世界最高のピアニストのひとりに数えられる内田光子が、コロナ禍の日本にやってくる。この公演の実現はまさに僥倖以外の何物でもないだろう。しかもプログラムの中心に据えられているのは、ベートーヴェンの大作「ディアベリ変奏曲」だ。
J.S.バッハの「ゴールドベルク変奏曲」と並び称されるこの名作が作曲されたのは1823年。ベートーヴェンが死の前年に完成させた傑作だ。楽譜商ディアベリが自らのメロディをベースに同時代の多くの作曲家に変奏曲を依頼したところが、ベートーヴェンは33の変奏曲を1人で書いてしまったといういわくつきのこの作品。
ディアベリの稚拙なメロディがベートーヴェンの手で大きく変貌する姿を最高の名手の演奏で体験できる、稀有な瞬間を味わいたい。