04 Limited Sazabys、異色ツアーが生み出す唯一無二のワクワク感 クリープハイプ迎えた『MYSTERY TOUR』初日公演レポ
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誰のライブが始まるのかわからないことがこんなにワクワクするなんて、正直、その場に居合わせるまで想像できなかった。心拍数が上がる瞬間、04 Limited Sazabys(以下、フォーリミ)の熱意に感服した。それにしてもよく情報がリークされなかったものだ。
1月24日のCLUB CITTA’を皮切りにスタートした『MYSTERY TOUR 2020』はツアーファイナルのZepp Nagoyaのワンマン公演以外は全て対バン形式のツアー。当日ライブが始まる瞬間まで対バン相手はシークレットという、前代未聞の企画だ。バンドサイドは、すべてのゲスト予測をクリアしたファンにメンバーとの温泉旅行をプレゼントするというほど、予想不可能なこの企画。初日公演のゲストはクリープハイプで、「すでに全問正解から脱落した人も多いのでは?」とGEN(Vo/Ba)が勝ち誇ったようにMCで話していたが、その自信も然もありなん、である。
The Beatlesの「Magical Mystery Tour」が客入れBGMで流れ、ステージを覆う幕にマーブル状の映像と今回のツアー名が映し出される中、場内の暗転とともに〈桜散る 桜散る〉の〈桜〉ぐらいで察したオーディエンスの歓声の大きさは凄まじいものがあり、幕が落ちた瞬間、バンドの方が気圧されているようにも映った。「栞」をサビの弾き語りで始めるというのも尾崎世界観(Vo/Gt)の声の個性が突出したバンドならではの戦術。ミステリーツアーを考案したフォーリミも大したものだが、受けて立つクリープもさすがだ。全8曲で多彩な今の音楽性を表現したセットリストの中には「クリープハイプにもベーシストが歌う曲がありまして」と、長谷川カオナシ(Ba)が歌う「火まつり」を盛り込んだり、音数をグッと絞ったヒップホップテイストの新曲「愛す」で、テンションの上がりまくったフロアに新鮮なムードを吹き込んだりしていた。
「緊張するね、こういうの。一応、先輩なんだけど、よくこんなことさせるよね、先輩に(笑)」と笑わせながらも、「歌い始めた時の歓声は忘れないと思います」と、素直な感銘を話す尾崎。その言葉からも分かるように、シークレットであることによってバンドにとって、キャリアを積んでいく中で、なかなか得難い緊張感や、シークレットならではの戦い方ーーおそらくどのバンドもいつも通りの演奏をすることとどんなセトリを組むか? が重要な気がするがーーを自然と考慮する貴重な機会になったはずだ。
対バンが誰であるか以上に、現場にいなければ分からないムードやMCの細かいニュアンスは当然ある。参加できなかったファンの悔しさや羨望、続くツアーへの期待が高まるという意味でも、無二のアイデアだと分かる。
さて、フロアの興奮状態にご機嫌な様子でフォーリミのメンバーが登場。1300人というCLUB CITTA’キャパは大きめのライブハウスとはいえファンにとっては身近な距離感が嬉しいはず。しかも前方に詰めかけるだけでなく、後方で体を揺らすファンもいるという自由な楽しみ方をしているのが頼もしい。序盤、盛り上げながらもミクスチャーテイストの「Brain sugar」で自然にフロア中がジャンプしたり、ダークなコード感とソリッドさが持ち味の「Alien」でラウドに攻めたり、ブロックごとに楽しみ方のベクトルをスピーディに変化させていくライブ巧者ぶりに磨きがかかっている。
演奏はもちろん、クリープハイプとのエピソードや、ファンの驚きと歓待に輪をかけるMCも楽しい。リハ中にGENのことをノリノリで見ていた女の子と勘違いした尾崎が「あの子なら抱けると思った」とMCしたことを受け、GENが「むしろ俺が尾崎さんを抱く。いや、でもカオナシさんも捨てがたい」と笑わせる。他にも小川幸慈(Gt)が今回のツアービジュアルの紳士に似ているとか、去年終わり頃に尾崎が金髪にしたこともフォーリミとの対バンの“匂わせ“だったんじゃないか? と、GENは言いたい放題。彼のキャラクターを知るファンにとっては周知のジョークだと思うが、同時に普通の対バンツアーを今やって面白いのか? という、飽くなき挑戦心が秘められていることが、このちょっと特殊なライブを成立させている。
直近のシングルから「Cycle」なども交えながらも、特にリリースに伴うツアーではない今回、フォーリミビギナーから、「今日はどこで自分の山場を作ろうか?」と考えるほどライブに通い詰めているファンまで全方位で楽しめる鉄板ナンバーを連投。中でもメロディと歌の良さを堪能できる「Letter」などの後、GENがこの日のライブの中で唯一、真面目にクリープハイプからの影響について語ったことが印象に残った。バンドとしての立ち居振る舞いや音楽性はもちろん、彼が日本語で歌詞を書くようになった際、尾崎の歌詞の視点から得たものが大きかったというのだ。それは結果的にフォーリミというバンドの個性を日本のポップミュージックの中で際立たせることにもなっただろう。
今後の対バンにも何らかのテーマが必ずあるに違いないと思うと、冒頭、幕が落ちる瞬間の興奮だけじゃなく、04 Limited Sazabysというバンドの構成要素とユニークさを改めて知るツアーになっていくんじゃないだろうか。
■石角友香
フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Qetic」「SPiCE」「Skream!」「PMC」などで執筆。音楽以外にカルチャー系やライフスタイル系の取材・執筆も行う。