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映画のうんちく、バックボーンにも着目
植草 信和
フリー編集者(元キネマ旬報編集長)
アオラレ
21/5/28(金)
TOHOシネマズ 日比谷
統計的に増加しているのかどうかは知らないのだが、最近やたらと報じられる“煽り運転事件”。ドライブレコーダーの普及で視覚例が多くなっていることも遠因かもしれないが、車社会では誰もが被害者になる可能性のある身近な出来事だから大きな社会問題となっているのだろう。 本作『アオラレ』はその“煽り運転”を題材に繰り広げられるドライビング・スリラー。ラッセル・クロウ演じる社会からドロップアウトしサイコパス化した中年男が、映画の冒頭から狂人ぶりを炸裂させる。驚くべきはクロウの変貌ぶりだ。体形は韓国のマ・ドンソクだが、地獄の底を見ているような凶悪な眼で、人格が“コワレテいる”とすぐ分かる。かつてのデニス・クエイドの発言、「ラッセルは俳優として尊敬できるが人間としてはクズだ」を思い出させる眼だ。 美容師のレイチェル(カレン・ピストリアス)は、今日も朝寝坊してしまい、慌てて息子を学校へ送り届けながら職場へ向かう。ところが、高速道路は大渋滞。赤信号で停止するが、青信号に変わっても前の車が発進しない。クラクションにも反応しないことにイラついたレイチェルは、思わず追い越してしまう。すると、その車を運転していた男(ラッセル・クロウ)が、“運転マナーがなっていない”と謝罪を求めてくる。それを拒否して車を出すレイチェル。 そこから男の“煽り運転”が、レイチェルに襲いかかる……。 監督は『レッド・バレッツ』『幸せでおカネが買えるワケ』のデリック・ボルテ。ドライビング・スリラーの代表作、不条理映画の傑作『激突!』とは一線を画す本作だが、ストレスが蔓延する現代社会が写し鏡になっているところがポイントだ。
21/4/30(金)