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圧巻の60分長回しの3Dワンシークエンス。中国新世代の異才に訊く

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ビー・ガン監督

いま世界で注目を集める若き映画作家のひとりといっていい中国のビー・ガン監督。『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』は、彼にとって長編2作目になる。

実際に彼が世界から注視されたのは2015年に発表した長編デビュー作『凱里ブルース』でのこと。この作品は、ロカルノ国際映画祭をはじめ数々の映画祭で受賞を重ね、批評家から高い評価を得た。ビー・ガン監督本人はデビュー作の成功をいまこう振り返る。

「制作費用の少ない小規模な作品で、私自身も大学を卒業してまだ間もないころ。そんな新人の小さな作品が、世界のさまざまな映画祭をめぐり、一定の討論がなされたことは光栄なことと受け止めています。こうした論争を起こすことが、ものをつくる人間のひとつの役割でもありますから。ただ、世間一般でいう成功に関してはあまり興味がないというか。そもそも、なにをもってして成功とするのかよくわからない。僕の中での成功の定義は、撮りたいものがとれたかどうかだけなんです。作品において、僕の役割は、変なたとえになりますけど、爆破要員というか。その作品にすべてを集中して、自分の情熱を最大限スパークさせればいい。自分のあらゆることを作品に注ぎこんで爆破させれば、自分の任務は終わったといっていい。だから、作品ができて提示したあとのことはあまり考えない。自分が思い描いた映画が作れていればいい。なので撮り終わったあとは身を隠します(笑)。評価はあくまでみなさんに委ねるだけです。まあ、でも、いろいろと自分の作品が議論されることはとてもうれしいことです。みなさん、ほかにも多種多様な映画がある中、貴重な時間を使って、僕の作品をいろいろな角度から検証してくれているわけですから」

そこから第2作へ向けては少し休憩をとったという。「爆破終了後は(笑)、半年以上の休息をとりました。長編映画を作るということは、体力面、精神面、ダブルで擦り減ってしまい、ものすごく疲弊します。いろいろな映画作家さんがいらっしゃいますから、各人それぞれに違うと思うのですが、私の場合は、一定の期間を置かないとアイデアがわいてこない。疲れ果ててしまうと、映画に対する感覚がマヒしてしまう。ひとつの作品で、すべてを出し尽くしてしまう。だから、映画を撮り終えたあとは、ほとんど空っぽの状態。しばらく映画を作れるまで回復する時間が必要なんです。そのように1作ごとに、すべてを出し尽くした監督でありたいとも思っています」

休養期間を経て、今回の脚本に取りかかった。「ずっと休んでいるわけにはいかないですからね(笑)。十分な英気を養ってから、パソコンを開いて、脳裏に浮かんだ映画のタネともいうべきアイデアを半年ぐらいかけて打ち込んでいきました。私の場合、最初になにか思いついたようなおおよそのストーリーがあるわけではありません。『凱里ブルース』のときは“時間”、今回は“夢と記憶”といった核となるテーマがどこからか出てきて、それに心が決まると、まつわるものを統合していって、ひとつのストーリーを作るようなスタイルです。自分の脳裏には、映画になる前のインデックスのようなものがあって、そこに映画のアイデアがストックされている。そこから引っ張りだしてくる感じですかね」

脚本は、撮影に入ってもほぼ変更しないぐらい、ほぼ完璧に仕上げるという。「撮影に入ってから、新しい考えが浮かんで変更することはほぼないですね。変える場合があるとすると、客観的な判断と現実的な問題でどうしても変更せざるを得ないとき、特別によいアイデアがあって、そうしたほうが絶対にいいという核心を得たときはしますけど。完璧に仕上げてはいますが、足りないと思うこともあります。その場合、付け加えることを恐れることはありません。もちろん、そうすることでベストになるのか、最後まで見極めることを怠ることはありません。ひとつ間違えると大きな代償を支払うことになりかねませんから」

その物語は、長い間、故郷を遠ざけていたルオが主人公。父の死を機に彼は、故郷の凱里へ帰ることに。そこで、彼はかつてのマフィアに殺された幼なじみや自分を捨てた母の記憶などがよみがえり、それらの断片を集め、さすらう。そして、運命の女性の面影を追い、現実と夢と記憶が交錯する世界へと迷い込む。

この主人公と同様に、こちらも現実とファンタジーの世界の狭間を往来するよう。不思議な夢と記憶の世界へと誘われる。そして、すでに大きな話題となっている後半、60分の長回しによる3Dワンシークエンスショットの驚愕の映像が用意されている。「まさに現実とファンタジーの狭間、そこにある曖昧さやレイヤーを表現するには、2Dから3Dにすることが必要だった。夢のようで、夢ではない。夢なのに、どこかリアリティのある、夢に似たある場所を生み出すために3Dにしたんです。

夢と記憶は、どこかつかみどころのないものです。これは僕の習慣なのですが、それを反転して処理できないかと考えたんです。夢がこわれやすいもの、記憶が断片的なものであるとすれば、それがつらなった状態でも、夢や記憶として成立するかに挑んでみたかったのです。記憶と夢にまつわる映画と核心をもった段階で、3Dは必要な映画言語と私は判断しました。なぜなら、人は世の中をみるとき、平面的にみているわけではない。われわれが目をとじて風景をなにかを思い出そうとしたとき、それはどこか立体的であったり、断片的なものであったりする。それはどこか万華鏡のような質感だと思う。そのような表現は3Dこそと思ったのです。私自身は、みるものの感情に揺さぶりをかける効果を発揮していると思っています」

こういうチャレンジを忘れたくないと明かす。「人々が日々の営みで仕事に生活に追われ、自分の時間を有意義に過ごそうとする中で、映画に割かれる時間というのは少ない。だから、わたしは自分の映画は特別な体験になるものを目指している。ただ、だからといって奇をてらったものにしようとは考えていない。あくまで、映画文化がこれまで受け継いできた血筋や水脈を受け継いだものにしたいと考えている。古いながらも新しい映画、それを目指しています」

彼の才能にひきつけられるようにキャストはタン・ウェイ、シルヴィア・チャンら一流どころが集まった。「ありがたいことです。ワン・チーウェンとカイチンは、脚本を書いているときから、素人ではなく、みんなが認識している顔でありたいと思っていて。タン・ウェイを想像しながら書いていたので、出演を承諾していただいたときはうれしかったです。シルヴィア・チャンが演じてくれた白猫の母と赤毛の女に関しても、どこか孤独を抱えながらも、いきいきとした表情もある人がいいと思っていて。想定していたのはシルヴィアでした。彼女は、若手や新人監督をすごくサポートしてくれる映画人。今回の作品で、私は精神的にも経済的にも彼女に支えられました。ほんとうに感謝しています」

坂本龍一、アン・リー、チェン・カイコーら名だたるクリエイターがその才能を評価するビー・ガン監督。そのオリジナルの才能に出会ってほしい。

『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』
2月28日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほかにて公開

取材・文・写真:水上賢治

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