店長たちに聞くライブハウスの魅力 第19回 香川・DIME
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DIMEの看板。
全国のライブハウスの店長の話を通して、それぞれの店の特徴やライブハウスへ行くことの魅力を伝えるこの連載。今回は香川・DIMEの店長であるバンドーエイジ氏に、もともとは映画館だったという物件の内装を生かした同店の設立の経緯などを聞いた。
インディーズバンドを応援するために
「僕はこの店のオーナーで店長でもあるんですけど、店長という呼ばれ方が気恥ずかしくて、あまり好きじゃありません。だから自分では“小屋主”と名乗っています。ここで働く前は別のライブハウスのオーナーをしていて、さらにその前はレゲエクラブのオーナー。それぞれ物件の契約満了のタイミングで、どんどん別の建物に移っていきました。レゲエクラブでは、本当にレゲエのイベントばかりやっていました。そのあとに経営していた店では、商店街の中にあったこともあってか、地元の子とかインディーズバンドがライブをすることがあったんです。あるとき僕と同年代のデキシード・ザ・エモンズがライブをしに来たんです。彼らはツアー中で、炊飯器を持ち歩いていました。それでリハが終わったらお米を炊いて、何かの缶詰と一緒に食べていたんですよ。当時の僕は40歳手前くらいだったんですけど、彼らがすごくカッコよく見えて、『同年代でこんなふうに活動してるやつがいてるんやな』と感動したんです。それでインディーズバンドたちを応援したい、そのためにもちゃんとしたライブハウスを作りたい、と思ったんです。当時の高松にはライブハウスがあまりありませんでしたからね」
「それから、新しいライブハウスを作るために場所を探し始めました。そしたら、セントラル高松2という映画館が2004年5月に閉館になることを知ったんです。『男はつらいよ』シリーズとか『釣りバカ日誌』シリーズとか、松竹系の映画を上映していた映画館でした。閉館の話を聞いてすぐに交渉したらなんとか借りられることになり、今から約15年前の2004年8月、この店をオープンさせました。こけら落としは音楽イベントではなくて、NHK高松の『ごじ☆えもん』という番組の公開生放送でした。この番組に僕が2年ほど出ていて、そのつながりがあったんです。だからうちのステージに初めて立ったアーティストはテツandトモなんですよ(笑)」
映画館の雰囲気は残したい
「映画館だった頃の名残として、まだスクリーンを残しているんです。全国には元映画館のライブハウスがところどころにありますけど、スクリーンまで残してるところはあまりないんじゃないかな。映像演出を重視されるアーティストの方からは発色がいいと評判です。この前ライブをやった打首獄門同好会は、スクリーン全面に『つくねつくねつくね』と出していましたね(笑)。1階の座席は取っ払ってフロアにしたんですけど、2階の座席は映画館時代のまま。ここに関係者やアーティストが座って、対バン相手のライブを観ていることもあります。ステージは高めなのでフロアの後ろからでも見やすいし、天井も高いので反響音のバランスもいい。防音設備も映画館の頃のままです。それとうちで名物となっているのが、ステージ脇から楽屋へと続く、“心臓破りの階段”です(笑)。この階段をいかにカッコよく降りるか、そして上るかが勝負だというアーティストもいます。怒髪天とか、オーバー40のアーティストたちはひいひい言いながら楽屋に戻っていますが(笑)。ほかにも、売店の内装もそのままだし、ステージからは映写室も見えるんですよ。だから味のある雰囲気が残っていて、いろいろな面で独特な空間だと思いますね。まだ照明機材も全部がLEDじゃないし、わりとアナログな感じだと思いますけど、いつか最新の機材にする日が来るかもしれません。でもこの映画館の雰囲気は絶対残そうと思っています」
徐々に名前が広がった
「ブッキングは、最初は1人でやっていました。でもまったく知識がなくて、ツアーで来るバンドと地元のバンドを組み合わせるものだということも知りませんでした。そういうったことを地元のバンドの子に教えてもらいながら少しずつ覚えていきました。そうしているうちにだんだんとELLEGARDENなど有名なアーティストが出てくれるようになり、徐々に全国にこの店の名前が広がっていった気がします。昔からイベント会社のDUKEにおんぶに抱っこな部分もありますが、今はそれに加えて、僕ともう1人のスタッフの2人でブッキングをしているんです。僕はちょっと後ろに下がって、若い子に任せている。56歳のおっさんが何かやっても、若い子の心に響かないんじゃないかなと思いますから。店にはほかにも優秀なスタッフがたくさんいます。それと、店の周辺で活動している学生の軽音サークルが4つあって、定期演奏会に使ってくれることもあります。その子たちが憧れているバンドが立ったステージということもあって、『うれしい』『感動しました』と言ってもらえることが多くて。うれしいですね」
