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文学、ジャズ…知的映画セレクション

高崎 俊夫

フリー編集者、映画評論家

MONK モンク

「没後40年 セロニアス・モンクの世界」ー『MONKモンク』『モンク・イン・ヨーロッパ』 セロニアス・モンクは〝バップの高僧〟とか〝孤高の芸術家〟と称され、リズムとアクセントの位置をずらすような独特の奏法で知られたジャズ史上、類のないピアニストだ。「ラウンド・ミッドナイト」「ブルー・モンク」などのスタンダードナンバー作曲家でもあり、かつてジャズ狂のクリント・イーストウッドが『セロニアス・モンク/ストレート・ノー・チェイサー』(1988) というドキュメンタリーを製作したことからもわかるように、ジャズファンの間では伝説的な存在と言ってよい。 今回、没後40年を機に公開される二本のドキュメンタリーはライブで突然、踊り出すといった奇行や数々の謎めいたエピソードで知られるセロニアス・モンクの魅力に迫った中篇である。 『MONK モンク』はまさに夢想家のようにステージで踊るモンクをとらえた映像で始まる。この作品の最大の見どころは、伝説的なパトロンであるニカ男爵夫人とモンクが談笑する光景だろう。チャーリー・パーカーが変死したのは彼女のニューヨークのアパートだったことはあまりにも有名である。ロスチャイルド家の血筋を引く、この白人女性は熱烈なジャズファンで、人種差別が酷かった1950年代から黒人ジャズメンたちに惜しみない経済的な援助を行っていたことで知られる。それゆえ、ホレス・シルヴァーは「ニカの夢」、ジジ・グライスは「ニカズ・テンポ」、そしてモンク自身も「パノニカ」という名曲をニカに捧げている。ふくよかなアニタ・オデイといった風情を漂わせるニカと冗談をかわすモンクがなんとも微笑ましい。 モンクとは一時期、名コンビで数々の名盤を生んだテナーサックスのチャーリー・ラウズは私が大好きなミュージシャンだが、絶頂期のラウズのゴキゲンなプレイをたっぷり聴けるのも嬉しい。 『モンク・イン・ヨーロッパ』は、1968年に行われたヨーロッパツアーのドキュメント。フィル・ウッズ、ジョニー・グリフィンといった豪華なブラスセクションを従えて、ロンドン、ストックホルム、コペンハーゲン、ベルリン各地でのステージの模様が活写されている。ヨーロッパでは黒人ジャズメンが深い尊敬をもって遇されているだけに、市街を遊歩するモンクもくつろいだ柔和な表情をみせる。クラーク・テリーの快活なトランペットをフューチャーした「ブルー・モンク」が、セロニアス・モンクならではの思索的かつダイナミックなタッチが横溢しており、全篇中の白眉である。

22/1/3(月)

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