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おとな向け映画ガイド

今週のオススメはこの3作品。

ぴあ編集部 坂口英明
20/2/3(月)

イラストレーション:高松啓二

今週末に公開される作品は22本(ライブビューイング、映画祭を除く)。全国100スクリーン以上で拡大上映されるのが『ヲタクに恋は難しい』『犬鳴村』『劇場版 騎士竜戦隊リュウソウジャーVSルパンレンジャーVSパトレンジャー/魔進戦隊キラメイジャー エピソードZERO スーパー戦隊MOVIEパーティー』の3プログラム。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が19本です。この中から、今回は、片肘はらずに気楽に観ていただき、あー面白かった!と映画館をあとにできる、そんなおとな向きの映画3作品をご紹介します。

『グリンゴ/最強の悪運男』



『グリンゴ』はスペイン語で「よそもの」の意味。手塚治虫の漫画のタイトルで同名のものがありました。意味は同じですが、もちろん無関係です。サブタイトルの「最強の悪運男」は、何をやってもついていない主人公ハロルドのこと。でも、彼がなぜ最強かってところがポイントです。

ハロルドは、シカゴの製薬会社で働く風采のあがらないサラリーマン。友人リチャードに拾われ、彼が経営する会社に入ったものの、この友人がケチでジコチュー、ひそかに会社を売りに出して、いいとこ取りを計画中で、ハロルドはポイ捨てされる運命にあります。しかもあろうことか、妻はそのリチャード社長と浮気中です。会社には共同経営者かつ社長の愛人エレーンという重役がいて、彼女は彼女で色気を前面におしだす欲の塊。しかもなにやら画策中。悪運男、最低男、性悪女、と見事にキャラ立ちした3人が揃いました。社長の悪巧みのために3人はメキシコ出張にでかけるのですが、旅先でハロルドが誘拐され、会社に法外な身代金の要求がとどきます。でも実はこれ、自分の悪運に嫌気がさしたハロルドの一世一代の狂言で……。

人の良さそうなハロルド役にこれまでキング牧師を演じたこともあるデヴィッド・オイェロウォ。社長リチャードは『スター・ウォーズ』シリーズではルークの叔父役だったジョエル・エドガートン。そして、男とみると舌なめずりをくりかえすビッチ役は、おなじみシャーリーズ・セロンです。彼女はこの映画のプロデューサーも兼ねています。のりのりでフェロモンをまきちらしてます。

ごく普通の人間がなにかのきっかけで、どんどん事件に巻き込まれていく、いわゆる「巻き込まれ型サスペンス」。話はエスカレートしていき、この三人以外にも悪玉、善玉、おかしなキャラクターが次々登場します。最高なのが、ギャングの麻薬組織のボス。ビートルズの熱狂的なファンで、抗争相手を捕まえるや、ビートルズのベスト・アルバムを尋ね、彼の趣味とちがうと銃で殺してしまいます。さて、彼がきらいなアルバムとは? 何だったと思います? とりあえず私はセーフ。彼には殺されずにすみます。

『グッドライアー 偽りのゲーム』



今週登場の謎解きミステリーは、この作品です。ポスターなどのビジュアルでは、白いコートのヘレン・ミレンと黒いスーツのイアン・マッケランが対照的に表現されています。それでこのタイトルですから、この名優ふたりによるだまし合い、「コンゲーム」ものと想像できます。まさにそれ。予測を裏切らない名人芸、見せ場たっぷりのエンタテインメントです。

今からおよそ10年前のロンドン。ベテラン詐欺師ロイは、流行り始めたネット交際サイトで、最近夫に先立たれた資産家ベティと知り合います。ロイのいかにも紳士然とした外見、そつのない会話。世間しらずの上流夫人は彼の魅力にどんどんはまっていきます……。ロンドンのおしゃれで粋なお年寄りのデート。ベティがロイにトップ・ハットを見立てるセント・ジェームズストリートの帽子店「ロック&カンパニー」や老舗デパートの「フォートナム・アンド・メイソン」など、有名店も登場します。

ロイ役のイアン・マッケランは、『ロード・オブ・ザ・リング』の魔法使いガンダルフでおなじみ。高名なシェイクスピア役者です。かたや、米アカデミー主演女優賞を受賞した『クィーン』のエリザベス女王を始め、誇り高き女性役ならこの人、ヘレン・ミレン。彼女が演じるベティは、ノーブルで、一見世間知らず風ですが、芯は強そうです。ロイがいかに百戦錬磨とはいえ、詐欺師の手にやすやすとかかるとは思えません。後半は、予想を越えた、そうくるか、という展開でした。お楽しみに。

『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』

旅の映画、ロードムービーも、毎月様々なテーマの作品が公開されます。何かを目指す旅、追う旅、追われる旅、さまよう旅……。この映画は、夢に向かう旅です。

アメリカ南部、ジョージア州サバンナ郊外。身寄りのないダウン症の青年ザックは受け入れ先がなく、州指定の老人施設で暮らしています。彼の夢は、プロレスラーになること。親しくしてくれるカールじいさん(懐かしやブルース・ダーン!)の部屋で、憧れのレスラー、ソルトウォーター・レッドネックが開いたレスリング道場勧誘のビデオカセットを繰り返し見て、いつかこの学校に入るのだ、と考えています。そしてある夜、窓枠にはめられた鉄格子をすり抜け、施設をパンツ一丁で逃げ出します。ふとしたことで出会い、旅の仲間となったのが、漁師のタイラー。カニ漁の漁場のトラブルで命を狙われています。ふたりは逃避行ですから、道なき道を行くことになるのです。基本は歩き。時にヒッチハイク、手作りのいかだ……。途中から、ザックを探す施設の看護師エレノアも加わり、ついに、レスリング道場のある町にたどりつくのですが……。

ささやかな映画作りから始まったのだそうです。実際にダウン症で、役者志望のザック・ゴッツァーゲンが、「映画スターになりたい」という夢をふたりのクリエイターに語り、彼らがザックを想定したオリジナル脚本を書き、テスト映像を作ったところ、3人の熱と、ザックの存在感にうたれた独立系のプロデューサーが出資を決めました。アメリカ南部の地方映画祭で観客賞をとったものの、全米公開最初の映画館数は17館。それがSNSなどの評判で6週後には1490館まで広がり、大ヒットとなりました。映画そのものも、まさに夢の実現でした。彼らの旅は、どこか『ハックルベリー・フィンの冒険』を連想させます。めげない、恐れをしらない、ザック君を見ていると、何か元気をもらえる。そんな映画です。