King Gnu、『CEREMONY』が2週目もヒット継続 歌詞の変遷に表れたブレイクの要因
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【参考:2020年2月3日付週間アルバムランキング(2020年1月20日~2020年1月26日)】(https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2020-02-03/)
(関連:King Gnu、『CEREMONY』で劇的進化を遂げた“ポピュラリティ” メロディのフックを軸に考察)
2020年2月3日付けの週間アルバムチャート。俎上に載せたいのは2位のKing Gnu『CEREMONY』です。1位NCT DREAMの4.0万枚に肉薄する3.6万枚セールスも見事ですが、実は、本作は先週初登場1位で23.8万枚を記録。たった2週で27.4万枚を突破したことになります。
昨年末のおさらい記事(https://realsound.jp/2019/12/post-471921.html)で書いたように、2019年に最も売れたバンドものの作品はback numberの『MAGIC』(累計28.1万枚)、次点がONE OK ROCKの『Eye of the Storm』(累計27.1万枚)。1年間をかけて生まれたこれらの数字を、今この瞬間、King Gnuがあっさりと塗り替えているのです。すごい。時代が動くってこういうこと。どこまで売れるのでしょうか。
ギター、ベース、ドラムス、キーボードによる演奏形態ながら、ヒップホップやジャズがベースにあるサウンド。ちらちら顔を出すアバンギャルド/現代音楽の要素。Aメロ→Bメロ→サビという概念を持たない“全部サビ”のメロディ展開。どの角度から見てもKing Gnuの音楽は新しかったのですが、『CEREMONY』の何が突出しているかといえば、彼らが本気で日本全国を射程に収めたこと。最初に聴いて思ったのは、これは聴く場所を選ばない作品だ、ということでした。
改名後、最初に出した1stアルバム『Tokyo Rendez-Vous』は、その名の通り東京を舞台にしたラグジュアリーな内容でした。東京というよりはTOKYO。人情溢れる下町は含まれない、わかりやすく言うなら渋谷区や港区のイメージ。〈走り出す山手に飛び乗って/ぐるぐる回ってりゃ目は回る/隣のあんた顔も知らねえ〉(「Tokyo Rendez-Vous」)。眠らない混沌の街、顔の見えない人々で溢れる街をサバイブしていく視点が、まず最初にありました。
次に出たのがメジャーデビュー盤の『Sympa』。よりポップな歌ものを意識したのは明白ですが、視界も少しずつ広がっているんですね。〈退屈なこの街角から抜け出すんだ/俺たちにはビルの向こうの星空が見えてる〉(「Bedtown」)という歌詞に顕著ですが、ここで彼らは東京郊外くらいまでを歌にしている。別にオシャレな都心じゃなくても、それでも街の中で生き抜いていくと本気のギアを入れ始めた状態。まぁそれでも、周囲にビルが見える街、くらいの前提はあったと思いますが。
そこから1年。『CEREMONY』の開かれ方はすごい。ベタを恐れなくなったというのか、オッと思う歌謡曲的な言葉がいくつも耳に飛び込んできます。〈どこかの街で/また出逢えたら/僕の名前を/覚えていますか?〉(「白日」)〈最終列車はもう行ってしまったけれど/この真夜中を一緒に歩いてくれるかい?〉(「壇上」)。
これはもう、どこの都市である必要もない、誰もが知っている“この町”の歌ですね。往年の昭和歌謡にあったような名フレーズと言ってもいいですが、スッと胸に飛び込んできて、まるで我がことのように胸を締め付けてくる普遍性。そんな歌詞を堂々と受け止め、あえて二枚目ではないキャラクターを押し出していった井口理の変化も大きいのですが、もはやKing GnuはラグジュアリーなTOKYOのバンドではなくなりました。誰がどこで口ずさんでもいい名曲揃いのバンド。その結果が、このセールスです。
そして、最初からサブスク解禁のアーティストでありながら、一定数のリスナーは必ず現物のCDを求めます。今週のランキングと同時に発表されたのは、「オリコン週間ストリーミングランキング」でシングル「白日」の再生数が1億回を突破したというニュースでしたが、ストリーミングで聴けば聴くほどCDが欲しくなる、いよいよフィジカルの所有欲が高まるのかもしれません。1億回も再生されるヒットがそうそう出るとは思えないけれど、まずはサブスクでドーンと広め、それと並行しながらアルバムをリリースすることには、まだ十分な意味がある。そんな答えをKing Gnuがはっきり提示してくれました。うーん、やることなすことカッコいい、本当に新しいバンドだなぁ。痺れます。(石井恵梨子)