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エディ・マーフィ、完全復活! 『ルディ・レイ・ムーア』で見せた“喜劇王”としての実力

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リアルサウンド

 エディ・マーフィが完全復活した。昨年の秋、Netflixで配信された主演作『ルディ・レイ・ムーア』で往年の輝きを完全に取り戻した。惜しくもアカデミー賞にはノミネートされなかったが、ファン的には申し分ないくらいエディの類まれな顔芸、景気のいいベシャリ、そして笑って泣ける最高のサクセスストーリーを堪能させてもらった。

 って、今さら何言ってるの? そんなこととっくに知ってるよ! と言いいたい方もいるでしょう。しかし、そう思ったあなたは世間的には圧倒的な少数派……。残念なお知らせですが巷では、エディの復活も『ルディ・レイ・ムーア』が絶賛配信中であることも、あまり知られていない……。 間違いありません。僕が身をもって感じたことですから。コアな映画ファンではない方たちから「なにかオススメ映画は?」と聞かれて『ルディ・レイ・ムーア』と即答すると、「何ですか、それ?」と聞かれてることが多々ありました。でも、そんな方々が物は試しに『ルディ・レイ・ムーア』を鑑賞した途端、「素晴らしかった!」、「観たら画期的に元気が出ましたよ!」と絶賛している。

 つまり、『ルディ・レイ・ムーア』の素晴らしさを体感していない、人生を損している方々が多く存在しているんです。そんなわけで今回、あらためてエディ・マーフィ&『ルディ・レイ・ムーア』の魅力をプッシュさせていただきます! 

● “伝説の芸人”をエディ・マーフィが映画化する意味

 そもそもエディ・マーフィとは? 1961年生まれの彼は19歳で人気コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』のレギュラーとなり、21歳で『48時間』(1982年)の主演で映画デビュー、23歳で『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年)に主演して超人気スターとなり、そこからは圧勝に次ぐ圧勝人生が続いた! と思いきや、90年代に入ったころから人気が低迷……。そこから這い上がったり、また沈んだり、ちょっと返り咲いたら、また沈んだり……という胃がぶっ壊れそうな行為を繰り返していたことが、遂に昨年、『ルディ・レイ・ムーア』で完全復活を果たしたことが世間的には認知されていない要因であると思われますが、とにかく『ルディ・レイ・ムーア』で低迷してから以降、最も力強く返り咲いたのです! 

 ちなみに『ルディ・レイ・ムーア』は、昨年評価の高かった『ジョーカー』との共通点が多いんですよ。どちらも主人公は売れないピン芸人。そして、人生の土俵際に立たされたピン芸人が、新たなキャラにトランスフォームする、という筋も同じ。でも、結末は違う。『ルディ・レイ・ムーア』は、何度も観返したくなるような泣けるハッピーエンドを迎えますから。しかも、実話の映画化なんですよ。本作の主人公ルディ・レイ・ムーアは2008年、81歳でこの世を去ったスタンダップコメディアンで、エディがリスペクトする喜劇人のひとり。しかし若くして地球規模の大ブレイクを果たしたエディとは違う。なぜならルディは綾小路きみまろ級の超遅咲き芸人……。

 1927年生まれのルディは、17歳でナイトクラブのダンサーとしてショービジネスの世界に入るが、それは気が遠くなるような長い下積み時代の幕開けでした……。映画『ルディ・レイ・ムーア』の物語がスタートするのは1970年。43歳になったルディは、華々しい経歴に縁がないまま細々と芸人を続けている。そんな彼が、起死回生の策として、ドールマイトという無闇に壮大なエロ話をシャウトするキャラになったら、やっと感性の鋭い黒人たちを中心にブレイク。要は、古坂大魔王さんがピコ太郎になってブレイクした的なものだと思ってくれて無問題です。

 気になるルディのネタですが、「DOLEMITE」というネタでは、「(ドールマイトは)母ちゃんの股座からひねり出されるや否や、父ちゃんの顔面にパンチをお見舞い! そして、今日から俺がこの家の支配者だ! とカマしてやったぜ!」という鮮やかなツカミからはじまって、「(ドールマイトは)手前ェのイチモツにまたがって大海原を渡ったぜ!」というどぶろっくチックなスケールのデカい下ネタを筆頭に、ここでは絶対に書けない放送禁止用語満載の豪快なエロ話を約9分にわたって語るもの。

 その後、ネタを収録したアルバムを何枚もヒットさせたルディは1974年、47歳になると新たな偉業に挑む。それは映画スターになること。でも、ハリウッドには、四捨五入したら50歳になるポッチャリ体型の下ネタ芸人のルディが入る隙間など1ミリもない……。それなら自分で作ってやる! とルディは自腹で自分主演の映画『ドールマイト』(1975年)の制作を開始! 超低予算映画なので、スタッフは友達や学生アルバイトたち。つまり素人の寄せ集め。それでもルディは観客のハートを掴むために映画の中に空手アクション、お色気、バイオレンス、カーチェイス、下ネタといった彼が信じる「映画に大事な要素」をすべてブチ込んだ。ちなみにルディに空手の経験はない……。

