『トップナイフ』永山絢斗が対面する母親と過去 「才能の壁」をどう乗り越える?
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西郡(永山絢斗)はなぜこれほどまでに才能に固執するのか。そしてどんな記憶が、彼の手を震わせるほどのトラウマを与えているのか。これまでそのクールな佇まいから彼の境遇は明るみに出ることがなかったが、『トップナイフ ー天才脳外科医の条件ー』(日本テレビ系)第4話では、母親と、はたまた過去と向き合うことで苦悶する西郡の姿が描かれていく。そして彼と母親の愛憎入り混じる関係性はやがて、深山(天海祐希)とその娘(桜田ひより)の関係性にもトレースされていくだろう。
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病院に搬送されてきた70代の女性。彼女はかつて西郡が最難関の手術に挑戦した患者であり、彼の母親でもあることが冒頭にて明かされる。患者の娘であり西郡の妹・千春(三浦透子)によると、女性心臓外科医の第一人者だった患者・喜和子(中尾ミエ)は2年前に脳腫瘍を発症。誰もやりたがらない難手術を西郡が執刀した結果、記憶をなくして徘徊を繰り返すようになったという。9時間に及ぶ手術はそれ以上続けると危険のリスクが高まることもあり、「西郡先生の判断は適切だった」と深山はフォローするも、黒岩(椎名桔平)は「俺ならやり遂げていた」と西郡を責め立てる。黒岩はこうも言う。「外科医たるもの、失う覚悟がなければメスを握ってはいけない」と。
西郡と母親との関係性。それは言うなれば深山とその娘にも似た、愛に飢えた因縁の間柄だったのだろう。優秀な兄をふたり持ち、幼いころから西郡には厳しかったという母。そんな母親を見返すべく必死に腕を磨いてきた西郡が、その母親の難しい手術の執刀医として手を挙げる。「見返す」というその一点において、これほど絶好の機会はなかったに違いない。しかし彼は、大成功というには及ばない、遺恨を残すことになってしまった。
西郡はそうした忌むべき過去についに向き合うことになり、最終的には黒岩に母親のオペを託すことに。手術中、その紛うことなき天才の所作を目のあたりにし、無事に成功した手術後には母親から「やっぱり才能ないね、お前は」と言われてしまう始末。追い求めつつも同時に忌避してきた「才能」とついに対面することを強いられた西郡は、どのようにしてその命題を乗り越えていくのか。才能に見放された“努力の人”の、その行末が気になる。
第4話のメインテーマは「記憶」だった。30年前から記憶が3分ともたなくなった患者・内田(綾田俊樹)とその幼なじみの山口(本田博太郎)が紡ぐ記憶にまつわるストーリーは、“心に宿る”感情の記憶を呼び起こしてくれる。海馬ではなく、扁桃体に留まるという、感情の記憶。なぜだか隣にいると安心感があり、りんごを食べるとすぐに思い出されるようなあの日の幸福な記憶について。人は無意識に記憶をねじ曲げてしまったり、複雑な感情を単純化しようとしてしまう。だから、西郡と母親、あるいは深山とその娘の過去は、「辛く悲しいもの」としてメモリーされてしまう。しかしその間にも楽しいこと、愛らしいことがあったのは事実で、その過去は消えることはないということ。深山と娘から漏れ出る笑顔にこそ、その複雑な感情の混じり合いを感じ取ることができるだろう。脳も記憶も絶えず変化するけれど、どの過去も消えて無くなることはない。だからたびたび、忘れかけていた幸福な記憶が今を助けてくれることがある。
また、そうした過去と記憶にまつわるストーリーに加え、サブストーリーとして「現在を生きる」幸子(広瀬アリス)の恋愛物語が進行しているのも本作のおもしろい点だ。彼女の想いは果たして成就するのだろうか。 (文=原航平)