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古今東西、興味のおもむくままに

藤原えりみ

美術ジャーナリスト

Viva Video! 久保田成子展

1964年に渡米し欧米で活動展開していたため、原美術館(1992年)や鎌倉画廊(1998年)での個展、あるいはマルセル・デュシャンや1950年代から70年代にかけての前衛芸術に焦点を当てた企画展を除けば、日本で彼女の「ヴィデオ彫刻作品」を体験できる機会はそう多くはなかった。私自身、フェミニズムアート・パフォーマンスのひとつとして有名な「ヴァギナ・ペインティング」は知っていたものの、実際にヴィデオ彫刻をまとめて体験したのは本展が初めて。 東京教育大学(現筑波大学)で彫刻を学び、抽象的な彫刻作品を制作。26歳での初個展に際して展覧会評を期待するも一本の記事もなく、男性中心主義の日本の現代美術界に見切りをつけ、翌年渡米。フェミニズム運動とも連携し、体制批判や従来の常識を覆す前衛的・実験的な活動に積極的に参加していく。渡米前に東京で将来の夫となるナムジュン・パイクの知己を得るが、彼は彼女の初個展を高く評価していたという(さすがパイク。先見の明あり!)。 1972年にSONYのヴィデオカメラを入手、ヴィデオ映像作品を発表し、1975年からは立体構造物に映像を映し出すTVを組み込む「ヴィデオ彫刻」を制作。水やプラスティック鏡、モーターなどを組み合わせ、鑑賞者が映像だけでなく光と動きを取り込んだ空間全体を体験できる作品形式を確立した。抽象的で堅固な立体構造物の形状と、壁や床に反射する映像の光と色彩の戯れは、作品の物体性を超える異空間を出現させる。 久保田は、TV装置の映像上映だけでは鑑賞者の意識は視覚情報に集中してしまい、鑑賞者の身体が置き去りにされてしまうと考えたのではないだろうか。電子的メディアである「映像」とともに、極めて古典的な概念としての物質性を備えた「彫刻」に立ち返ることによって、久保田独自の創造世界が美しく完結する。作品体験は驚きに満ち、斬新で、そしてどこか瞑想的ですらある。久保田もまた草間彌生やオノ・ヨーコ、石岡瑛子、小池一子など太平洋戦争中に少女時代を過ごした女性表現者たちに名を連ねる強者のひとりであると実感。このタイミングで作品体験できたことに改めて深謝。

22/1/6(木)

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