『プリキュア』シリーズに通底する不偏のテーマ 「地球のお医者さん」を掲げる最新作への期待
映画
ニュース
東映アニメーションの『プリキュア』シリーズ第16作目『スター☆トゥインクルプリキュア』が1月26日放送の第49話『宇宙に描こう! ワタシだけのイマジネーション☆』で大団円を迎えた。物語は前週の第48話で、「5人のプリキュアが変身する能力を失いながらも、イマジネーションの力によって、宇宙をリセットしようとする目論見に打ち勝つ」というクライマックスを迎えており、エピローグとなった最終回では、主人公・星奈ひかるが、夢の中で新たな主人公「キュアグレース」と出会うことで次世代プリキュアへのバトンタッチを行っている。
参考:映画『スター☆トゥインクルプリキュア』は大人の心も掴む ダイバーシティと環境問題を扱うその先進性
そのキュアグレースを主人公に、2月2日から放送される第17作目のタイトルは『ヒーリングっど プリキュア』。例年、新プリキュア情報解禁の12月にはネット上に「フェイクプリキュア」が流布されたり、発表されたタイトルから様々な反応で盛り上がるのがSNSの恒例行事となっている。
しかし『ヒーリングっど プリキュア』のキャッチコピーである「地球のお手当」という響きには、『スター☆トゥインクルプリキュア』の時に見受けられた「プリキュアで宇宙?」という戸惑いや、揶揄する空気とは違って、より真剣に受け止める声が大きかった様に思われる。
それはやはり、気候変動が目に見える形で影響を与えていることを、2018年の西日本豪雨に続いて2019年に東日本を広範囲で襲った豪雨で実感したからであろう。しかし、いよいよプリキュアが社会問題に目を向けた……というわけではない。そもそも東映の描くヒーローとは、そうした面を常に内包してきた存在だったのである。
歴史を紐解けば、東映変身ヒーローの原点たる『七色仮面』では、生みの親である故・川内康範の宗教観、世界観、倫理観が強く反映されていた。70年代に一時代を築いたビッグネーム『仮面ライダー』は、バッタをモチーフにした改造人間が風の力で変身、環境を破壊する悪と闘うという当時の公害問題を反映した内容だったし、2000年代、9・11の翌年に放送が始まった『仮面ライダー龍騎』では、「子ども達へ正義を教える」という企画意図に対し「そもそも正義とは何か」という重い反証が試みられた。
そしてイラク戦争の翌年2004年の『ふたりはプリキュア』は、ED曲「ゲッチュウ! らぶらぶぅ?!」の「地球のため みんなのため それもいいけど忘れちゃいけないこと あるんじゃない?! の!」という歌詞が象徴する様に、世界を巻き込んだ闘いの時代に、あえて日常を守るという逆説的な、勇気あるテーマを掲げて始まった。
今となっては16年続き、日本のアニメシーンに欠かせない定番作品となったプリキュアシリーズだが、初代『ふたりはプリキュア』が放送された時点では「取りあえず半年」という先の見えない企画だったという。しかし、前年秋に放送が始まっていた実写版『美少女戦士セーラームーン』との競合を心配されながらも、熱狂的な支持を集めた。
月野うさぎが、遙か過去からの因果で選ばれしセーラー戦士である仲間と闘いながら、一方でタキシード仮面とのロマンスを育むという、ボーイミーツガールな王道の少女漫画だったのに対し、『プリキュア』を、なぎさとほのかが紡いだ、等身大の2人の少女のバディ物語として描ききったからであろう。
ふたりから始まったプリキュアは、やがて5人体勢となり、『ヒーリングっど プリキュア』で歴代総勢60人を越える。その過程で「女の子は誰でもプリキュアになれる」という言葉も生まれた。選ばれしセーラー戦士によるHer StoryからOur Storiesへの大転換。それがプリキュアであったし、個々の事情に寄り添うその姿勢は、TV放送される作品でありながらマスのメディアが崩れる時代に合致してもいた。
そして「誰でもプリキュア」というロジックは、自然、多様性への寛容と尊重という作品に通底する不偏のテーマも産み出すことになる。放送時に流れたホテルのキャラクタールームのTVCMで「女の子はプリキュア、男の子は仮面ライダー」というステレオタイプの区別が提示された時、当然SNSでは、「女の子が仮面ライダーを好きでも良いのでは?」との反応があった。それに対する解答かの様に一昨年の『HUGっとプリキュア』では男子をキュアアンフィニに変身させた。『スター☆トゥインクルプリキュア』では、メキシコ人の父を持つ褐色の肌のプリキュアの雨宮えれな、また、当初敵役でありながら、後に共に闘う重要なキャラクター、単眼の異形の宇宙人アイワーンも登場した。
それは、国際化時代を生きる少女たちには必要な倫理観ではあるが、前作の田中昂プロデューサーによると、「今の子どもたちが置かれた環境に近いものを描くことが、共感につながる(『東京新聞』2019/3/30付夕刊より引用)」とのことで、大上段に構えた「テーマありき」の作品ではないのがプリキュア流だと言える。だから2019年秋公開の劇場版『星の歌に想いをこめて』でも、作品のテーマに巧みに絡めて環境問題を扱ってみせている。
『ヒーリングっど プリキュア』の安井一成プロデューサーは制作発表時のコメントで、「様々な命が共存共栄する地球を舞台に『生きる』という根源的なテーマに向き合います」と語っているが、多様性に寄り添った物語が、生物多様性が浸食されつつある地球環境に向き合うことになったのは必然でもあった。
プリキュアは、対象年齢の3~6歳の児童が興味を持っている題材の音楽やお菓子などをテーマにして作品が制作されてきた。そこに環境問題を当てはめながら「地球のお医者さん」という切り口は親しみやすく、わかりやすい。
果たして『ヒーリングっど プリキュア』が難しい舵取りを要求される環境問題へ対し、どんな方法論で挑むのか。グレタ・トゥーンベリ、ビリー・アイリッシュのように、環境保護活動のアイコンたちの中ににキュアグレースが加わることになるのか、1年間興味深く観ていきたい。
■こもとめいこ♂
1969年会津若松生まれ。リングサイドで撮影中にカメラを壊され、椅子を背中に落とされた経験を持つコンバットフォトグラファーでライター。得意ジャンルはアニメ・声優・漫画・プロレス・格闘技・サバゲー等おたく趣味全般。web媒体では週刊ファイト・歌ネットアニメ他で活動中。
※『ヒーリングっど プリキュア』の半角スペースはハートマークが正式表記。