香川から全国区のアーティストを
「残念ながら、香川はメジャーアーティストが出てきづらい土地だと思っています。あまりとがったアーティストが出てこない。十数年ライブハウスで働いていたら1組くらいバーンと売れるアーティストが出てくるかと思ったけど、なかなか難しい。だから、全国区のアーティストを高松から輩出するのが1つの夢です。その一方で、もちろんこの十数年でよかったこともあります。この辺りでは、高松オリーブホールの次にうちが古いライブハウスなのですが、DIMEをオープンさせて以降、周りにたくさんのライブハウスができたんです。2010年に『SANUKI ROCK COLOSSEUM』というサーキットイベントが始まって、うちも会場になっているんですけど、今年は歩いて5分以内のライブスペース7カ所で開催するんです。ライブハウスの密集具合でいえば渋谷みたいなもんです(笑)。いつの間にか、そういう街になっていたんだなと思います。しかもアーケード街だから、雨でもほとんど濡れないで移動できるんですよ。これだけライブハウスが密集して、しかもそれぞれ店の経営が成り立っている。そんな状況は昔は想像できませんでした。この周辺の店はそれぞれ収容人数が違うから、それなりに住み分けができているのかもしれません。高松TOONICEは約100人、うちが約300人、高松MONSTERは約350人、高松オリーブホールが約500人。高松festhalleが約800人。うちは詰めたら350人くらい入ると思いますが、無理をしないようにしてます。建物が古くて、お客さんがジャンプするだけでけっこう揺れますからね」
細美さんは真面目で厳しい人
「この店で最初にチケットがソールドアウトになったのは、2004年11月のエルレのワンマンライブです。このとき初めて彼らを観たんですけど、すごいバンドやなと思いました。あと当時の僕、モッシュやダイブを知らなくて、初めて人が人の上を転がっていく光景を見ました。いつだったか『MONSTER baSH』のリハーサルスタジオとして店を使ってくださったこともあります。リハの様子を見ていて、細美(武士)さんはすごく真面目で厳しい方なんだなと感じました。あと、高松出身のダイスケはんがいるマキシマム ザ ホルモンのライブも印象に残ってますね。カオスで、人気の理由が伝わってきました。最近注目しているアーティストは古墳シスターズです。ガガガSPのような青春パンクをやっているバンドで、一生懸命やっているので応援したいんです」
美味しいお酒を提供したい
「フードメニューはないのですが、ドリンクは充実させています。自分がもともと飲み屋で働いていたこともあって、ちゃんとしたものを提供したいと思っているんです。ディスコの時代もそうだったけど、まずいお酒、悪酔いするようなお酒ってあるじゃないですか。若い子がそういうお酒を飲むと、よりお酒を飲まなくなっていくんじゃないかなと思っていて。だから元バーテンダーの子にドリンクカウンターを任せて、『カクテルって美味しいんやな』と思ってもらいたいという気持ちでドリンクを用意しています」
お客さんの笑顔のために
「言い方が難しいんですけど、僕は、アーティストよりお客さんのほうが好きなんです。お客さんが喜んでいる顔を見るのが好き。セキュリティスタッフとして柵の前に立つことがあるんですけど、そのときに目の前の人が泣いたり笑ったりしているのを見ると、『ライブってええなあ』と思います。ライブハウスの魅力である、見知らぬ人同士の一体感を特に感じるというか。ステージに立っているアーティストたちは、こんな光景見たらそりゃあ音楽を辞められんやろうなって思います。もともとこのライブハウスを作ったのは、アーティストを応援するためでもありますが、お客さんの喜んでいる顔を見るためでもあります。お客さんの笑顔のためにも、このビルがある限りはここでやっていきたいですね」
店舗情報
住所:〒760-0054 香川県高松市常磐町1-8-1
アクセス:コトデン瓦町から徒歩3分
営業時間:公演により異なる
定休日:なし
ロッカー:なし(公演によりクロークあり)
駐車場:なし
再入場:公演により異なる
キャパシティ:300人
ドリンク代:600円
フリーWi-Fi:なし
貸切:あり
取材・文 / 酒匂里奈(音楽ナタリー編集部) 撮影 / 南部聡一