“女性の犯罪映画”はどのように生まれた? 『ハスラーズ』監督が語る、J.Loのプロデュース力
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2019年秋、アメリカでロングヒットを記録した『ハスラーズ』。ニューヨーク・マガジンに掲載された記事「The Hustlers at Scores」をもとに製作された本作は、2008年のリーマン・ショック後、困窮したニューヨークを舞台に、ストリップクラブで働く女性たちが、世界最高峰の金融地区ウォール街の裕福なサラリーマンたちから大金を奪う計画を企てる模様を描いた犯罪映画だ。プロデューサーでもあるジェニファー・ロペスと、『クレイジー・リッチ!』のコンスタンス・ウーがダブル主演を務めている。
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まもなく授賞式が開催される第92回アカデミー賞では、ノミネートを逃すこととなったジェニファー・ロペスだが、ゴールデングローブ賞をはじめとした前哨戦では、助演女優賞部門で高く評価された。女性ストリッパーたちのリーダー的存在ながら、ただ「強い女性」なだけではなく、男性を性的に誘惑しながら犯罪に手を染めていく一面も持ったラモーナという複雑な役柄を、見事に体現してみせたジェニファー・ロペス。劇中では、華麗なポールダンスも披露している。
カーディ・Bやリゾなども出演し、多様な魅力を持った女性キャストをまとめあげたのが、ローリーン・スカファリア監督。アメリカで絶賛された理由やキャスティングの裏側まで話を聞いた。
■「誰もが主役を張れるような存在感」
ーー『ハスラーズ』は、アメリカで大ヒットし、数々の映画賞にもノミネートされましたが、この反響についてはどう受け止めていますか?
ローリーン・スカファリア(以下、スカファリア):まさかこんなに反響があるとは思っていなかったので、圧倒されています。私は最初、脚本だけで参加するつもりだったのですが、監督も担当することになり、この映画を制作する過程がとても大変だったので、こんなに多くの人たちに観てもらえていることが嬉しいです。きっと、観客が登場人物たちに共感してくれて、自分たちの葛藤や苦しみ、フラストレーションを登場人物たちの中に感じてくれたのだと思います。人気の理由の一つとしては、ストリッパーやその世界には偏見があるけれど、本作ではそれが裏切られることで驚きがあるからではないかと考えています。ジェニファーのパフォーマンスも素晴らしいので、そういったところも認められているのではないでしょうか。
ーージェニファー・ロペスはプロデューサーとしても本作に携わっていますね。
スカファリア:脚本を書いている段階では、ジェニファーをキャスティングしようとは思っていませんでした。私が監督をやると決まってから、ラモーナはジェニファーにやってほしいと思うようになったんです。そうしたら彼女がこの作品をすごく気に入ってくれた。彼女自身がもともとプロデューサーとして優秀で、ストリップクラブの世界を映画で描くことは珍しいからプロデューサーとしても関わりたいと言ってくれて、兼任することになりました。ジェニファーがニューヨーク出身なのもあって、俳優としてもプロデューサーとしてもこの映画が何を伝えようとしているのかを理解してくれました。特にこだわったのは、エントランスの登場シーン。彼女はプロデューサーとしても女優としても現場をコントロールしながら、さらに過酷なトレーニングもしてあのストリップダンスのシーンに挑んでくれました。ある意味、スポーツムービーを撮るような感じで、こだわって撮影したシーンなんです。
ーーW主演のコンスタンス・ウー、そしてカーディ・Bやリゾなどのポップスターも登場するなど、豪華な出演者が揃いました。キャスティングはどのように行っていったのでしょうか?
スカファリア:今回のキャスティングでは、多様性のある個性あふれる俳優たちに出演してもらいたいという願いがありました。リゾやカーディ・Bはポップアイコンでもあり、彼女たちの言動やパフォーマンスが若者たちに影響を与えていて、出演者誰もが主役を張れるような存在感のある俳優に出演してほしかった。実は、リゾやカーディ・Bが本作に参加したのは、ジェニファーがプロデューサーであることが大きく影響しているんです。
■「実はみんなが資本主義の価値観に加担している」
ーーコンスタンス・ウーとトレイス・リセットは、ハリウッドにおけるアジア系やトランスジェンダー俳優の地位向上についてオピニオンを発信している存在でもあります。そんな彼女たちと一緒に仕事をして感じたことがあれば教えてください。
スカファリア:コンスタンスやトレイスと同じように、今は色々な人たちが広義的な視点で物事を考え、多様性を持つことがとても大事だと感じています。ハリウッドという芸術が生み出される場所で、様々な視点が映画の中に反映されるということは、社会的にもいい流れだと思っています。
ーーストリッパーという職業は、差別や非難を受けやすくもあると思います。本作では、経済的な理由からストリッパーにならざるを得ない状況を描きながらも、彼女たちが仲間同士で連帯して楽しそうに踊る姿が、とても魅力的に感じました。
スカファリア:ストリッパーを描く上で、下品なイメージにならないようにとても気をつけました。あなたが言う通り、彼女たちはストリッパーであることで、実生活では差別を受けたりしています。ですが、私の高校時代の友人には学生ローンを払うためにストリッパーをやっていた子もいたり、彼女たちにはそれぞれに様々な事情があるんです。そういう意味では、社会から誤解されている人たちも多い。ですから、本作においては、実際のストリッパーたちと会い、より現実に近い世界を描きたいと思ったんです。ストリッパーの世界は女性がコントロールしている世界なので、カメラの動かし方など撮影の仕方も意識しました。ラモーナのエントランスのシーンもそれを意識していて、彼女は観客も含めて全ての人の視点をコントロールしているんです。
ーー「この国全体がストリップクラブだった」というラモーナのセリフが印象的でした。2008年のリーマン・ショックを背景とした作品を今作ることにはどんな意義を感じていますか?
スカファリア:この映画ではストリップクラブが一つの世界を表していて、女性がストリップの仕事で偏見を受けている。映画ではそういった価値観や、実はみんなが資本主義の価値観に加担しているということに対して疑問を呈したかったんです。
(取材・文=若田悠希)