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映画から自分の心を探る学びを
伊藤 さとり
映画パーソナリティ(評論・心理カウンセラー)
茜色に焼かれる
21/5/21(金)
TOHOシネマズ 日比谷
「内面がボロボロなのになんで生きようとするんだ?」。 人生とは理不尽なもので、他者によって精神はどんどん傷ついていく。社会も理不尽でありその人の置かれた環境なんてお構いなしにお金がかかる。尾野真千子の「笑うしかない人生」というセリフはそうしないと生きていけないし、生きている意味なんて分からないけれどとにかく生きていこうとするのが人なのだと思う。映画の冒頭、亡くなった老人サイドは、現代の政治家のように底辺の人々の暮らしも気持ちも理解できていない。 「女はいいよな、最後は体売ればいいんだから」という言葉も当事者の気持ちを理解できていない。それがどれだけ屈辱的な言葉で、実際に屈辱的な行為で、体よりも心がズタボロになっていくと石井裕也監督はカメラを通して気づいている。 優しいピアノのメロディで綴られる色々と背負い過ぎている母と息子の姿。「ごめんね、自分の話ばっかりしちゃって」という言葉が響いた。辛い話ほど人にできない、自分の話なんて面白くもない、だから笑って取り繕って、そうすると一気に重圧がかかるのに、それでも人に負担をかけない存在を選んでいく主人公の女性。気づくことができない人々へ送る小さな思いやりを知る命の物語。
21/4/23(金)