TRIGGERの持つ“強さ”とは何か 『Crescent rise』に表れた変化と自信
音楽
ニュース
2020年1月27日に公開された、3人組アイドルグループ・TRIGGERの新曲MV「Crescent rise」が話題だ。昨年10月に60秒の先行カットが発表になっていたが、29日のシングル発売を前に満を持してフルバージョンが公開された。
『プロメア』、『SSSS.GRIDMAN』などの傑作を手掛けるアニメ制作会社・TRIGGERによる“TRIGGER×TRIGGER”のコラボMVは、発表時から大きな話題となっていた。先行カットが公開された時点でも、その映像美に驚愕したが、いざフルバージョンが公開されると驚いたことに6分越えと楽曲MVとしては長めの設定で、先行カットでは見ることのできなかったTRIGGERの新鮮な表情が満載。多くのファンが喜びの声をあげた。彼らの出演ミュージカル『クレセント・ウルフ』のストーリーが織り込まれた圧巻の映像に、リピート再生の手が止められないファンも多いのではないだろうか。
名作『三日月狼』をリメイクしたミュージカル『クレセント・ウルフ』は、主役を八乙女楽、主要な役を九条天と十龍之介、とTRIGGER3人が揃って勝ち取った。「Crescent rise」はその話題作の主題歌であるため、他のMVとは少し違う役柄上の彼らを見ることができる。弱った表情、無邪気で優しい微笑み、悲痛な叫び……これまでTRIGGERのMVでは描かれてこなかった姿に心掴まれた人も少なくないだろう。
MVの要所要所に重要かつ意味深な台詞が挟まれているのも衝撃的だ。劇中の役の台詞であっても、それが彼らの本心とシンクロしているように感じられる。今のTRIGGERが運命的に出会った作品『クレセント・ウルフ』は、彼らにとってもエポックメイキングな作品になりそうだ。
もちろん、TRIGGERとしてのパフォーマンスも随所に見ることができる。彼ららしい完璧なダンスは健在。役柄から離れたアイドル・TRIGGERがスタイリッシュに踊る姿は、やはり煌めきに満ちている。
今回のMVは『クレセント・ウルフ』の主演である八乙女楽がメインに据えられ描かれるが、誰が中心にいてもTRIGGERが求心力を失うことはない。九条天という絶対的なセンターが設定されていたとしても、3人が同等に魅力を発揮することができる。それは実力だけでは成し得ない。3人の信頼とバランスが調和しあってできていることなのだ。アイドルがグループとして活動することの意味や意義を、今回のMVから改めて感じることができる。
楽曲としても、「Crescent rise」は耳が楽しい一曲だ。『クレセント・ウルフ』の主題歌らしく、何かを予感させるイントロには否応なしにドキドキさせられる。薄暗いムードを打ち破るかのように希望的で力強いサビにはカタルシスを感じられるし、3人のハイトーンが重なり合うコーラスにはこの3人でなければ作れない圧倒的な世界観がある。物語性の強いミュージカル楽曲でありながら、TRIGGERが魂の叫びを歌に乗せ、己の個性と演技力を両立させているという点でも唯一無二の一曲と言えるだろう。
また今回のシングルに同時収録された「Treasure!」は、これまでのTRIGGERにはない、情熱的で男らしい部分を前面に出した楽曲だ。疾走感のあるメロディと胸を激しく打つようなベースラインに3人のボーカルが合わさり、曲が荒々しく身体を駆け抜けていく。サビの3人のユニゾンは、まるで一つの声のように溶け合った一体感があり、今のTRIGGERのチームワークの良さを実感させられる。少し前のTRIGGERでは、絶対に歌われることがなかった曲と言ってもいい。
TRIGGERのファンはよく「TRIGGERが最強」と言う。メンバーの発言が元とはいえ、そもそもTRIGGERの持つ“強さ”とは一体何なのだろうか。
これまでは、彼らの高いプロ意識やポテンシャル、完成度を以って“強い”と感じてきた人も多いだろう。もちろん彼らには強烈なパワーがあり、実力も魅力も申し分がなくこれまでそれが陰りを見せたことはない。
彼らはブレることがない。常にTRIGGERとして完璧で、質の高いステージをファンに見せてきた。しかしそのブレなさは、下手をすれば停滞に繋がりかねないものだ。
だがTRIGGERは、それまでの“アイドルらしく極上の夢を見させる”ようなフィクション性が強い楽曲だけではなく、メッセージ性の強い楽曲も多くリリースするようになってきた。さらにここにきて、「Crescent rise」や「Treasure!」のようにある種の泥臭さすら感じる熱い楽曲を続けて発表し、彼らの持つ強さがまた少し変容したように感じるのだ。
事務所独立によって活動形態に変化があったことも要因かもしれないが、多分それはきっかけの一つに過ぎない。燃えるような情熱や男らしい泥臭さはそもそもTRIGGERが持ち合わせていたもので、今の彼らがそういった熱さをステージに持ち込んだとしてもTRIGGERの価値や個性が変化することはない。ニューシングルの2曲は、彼らのそんな自信の表れではないだろうか。(“自信”というキーワードはまさにTRIGGERの得意とするところだ。)
最初は単にライバルに勝てる実力、チャートでトップを取れる、ダンスも歌唱もレベルが高い……そんな意味で“最強“だったのかもしれない。だが今、変わることのないハイレベルなパフォーマンスに加え、3人の男らしさや情熱がリアルに感じられるというのは、TRIGGERの新しい武器だ。〈限界点など 超えてみせるから その先に見える未知の場所でまた会おう そう、何度だって〉という歌詞のとおり、情熱を燃やして上昇するTRIGGERの姿に励まされるファンもますます増えていくだろう。「TRIGGERが最強」という合言葉は、ファンとアーティストという枠を超え、お互いを高め合える戦友に似た関係性を表したものなのかもしれない。
何より、そうやってアップデートされていくTRIGGERを、TRIGGER自身が好きでたまらないのだろう。そういう意味では、今の彼らが他のアイドルの追随を許さない“最強のTRIGGER“であるのは間違いない。
「Crescent rise」は、最近の曲にしては珍しくフェードアウトで曲が終わる。まるで、この先のTRIGGERの道がどこまでも続いているかのようだ。続いた先に「Treasure!」ーー宝物があるのだからたまらない。さらに先の未来、3人はどんな景色を見せてくれるのか。私たちは幸福なことに、その未来を夢見ることを許されている。
■草野英絵
ライター。アニメ、ゲームなどのエンタメ記事を中心に雑誌・WEBで活動中。Twitterアカウント(@_hanae_)