カンヌ国際映画祭でパルムドールと最優秀女優賞(ビョーク)をW受賞したデンマークの奇才、ラース・フォン・トリアーの傑作ミュージカルが4Kリマスターで劇場再リリース。となればもう、絶対に劇場で観ないわけにはいくまい。
本作は残酷なエンディングばかりが取り沙汰されがちだが、わたしにはむしろ、歌と踊りのシーンのスペクタクルや独創性に興奮したインパクトの方が強かった。とくに現実的な場面からミュージカルに移行する際の創意。観る者はヒロイン、セルマの心に入り込み、彼女と同じ音を聞き、リズムを感じ、その想像の世界をともに飛翔させられる。
さらにビョークの、演技を超えた驚くべき佇まい。彼女のひとつひとつの表情、内からほとばしる歌声と動き、そこにある真実には、深く心を動かされずにはいられない。まさに映画史に残る奇跡としか言いようがない作品だ。