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吉田 伊知郎

1978年生まれ 映画評論家

没後二十年記念 アートを越境する― 勅使河原宏という天才

『われらの主役 勝新太郎』(6/5〜6/8、6/11、6/13、6/15、6/17) シネマヴェーラ渋谷「没後二十年記念 アートを越境する― 勅使河原宏という天才」(6/5〜6/18)で上映 1976年から翌年にかけて、東京12チャンネル(現テレビ東京)で放送された『われらの主役』は、各界の著名人を映画監督が撮るというコンセプトの人物ドキュメンタリー。吉田喜重監督による萩本欽一編が第1回で、野村芳太郎監督による渥美清編では、『八つ墓村』の撮影準備中の渥美が金田一として津山三十人殺しの起きた村を訪れて関係者に取材する(!)という気になる内容だったりする。 計14回作られたうち、筆者が観ることが出来たのは、市川崑監督による長嶋茂雄編と石坂浩二編、今村昌平監督の淀川長治編、熊井啓監督の王貞治編、そして勅使河原宏監督が仲代達矢と勝新太郎を撮った回のみ。今回シネマヴェーラ渋谷で上映されるのは勝新編だが、めったに目にする機会のない貴重な上映だけに、勅使河原監督によるTV『新・座頭市』の2話分と共に、ぜひ駆けつけていただきたい。 『われらの主役 勝新太郎』は、大映京都撮影所で『新・座頭市』を撮影中の勝に密着したもので、控室に飛び込んできた勝が付き人にあれこれと指図しながらメイクする姿を鏡越しに映すところから始まり、セットで段取りを行う監督・主演を兼任する勝新太郎を垣間見せてくれるのが貴重。 勝と勅使河原は、この番組以前に『燃えつきた地図』で初めて組んでいたが、これは勝からの指名だった。とはいえ、お互いの作品を観たことがなかったという。勅使河原は『座頭市』を1本も観たことがなく、武満徹が立ち回りをアクション入りで再現するのを眺めて想像を膨らませていたという。そのせいで実物を目にしたときは少々幻滅したというが、後に『新・座頭市』を勅使河原が監督した際には、自分が想像していた座頭市を実現させるという思いが、あの異形の傑作を生んだのではあるまいか。 その意味で本作は、〈勅使河原版・座頭市〉へ向けての現場視察とでもいうべきものだが、本作で勝は、「自分が監督するようになったのはテシさんの現場を見たからだ」と、その影響を率直に告白している。実際、両者の作品を比較すれば一目瞭然でもあるのだが、そんな関係にあるものだから、ふたりのウマが合うのは画面上でやり取りする姿を見てもよく分かる。 ロケ場所への移動に、勝新が座頭市の扮装のまま勅使河原を助手席に乗せて運転する姿がなんとも微笑ましいが、そのせっかちな運転ぶりもさることながら、そこで語られる内容は、ふたりの作家性を象徴するものだけに、よく耳をすませて聞いていただきたい。そしてロケ地に到着して撮影が始まると、勅使河原は瞬時にカメラ位置を決めて、座頭市から勝新太郎へと切り替わる一瞬を切り取ってみせる。その鮮やかな映像と空間への反射神経は、まさに〈監督・勝新太郎〉の師に相応しい。

21/6/7(月)

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