 その結果、完成した映画は、メタボ体系のアラフィフ黒人ルディが、一夜漬けで覚えた微妙な空手技を超ゆっくりと悪党にお見舞いすると、空気を読んだ悪役が倒れ、その姿を見た女性たちは白人・黒人関係なくルディに抱かれたい! となってルディは超満面のスマイルで下ネタを連呼し、悪党たちを皆殺しにするのでした……という僕らが暮らす世界とは常識が違う異次元空間をアピール。しかも、画面の隅には録音部のガンマイクが堂々と映り込んでいる……という当時の批評家が「犬が観る価値もない駄作」とジャッジした、黒いジャイアン・リサイタルのような作品であった。が、しかし、アフロアメリカンはシャレのわかる方が多い人種なので、『ドールマイト』は大ヒット! 現在では、ニューヨーク・タイムズから「ブラックスプロイテーション・ムービー界の『市民ケーン』」と評されるだけでなく、世界規模で違いのわかる人々たちから愛されるカルト映画となり、ルディも伝説の芸人としてリスペクトされている。

 そんな彼のことをエディ・マーフィが映画化しようと思ったのは2003年。その前年、エディはSFコメディ『プルート・ナッシュ』、人気ドラマのリメイク作『アイ・スパイ』、念願のロバート・デ・ニーロとの共演作『ショウタイム』という気合の入った3作に主演したが、すべて不評の連続コンボ……。そして、3作まとめてラジー賞の最低男優賞にノミネートされてしまう。そんな心をズタズタにされた時に彼は、長い不遇時代から自分のセンスを信じて、自力でチャンスを掴んだ先輩芸人ルディの映画化を思い立ったのである。そして17年の時をかけて完成した映画はエディ・マーフィの完全復活ぶりを示しただけでなく、負け犬たちへのこれ以上なくらい笑って泣ける応援歌となっている。

●今こそ見返したい『ビッグムービー』

「負け犬が奮闘する、ってのは映画にとって万国共通のテーマだよ!」

 これはエディが『ビッグムービー』(1999年)に出演した時の発言だ。そう語るように、『ビッグムービー』も負け犬が奮闘する様を描いた映画。しかも、『ルディ・レイ・ムーア』と同じく、主人公がなけなしの金で映画製作に乗り出す、というテーマも一緒! とにかくクレイジーな敗者復活戦が展開されるので、『ルディ・レイ・ムーア』でエディに注目した方には是非、オススメしたい逸品。まずキャスト&スタッフが素敵ですから。監督を務めるのは『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(1980年)でヨーダのパペット操演と声を担当して以来、シリーズでヨーダの声を担当しているフランク・オズ。脚本はエディと共に主演も務めるスティーヴ・マーティン。共演はロバート・ダウニー・Jr.。

 マーティン演じる主人公は、ハリウッドのド底辺にいる売れない自称・映画監督。物語は、彼がエディ・マーフィ演じる大物アクションスター主演のSF映画を監督する姿を描く……という書き方で間違いないのですが、その撮影スタイルがあまりに常軌を逸している。まず、マーティンは素人同然の身なので、エディに出演依頼などできない。金も人脈もないマーティン監督は、乾いた雑巾から水滴を絞り出すように知恵を出して、“俺ジナルすぎる秘策”を思いつく。

 それは――エディ主演の映画を彼に内緒で撮影すればイイ。つまり、エディの出演場面はすべて盗撮。エディのリアクションが欲しい場面では、プライベートのエディのもとに役になりきった出演者がアポなしで突撃。そして、アタフタするエディの様子を盗撮すればオッケーでしょ! というわけで、どう考えてもアウトすぎる映画撮影がスタート! しかも彼らが撮るのは宇宙人による地球侵略モノ。

 そんなわけで、オフの日のエディがカフェでくつろいでいると突然、見ず知らずの女性が押しかけてきて、「あなたは宇宙人への愛を優先させた!」と烈火のごとく意味不明な説教して、風のように去っていく。そんな状況が度重なった結果、エディの頭の中はこれ以上ないくらい混乱していく……って、どうです? 一寸先が読めない素敵な物語ですよね? ネタバレになるので書きませんが、エディの喜劇王としてのスキルが最大限にスパークした作品であることはお約束します! しかも、本作も『ルディ・レイ・ムーア』に負けないくらい気持ちが晴れやかになるラストが待っているので、最近疲れている方は是非!(ギンティ小林)