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Karin.、熊川みゆ、湯木慧、みゆな……女性シンガーソングライターたちの赤裸々な感情表現

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 いつの時代であろうと「シンガーソングライター」は現れる。自分にしかわからない気持ちを、やむにやまれず手にした楽器と歌を武器にひとりで音楽にし発信するという本質は変わらないからだ。表現のフィールドはライブハウスからTikTokまで広がったし、使うツールもギターからDAWまで多様化したが、その分、個々の表現は研ぎ澄まされ、そこには鋭敏な孤独と苦悩がヴィヴィッドに描き出されている。

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 たとえば、熊本出身の18歳で、3月4日に初のCDリリースとなる1stアルバム『Phantasm』を控えた熊川みゆ。アコースティックギターを主体としたサウンドと、洋楽的なテイストの強いメロディと譜割りに、力強い歌が乗る。幼少期から学んできた民謡(全国大会への出場歴もある)を通して培ってきた発声と表現力には、聴く者の耳を一瞬にして奪うパワーがある。〈変わらないものなんてなくて 僕等残酷に変わってくけど/忘れたくないんだ 忘れたくないんだ〉(「sixteen」)の10代後半の葛藤やゆらぎをストレートに刻んだ歌詞は、シンガーソングライターという表現の原点を思い起こさせる。

 その点、より幅広い領域で表現を追求しているのが大分県出身の21歳、湯木慧だ。彼女の最大の特徴は、イラストやペインティング、インスタレーションといった表現も音楽同様に位置づけて活動しているところだろう。その作品を見ると、彼女の音楽とまったく同じ感情が渦巻いていることに驚く。そして、音楽においても彼女の表現は視覚的だ。弾き語りをベースにしながらもそこに色を塗りたくっていくように施されたアレンジの筆跡が、彼女の激情を浮かび上がらせるのだ。

 宮崎県出身の17歳、みゆなもおもしろい。彼女の場合、自作曲と提供された楽曲の割合が半々なので「シンガーソングライター」と一括りにしてしまうのは少し語弊があるのだが、特筆すべきは自分の曲だろうと誰かの曲だろうと自身の表現として貫通してしまうその声だろう。歌詞の中では17歳とは思えない大人びた情景を描く彼女ではあるが、一方でその根底にあるのは〈この暗い世界に/一つだけでも良いから/幸せはありますか?〉(「color」)という切実な訴えだ。そのピュアな感情が多彩でハイクオリティな意匠をまとったとき、幅広い層に刺さる極上のポップスに生まれ変わる。

 そして、もうひとり。ここに挙げた中でもいちばん「原石」的であり、その分鋭く尖ったきらめきを放つ表現者がいる。茨城から現れた現役高校生シンガーソングライター、Karin.である。

 2001年5月生まれ、今年3月に高校を卒業する18歳。初めてライブをやってからわずか1年、昨年8月にアルバム『アイデンティティクライシス』でデビューを果たしたKarin.。その歌は、まるで彼女の人生そのもののように成長を続けている。同世代にとってはもちろんリアルなものだが、それ以上の普遍性を彼女の歌は持っている。それはなぜか。

 子どもと大人の両方の顔をもつ声質、ロックチューンからバラードまでを乗りこなすメロディセンスなど彼女のストロングポイントはいくつもあるが、やはり特別なのはその歌詞……というより、楽曲に歌い込まれた感情とそれを見つめるKarin.の視点の切れ味だろう。彼女は日常生活を送る中で自分や相手に起きた小さな感情のさざ波を見逃さない。

 〈白色のコンバースを履いた君は/みんなよりも大人に見えて〉と歌う「白色のコンバース」、〈別れよう』って言うだけなのに/電話しても繋がらない〉という「貴様に流す涙なんて」。日常で目にしたふとした情景に、Karin.は深く深く潜っていく。そしてそこに秘められた激しい感情やボロボロの愛を見つけ出す。それは大人とか子どもとか、男とか女とか、そういう対立を超えるものだったりする。

 前作から半年というスパンでリリースされた新作『メランコリックモラトリアム』には、『アイデンティティクライシス』から格段に拡張された彼女の視野を感じることができる。〈ごめんね 昨日の僕よ/生きる理由がわからなかった〉と自分に語りかける「命の使い方」、〈何年経っても変わらない〉と言った後で〈何年経っても変われない物なんて〉と付け加える「藍錆色の夕日」、〈愛や悲しみと痛みは全部昨日に置いていく〉と歌う「残灯、夜に消える」に、終わった恋を過去に葬り〈歌わせてよ この悲しみも歌にできるから〉と前を向く「髪を切ったら」――否応なしに未来へと背中を押される18歳という年齢と、ライブやバンドでのレコーディングなどデビュー以降に経験したすべてによって見る世界が広がり、ある意味で狭い「学校」や「教室」という世界の中にあった視点はより広がりを持ったものになりつつある。この3月に高校を卒業するという彼女。これからもっと大きな歌を歌うアーティストになっていくだろう。

 シンガーソングライターの表現の素晴らしさは、個人的な感情や体験が、ときに世代を代表し、世の中の仕組みを暴き、ポップミュージックとしての普遍的な力を手にする瞬間にあると思う。その意味で、〈狭すぎる四畳半〉(「青春脱衣所」)から出て大きな世界の中で歌い始めたKarin.の本領が発揮されるのはこれからだ。メロディのポップさや耳に残る声の個性、そしてシンプルな言葉で思いをストレートに表現するタフさ。そのメッセージを、まだまだ多くの人の耳と心が待ち望んでいる。まずは『メランコリックモラトリアム』で、彼女の「はじまり」を感じてほしい。(小川智宏)