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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

ベルナール・ビュフェ回顧展 私が生きた時代

ビュフェ作品は子供の頃から画集などでよく目にしたので、「人気があるんだなあ」と思ってはいたが、なぜかそれ以上深く知ろうとはしてこなかった。静岡県クレマチスの丘のヴァンジ彫刻庭園美術館を訪れるたびに、ベルナール・ビュフェ美術館にも足を運んでみたいと思いつつ、それも果たせないままビュフェ回顧展に出向く。会場を巡りながら、「ビュフェについて何一つ肝心なことを知らなかった」という事実に唖然としてしまった。 早熟の天才、ピエール・ベルジェの公私にわたるパートナー、ベルジェがイヴ・サンローランの元に去った後に妻アナベルと結婚、そして最も衝撃的だったのは彼の最後が自死であったこと.(なぜこのニュースを知らなかったのだろう。つくづくビュフェとは縁のない人間らしい.....)。 とはいえ無知ゆえに数々の「発見」があった。まずは少年の頃の肖像画の描写力の凄さ。その優れた描写力を捨て、十代後半でビュフェ独特の黒い鋭角的な線による画風を確立し、19歳にしてフランスの批評家賞を受賞。サルトルの哲学やカミュの「不条理」を思い起こさせる社会に漂う人々の不安を写し出すような作風で、一躍時代の寵児となる。宗教画から静物画、風景画、闘牛やピエロ、ドン・キホーテなど主題も広がっていき、無彩色に近い初期作品から鮮やかな色彩の画面へと展開していくが、フランス美術界の関心は具象絵画から離れていき、マンネリと酷評されることもあったという。だが私には逆に、「自己模倣を徹底して嫌った結果」なのではないかと思えた。最後の最後まで自らの限界を押し広げようとしつつ、死の幻影から逃れられなかった画家。晩年はパーキンソン病を患い、ほとんど制作できなくなっていたという。それにしても70才を過ぎての自死とは......。ビュフェと同世代の哲学者、ジル・ドゥルーズの死を思う(彼もまた70才で自ら命を絶っている)。

21/1/9(土)

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