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柔軟な感性でアート系作品をセレクト

恩田 泰子

映画記者(読売新聞)

エッシャー通りの赤いポスト

映画は誰のものなのか。園子温監督が俳優ワークショップの一環として受講者51人(697人の応募者の中から選ばれし「無名」の役者たち)と共に作ったこの青春群像劇は、そのことを鮮やかに映し出す。 物語は現実と微妙に重なる。鬼才監督が新作映画の出演者を広く募集し、オーディションで数々の刺激的な才能を見つけ出す。だが、映画を自分のものだと思っているエグゼクティブプロデューサーは理不尽なオーダーを出してくる。 設定、衣装、小道具、人名、場所。観ていると、そこかしこに園監督の映画の記憶がちらつく。過去作の登場人物とどこかしら似た人物も多く、最初はミームの集合体のようにも見える。だが、役者たちはいつしか役を我がものにして走り出す。後景から前景へ躍り出る。誰かが決めた主人公を吹き飛ばして世界を反転させる。 本作の試写が行われた時、園監督と共にあいさつした出演者の中に「51人全員が主役」と言った人がいて、蓋をあけてみれば本当だった。むろん役には軽重があるが、この映画においてその他大勢はその他大勢ではない。観客である私たち一人ひとりと同じように。 映画を我等に。思えば園子温という監督は、そのために走り続けてきたのではないか。歩行者天国やスクランブル交差点を突っきってきたのではないかとも思う。ともかくこの映画は我等の映画。そう信じたくなるのだ。

21/12/21(火)

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