川原家との相性は案外悪くなさそうだ。常治のユーモア要素を受け継ぐ存在になればおもしろい。
腐れ縁トリオの一角、照子は3人の中で最初に結婚。夫の敏春(本田大輔)との間に4人の子どもを授かり、夫婦で丸熊陶業を切り盛りしている。1年に1回、恒例の離婚騒動はあるものの、照子の様子を見る限り夫婦仲は円満そうだ。
気がかりなのは八郎である。入婿の八郎は両親を早くに亡くして年の離れた姉に育てられたせいか、夫また父としての気負いが見え隠れする。特に陶芸展で金賞を取ってからの八郎は、プライドと自信のなさの狭間で揺れる場面が増えた。喜美子に対する口調もどこか抑圧的なトーンがにじんで見えたが、喜美子から「ハチさんに足りひんのは信じる力や」と指摘された99話で、ついに家を出てしまった。
象徴的だったのが、99話の縁側で語り合うシーン。夢を抱いていた結婚前の雰囲気はかろうじて夫婦ノートを綴ることで保たれていたが、結婚して10年たっても互いに知らないことがあるという事実に2人は愕然とする。そして、知っていてもどうしても受け入れられないことがあることにも。直接的な原因は穴窯を続けるべきかだが、まっすぐすぎる喜美子と真面目すぎる八郎の間に別れが訪れることは、避けられないことだったのかもしれない。
近年の朝ドラの傾向として、特にヒロインに対して、いわゆる「良妻賢母」を求めないという点が挙げられる。生き方が多様化し、夫婦ともに添い遂げることが現実的に難しい時代背景を踏まえてと思われるが、そんな中で、いちばん身近な場所で時間をかけて愛を育んできた信作と百合子の姿は、なおのこと貴重なものに見える。信作から百合子への「ゆっくり夫婦になろう」という言葉には、これまでの2人の関係性を無理に崩すのではなく、家族や周囲の人々も交えて、時間をかけて家族になっていくという含意が感じられる。観察眼が鋭く、相手の気持ちをじっくり考える信作らしい言葉だと思う。
結婚後の信作と百合子の関係性は今までとそう変わらないだろう。しかし、常治がいない女系家族の川原家、とりわけ喜美子にとっては、そのつかず離れずのスタンスこそが最高の解毒剤なのではないか。すでに99話で結婚の挨拶を切り出そうとしてフライング気味にドタバタ劇を披露するなど、息の合った滑り出しを見せた信作と百合子である。「喜美子にとっての俺の役割は、笑われること、呆れられこと、アホやなあと思われること」と自認する信作と百合子の夫婦が、喜美子が理想の色を追求するドラマ後半にかけて存在感を増していくことは間違いない。
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。