才能と名声を欲しいままにしてきた名監督も老いには勝てないが、クリント・イーストウッドだけは違う。74歳のときに『ミリオンダラー・ベイビー』(04)で2度目のアカデミー賞の作品賞と監督賞を受賞した後も、91歳の今日まで社会派映画からミステリー、実録モノ、音楽映画まで多彩なジャンルの傑作をコンスタントに発表。その期待と信頼は、監督デビュー50周年、40作目のメモリアル・ムービーとなる本作でも裏切らない。
イーストウッド演じる落ちぶれた元ロデオスターのマイクが少年と旅をしながら心を通わせていく物語は、ある事情で少年を誘拐する導入部やそこに関連した逃亡劇こそ奇抜だが、あとは極めてシンプルなロードムービーの趣き。マイクが少年に大切なことを教え、彼もまた少年との旅を通して再生していくささやかな展開なのに、現在のイーストウッドの肉体を通して伝えられるからなのか、マイクの言動の数々が観る者の心にじんわりと染みてくる。
『グラン・トリノ』(08)にも通じるものがあるが、本作ではラストに自分へのプレゼントとも思えるロマンチックなシーンを用意。イーストウッドがやるから、それもまたチャーミングなのだ。